弥生(岡本浩一郎社長)とマイクロソフト(樋口泰行社長)が、従業員20人未満の小規模法人と個人事業主向けのIT化促進で「最強タッグ」を組んだ。同規模の会計市場でトップの弥生と、創業時から積み重なった同市場での“失敗ノウハウ”をもつマイクロソフト。両社が知恵を出し合い、難攻不落な小規模市場に挑む。「弥生会計」を「Windows Azure」を使って「弥生SaaS(仮称)」化する話題ばかりが先行している。だが、どの国内業務ソフトベンダーもなし得ていない小規模市場の「攻略」。これを果たせるかどうかをみていく必要があるだろう。
今回の協業は、弥生の取引先である家電量販店のセミナー室を借りるなどして、公認会計士などを講師に招き、業務へのIT利活用の啓発活動を行うことなどから開始する。弥生の岡本社長は「まずは、とても地道な活動が主になる」と、“特効薬”はないとしたうえで、トップメーカーでありながら「1社では限界がある。マイクロソフトのリソースと知恵を借りる」(同)と、従業員20人未満の企業に対する取り組みに手詰まり感があることを認める。
ただ、国内の小規模法人・個人事業主を攻めあぐねているのは、弥生に限ったことではない。弥生によれば、従業員が1~19人未満の企業のうち、会計業務を「手書き」で行っているのは39%で、「弥生会計」などの業務ソフトの利用率は26%でしかない。
この数字については、他の業務ソフトベンダーから、自社のライセンス契約数から推論しての異論はあるようだ。しかし、同規模の企業がITで会計業務を行う「自計化」率は、6割に満たないという声が大勢だ。マイクロソフトのITインフラと弥生の業務インフラのノウハウが融合すれば、「業務に直結したIT化促進ができる」(岡本社長)というが、具体的な勝算を見出すことができていない。両社で協業内容を一つひとつ実行していくなかで、「セールスチャネル(販売網)が生まれてくる」と考えている。
「Windows Azure」環境で「弥生会計」などのSaaS化は、販売網を築くのと同時並行で進める。コスト低減や利用の簡素化などメリットは大きいが、どんなによい製品でも、SaaS化しただけで売れるわけではないからだ。
岡本社長は、将来的な『弥生SaaS』像についてこう語る。「クイックブックスのようなモノだ」と。「クイックブックス」とは、米国で圧倒的なシェアを誇り、弥生の前身であるインテュイットが1990年後半に日本語版を発売した小規模向け業務ソフトだ。このソフトでは、仕訳の知識がない人でも請求書の入力や入金処理をすれば、自動的に仕訳できる。「弥生SaaS」の詳細は不明だが、弥生が創業以来求め続ける理想像は変わっていないようだ。
マイクロソフトは、昨年9月に国内で開始した新プログラム「マイクロソフト・パートナー・ネットワーク(MPN)」を今年9月に本格展開する。数を集めることに終始してきた同社のパートナー制度は、提案型で「売る」ことができるパートナーに収斂される。両社による地道な“地上戦”とクラウドによる“空中戦”で、小規模市場を打開できるかどうかを注目したい。(谷畑良胤)