【上海発】BCNは5月27日、中国に拠点を置く日系企業のIT資産管理やコンプライアンス(法令遵守)をテーマに、「BCN主催セミナー in上海」(共催:マイクロソフト中国/クオリティソフト上海/大塚商会上海)を、中国・上海市内のホテル「王宝和大酒店」で開催した。セミナーには、日系企業のIT担当者やITベンダーの現地関係者ら40人が参加。不正コピーではなく、正規版ソフトウェアを使う「正しいソフト利用」の方法や、中国でソフトを購入・利用する際の問題点を洗い出し、解決策を導き出した。参加者は、講演やパネルディスカッションに熱心に耳を傾け、IT利用上の新たな課題を見出していた。

活発な議論が交わされたパネルディスカッション。左からマイクロソフト中国の原義弘日系企業担当BDMジャパンセールスディレクター、クオリティソフト上海の飯島邦夫総経理、大塚商会上海の岩宮宏総経理、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の魏鋒上海事務所所長、リコー中国の中島崇信息系統部副総経理、三洋電機中国の廣瀬英樹IS推進室室長
JETRO
志村・経済信息部部長
ACCS
魏・上海事務所所長
大塚商会上海
岩宮・総経理対中投資の“潮目”に変化
セミナーは、「中国における日本企業様向けIT資産管理、コンプライアンスセミナー」と題し、中国におけるIT・コンプライアンスの現状について、中国市場のリサーチや著作権保護の専門家の講演と、IT資産管理やソフトウェアのコンプライアンスを守るツールやプログラムを提供するメーカーが対応策を指南。日系企業のIT担当者やSIerが参加し、「日系企業の中国拠点におけるパソコンとソフトの利用状況や問題点」をテーマにパネルディスカッションも行った。
最初に登壇した日本貿易振興機構(JETRO)の志村和俊・経済信息部部長は、「最近の対中直接投資をめぐる動き」と題し、リーマン・ショック以降に“潮目”が変わり、日系企業が再び対中投資に傾いている現状を解説した。
JETROの「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(有効回答935社)によれば、対中投資は2008年から09年にかけては微減。それでも、「新規ビジネスを検討している国」として76.8%が中国を挙げた。ただ中国進出に際して抱くビジネス上のリスクとして、6割弱が「知的財産権の保護」と答えている。志村経済信息部部長は「中国には目に見えないモノに対価を払わない風潮がある」として、これらの不安を解消していく必要を訴えた。
これを受けて、コンピュータ著作権協会(ACCS)の魏鋒・上海事務所所長が、中国の知的財産権保護とコンプライアンスの実態について報告。「WTO加盟の頃から法律体系は強化されている」と述べ、注意を喚起した。中国政府の国家版権局が主導して、06年には「企業ソフトウェア正規版化の推進」に関する法律が公布され、「大型企業に重点を置き、国有、外資、民営大型企業の順で、問題企業の洗い出しをしている」という。
マイクロソフト中国
原・ディレクター
クオリティソフト上海
飯島・総経理
リコー中国
中島・信息系統部
副総経理
三洋電機中国
廣瀬・室長IT資産管理の徹底を訴求
中国にある日系企業の事業所の場合、確信犯的に不正規版のソフトを使っているケースは少ない。「日本国内だけで使用許諾を得た製品やオープンライセンス製品は、海外で使えず、ミスライセンスであることを知らない」と語るのは、マイクロソフト中国の原義弘・日系企業担当BDMジャパンセールスディレクターだ。
原ディレクターは、「ミスライセンス」に陥る例として以下の三つを挙げた。(1)フルパッケージ製品やオープンライセンスなど日本国内のみに使用許諾されるライセンスは海外で資産登録できない(2)日本で企業包括契約した場合、契約時に使用国指定(この場合は中国)が行われていないケース(3)ハードウェアバンドル時だけに購入できるはずの「COEMパッケージ(システムビルダー製品)」を単体ディスクで買ってしまい不正規版と見なされるケース──。さらに、何より「中国の未認定ローカルベンダーが安価で不正規版を提供し、知らずに購入してしまうケースが起きている」と、危機的な状況を語った。
マイクロソフト中国では、「Get Genuine Solution(GGS)正規化改善プログラム」を用意し、現在使用しているOSが不正規版か否かをウェブで検査するサービスを提供。万が一不正規版の利用が発覚した場合でも、フルパッケージやオープンライセンスよりコストを大きく抑えた価格で、Windows 7プロフェッショナルのフルライセンスをダウングレード権付で入手できる。原ディレクターは、GGSプログラムでの正規化と最新バージョンの導入によるコスト削減を訴え、さらに信頼できる販社を選ぶことの重要性を説いた。
講演プログラムの最後には、クオリティソフト上海の飯島邦夫・総経理が登場。「日系企業内の中国人の多くが、SNSやチャット、株取引、不正ダウンロードなどを頻繁に利用している」と、コンプライアンス環境の低さを指摘した。そのうえで、「当社の調査によると、ソフトを勝手にインストールしている率は70%に上る。こうした不正利用でネットワークの半分以上が占有される。これを制限しただけで、大幅にコスト削減できる」という。
飯島総経理は、これらの不正を防ぐツールとして自社ソフトを紹介。パソコン操作ログを取得できる「QOH」で利用状況を監視し、「QAW」「QND Plus」などでソフトの利用制限や情報漏えい防止、USB持ち出し監視などを自動化・遠隔操作できるので「IT管理者の負担も軽減できる」と、不正防止とともに、IT資産管理が容易になる点をメリットとして挙げた。
このあとは、ACCS上海の魏所長、マイクロソフト中国の原ディレクター、クオリティソフト上海の飯島総経理に加え、販売会社である大塚商会上海の岩宮宏・総経理、エンドユーザー代表としてリコー中国の中島崇・信息系統部副総経理と三洋電機中国の廣瀬英樹・IS推進室室長が入り、利用実態やネットワーク利用上の問題点、エンドユーザーから日系のメーカーや販売会社に期待する支援などを、パネルディスカッションのかたちで議論した。
このなかで大塚商会上海の岩宮総経理は「日本国内の企業のように中国に拠点のある日系企業では、IT利用上のポリシーが定まっていないケースが目立つ。当社では、現地法人の特性に応じたポリシーを設定するコンサルティングを提供している」とサービスを紹介し、「信頼できるパートナーを選ぶことが、不正規版使用防止の第一歩だ」と締めくくった。