富士通の100%出資でソフト開発の富士通システムソリューションズ(Fsol、杉本隆治社長)は、今年度(2011年3月期)から始まる3か年の中期経営計画を策定し、最終年度の12年度には、売上高を昨年度比150億円増の800億円に到達させる計画を明らかにした。増収のカギを握るのは「クラウド事業の推進」と「海外市場への進出」。杉本社長が明らかにしたところによると、導入ニーズが本格化したとみるクラウドに経営資源を投下。北米に拠点を構えて、進出した日系企業向けにITソリューションビジネスを開始することで増収を図る。
挑戦的な目標、年商800億円超えへ
Fsolは、約2000人のシステムエンジニア(SE)を保有するソフト開発会社で、富士通グループのSE会社のなかで最大級の規模。富士通が獲得した情報システム構築案件の開発を担当するほか、自主営業による首都圏の大・中堅企業向けソリューションビジネスが得意。とくに製造業と流通業に強い。
昨年度の売上高は7.1%減の648億円。目標は約700億円と定めたが、景気後退による案件減少で届かなかった。この売上高を、今年度を含めた3年間で800億円に到達させたい考え。3か年の中期経営計画は、09年6月に就任した杉本社長が主導して立案した。「ユーザー企業のIT投資が回復し、市場環境が好転しつつある」(杉本社長)とみており、挑戦的な目標を立て、攻勢をかける。
力点を置くビジネスはクラウド型ソリューションだ。マイクロソフトのクラウド基盤「Windows Azure」で自社ソリューションを動作可能にし、販売する計画。すでに(1)ワークフロー(2)ITベンダー向けプロジェクト管理(3)人材派遣業向け業務支援──の3ソリューションを「Windows Azure」に対応させ、月額課金制などのサービスとして販売を始めた。
今後も対応ソリューションを増やす。杉本社長は「『Azure』以外のクラウド基盤にも対応させるつもりだが、『Azure』を優先する」としており、「Windows Azure」に傾注する方針を示している。
クラウドに加えて対象市場も広げる。海外に進出した日系企業向けのシステム構築と運用・保守サービスビジネスの提供で、対象は注目を浴びるBRICsに代表される新興国ではなく、米国だ。4月1日付でカリフォルニア州に子会社を設立し、この拠点をベースに、北米に進出した日系企業向けビジネスを手がける。
杉本社長は、「以前は富士通に任せることが多かった海外ビジネスだが、ユーザーからは、日本の本社と海外の子会社を1社のITベンダーに任せたいと考えており、海外拠点も含めたITソリューションを求める傾向が強まっている。Fsolは、海外拠点をもつ企業に対してサービスを提供しているケースが多く、今回の拠点設立に至った」と説明している。北米マーケットでは、まずは日系企業を対象としたビジネスを推進し、将来は現地企業向け事業も展開する考え。
海外とクラウドの両輪を中期的成長分野に据え、まずは今年度760億円に到達し、12年度に800億円超えを狙うつもりだ。海外市場への進出とクラウドへのシフトは、大手のITベンダーが中心。Fsolのような中堅クラスのITベンダーでは、まだ活発な動きはみられなかったが、市場が好転したことを機に中堅クラスでも、動きが慌ただしくなってきそうだ。
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見逃せないもう一つのポイント
富士通グループ企業のなかで今、最も目が離せないのが富士通ビジネスシステム(FJB)だ。中堅企業向けビジネスに特化したSI集団として生まれ変わり、2010年10月1日から中堅企業向けSIビジネスに集中するため、新社名「株式会社富士通マーケティング(FJM)」として再スタートを切るからだ。この新生FJMと密接な連携を取らなければならないのが、Fsolだろう。
Fsolは、東京を中心とした関東地方に強い。東京だけでなく、神奈川、埼玉、千葉、栃木、山梨の5県に拠点を設置しており、このエリアの大・中堅企業のカスタマーベースは強力だ。主力の自社ソリューションパッケージ「WebSERVE」のユーザー企業・団体は約7000社を超えている。その一方で、FJMは全国の中堅企業向けビジネスを、富士通のパートナー企業とともに開拓することをミッションとしている。そうなれば、エリアとユーザーの対象規模で重複する部分が出てくる。
Fsolの杉本社長は、「FJMとはこれまで以上に密な連携を図らなければならない」と話し、その必要性を認めている。そのうえで、「FsolがもつソリューションをFJMに供給して、FJMがパートナーとともに拡販を図るようなことが考えられる」と今後出てくるであろう協業プランを説明している。しかしながら、具体的な連携体制はこれからと見受けられ、この秋から本格化するであろう。
富士通グループ屈指のSE集団と、ようやく動き出す中堅企業特化のSI会社。この両社の連携がどう進むかは、富士通グループの中堅企業向けビジネスを大きく左右するはずだ。杉本社長は、トップに就いて以来、Fsolのビジネス拡大だけでなく他のグループSE会社との連携体制構築も進めてきた。グループ企業をまとめる力には定評がある。その手腕がFJMとのアライアンスではどう生きるか。注目に値する。(木村剛士)