マイクロソフト(樋口泰行社長)は、クラウド型CRM(顧客情報管理)「Dynamics CRM Online」のサービスを、早ければ11月中に日本市場へ投入する。同社幹部が本紙の取材に明らかにした。クラウド型CRMで国内最大シェアを誇るセールスフォース・ドットコム(SFDC)との真っ向勝負が始まる。マイクロソフトは、Windows環境との相性や低価格などを売りにする。来年6月までの期間中には、「Dynamics CRM Online」を販売したパートナーの奨励金(インセンティブ)を、通常の18%から40%に引き上げ、一気に市場を獲得し、2~3年以内に新規獲得数でSFDCを凌駕することを目指す。(谷畑良胤)
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| 「2~3年以内にセールスフォース・ドットコムを抜く」と豪語するマイクロソフトの中西智行・Dynamicsビジネス本部長 |
米国時間の今年4月25日、米マイクロソフトは、「Dynamics CRM Online」を下期中(2011年1~6月)に、世界32の国と地域でサービス開始することを公表した。これよりも早く、開始エリアを拡大したうえで、41の国と地域で「世界同時立ち上げ」を実施する。
日本では、11月下旬か遅くとも年内にサービスを開始。日本での価格は、米国で提供中の1ユーザー/44ドル(約3600円)と同等にする予定だ。競合サービスであるSFDCのクラウド型CRM「Salesforce CRM」は、提供価格が7500円か1万5000円。Dynamics CRM Onlineは、SFDCの半額に近い価格で提供することになる。
マイクロソフトのクラウド型CRMは、潜在顧客や取引企業を管理する「SFA(営業支援)」、対応履歴管理を行う「サービス」、キャンペーン計画やマーケティングの活動履歴を管理する「マーケティング」など、CRMの基本機能を備える。ユーザー企業に応じて、データベースの拡張やワークフローの設定など、カスタマイズが可能。全体的にみれば、「Salesforce CRM」と機能の差はない。
しかし、マイクロソフトのメーラー兼情報管理ソフトウェア「Outlook」からCRMを使うことができ、Dynamics CRM Online内で集計した顧客データをExcelに吐き出して活用することができる。他のWindows環境であるオンライン型のグループウェア「Exchange Online」やプロジェクト管理やドキュメント共有の「SharePoint Online」などを含め、統合的な利用が可能だ。
SFDCのサービスと決定的に異なるのは、Dynamics CRM Onlineがパブリッククラウド<用語の説明は16面>、プライベートクラウド、設置型(サーバー型の社内設置=オンプレミス)から選択して利用できる点である。マイクロソフトの中西智行Dynamicsビジネス本部長は「月額支払型で利用を開始し、本格利用に移行させる際に、ユーザー数を拡大して自社サーバー設置型や、すべてを専用ホスティング型に切り替えることができる」と説明する。ユーザー企業のITインフラ環境や利用計画に応じて柔軟にクラウドを利用でき、既存のクライアント/サーバーとクラウドを容易に融合できるのが差異化点だ。
同社は、パートナー経由の流通ルートをメインに据えて販売する。9月下旬には、企業向けオンラインサービス「Microsoft Business Productivity Online Suite=BPOS(ビーポス)」の既存パートナーや新規パートナー向けにDynamics CRM Onlineの販売に関する説明会を開催。全国区のSIerなどによるBPOSのパートナーを中心に拡販するとともに、支援策を打つ。
Dynamics CRM Onlineの販売には、認定資格が求められる。「報奨金」は通常、1ユーザー当たり18%だが、来年6月までの期間中に限って40%に引き上げ、短期間で市場を獲得する作戦だ。中西本部長は「SFDCが狙う新規市場を奪うことはもとより、これからスクラッチ(手組み)でCRMを開発する計画のあるユーザー企業に対するアプローチを積極化する」ことで、新規獲得数で2~3年以内にSFDCを追い抜くことを目標にしている。
「Dynamics CRM Online」の差異化点
表層深層
国内のCRM市場は、約7~8%程度の成長率を続けている(矢野経済研究所調べ)。2011年度以降は、クラウド・SaaSなどのオンデマンド型が企業設置型の「オンプレミス」を上回ると予測する。
SFDCは、CRM市場全体で約1割の市場を獲得。ERP(統合基幹業務システム)など基幹システムに比べて、CRMはクラウドの適合性が高い業務領域とされる。
日本でもKDDIや三菱UFJリースなどの大手企業を中心に導入されている企業設置型の「Dynamics CRM」は、世界で2万3000社/140万ユーザー以上の実績がある。中西本部長は、「Dynamics CRM Onlineは、1ユーザーから大規模ユーザーまでをカバーする」としており、クラウド型を提供開始することで、幅広いユーザーを獲得できるとみている。
Dynamics CRM Onlineの発売を機に、SFDCと二強の争いが激化する。マイクロソフトは、日本で幅広く利用されているWindows環境や販売パートナーの厚い層を武器にSFDCを追撃する。ただ、「Salesforce CRM」に比べて国内での認知度が低い。知名度を上げて、パートナーに利益をもたらす仕組みを構築できるかどうかで、成否が分かれることになる。
[セールスフォースドットコムの御代茂樹・ISVアライアンス部シニアディレクターの話]当社は、直販だけで100人が在籍しており、パートナーが多く、販売力も規模も大きい。マイクロソフトは、同じフィールドにはいない。