神奈川県町村情報システム共同化推進協議会は、住民基本台帳や税務システム、国民健康保険などの基幹系業務システムの共同利用化を決めた。データセンター(DC)をベースにクラウド/SaaS方式で共同利用サービスを提供するのは、大手SIerの日立情報システムズ。神奈川県内の全14町村が参加するもので、全県の町村が基幹系業務システムをクラウド/SaaS方式へ移行するのは、今回が初めてのケースとなる。自治体クラウドの先駆的事例である。
神奈川県町村情報システム共同化推進協議会
県内町村で利用されている行政情報システムの共同化を推進し、システム費用の低減化及び業務の効率化を図る目的で2010年8月3日に設立。葉山町、箱根町、大磯町、二宮町、中井町など県内全14町村が参加する。
サービス提供会社:日立情報システムズ
サービス名:「e-ADWORLD2」SaaS版
神奈川県町村の基幹業務システムの共同利用の概要
今回の基幹系業務システムの共同利用化は、日立情報システムズとこの先5年間で約25億円の委託契約を結ぶものだ。14町村の住民基本台帳や税務システム、国民健康保険などのシステムは、これまでNECや両毛システムズ、TKC、日立情報システムズなどが構築や運用を担当しており、そのほとんどが客先設置(オンプレミス)型。県内14町村で過半数のシェアを獲っているベンダーは皆無で、当初から「特定の大手ベンダーに“片寄せ”する方式は、有力視されていない」(神奈川県町村情報システム共同化推進協議会の橋本幸治・情報システム担当課長)という状況下での契約だった。
共同利用化で課題となるのが、参加団体の費用負担の公平性である。協議会では、まず向こう5年間の累計で、すべての町村のシステム関連維持費を引き下げることを目標に据えた。さらに14町村全体の合算値では3割弱、最も下げ幅が低い団体でも13%カットすることを決断。データ移行費などは、コスト下げ幅が大きい団体により多く負担してもらう方式を採る。現行システムを仮に5年間運用すると、累計で約43億円になると試算し、これを踏まえて「入札ベンダーには同期間累計で4割引き下げることを求めた」(協議会の國友勝成主査)という。

神奈川県町村情報システム共同化推進協議会の橋本幸治・情報システム担当課長(右)と國友勝成主査
システムを安価で導入しても、使い勝手が悪かったり、機能が不足していては意味がない。そこで、14町村の原課(=ユーザー部門)から機能要件をヒアリングし、約3400項目を抽出。ITベンダーには機能要件を満たすことと、もし満たせない場合は、代替案を提案してもらい、“総論賛成、各論反対”となる事態を未然に防いだ。応札には、NEC、両毛システムズ、日立情報システムズ、NTT東日本などが参加。その結果、日立情報システムズに軍配があがった。「自社パッケージソフトのe-ADWORLD2(イーアドワールドツー)のSaaS版をベースとした提案が受け入れられた」(日立情報システムズの副島忠夫・自治体情報サービス事業部東日本自治体システム本部長)ことで、2010年10月に受注が決まり、11年10月から順次、本格サービスを始める予定だ。
勝因は、パッケージソフトをベースに“4割減”の価格要求を満たしたことと、機能要件のカバー率が高かったこと。「足りないところは、費用負担を極力抑えたうえで新規に追加、あるいは代替案を1項目ずつ丁寧に提案した」(日立情報システムズの高木正幸・第一営業部第一課長)と振り返る。また、共同利用化参加町村の一つ、中井町にある自社DCを活用するという配慮も、協議会の心証をよくした。
日立情報システムズからみれば、複数のライバルベンダーとほぼ等分していた県内町村のシェアを、一気に100%へと高められる。自治体クラウドの流れに沿って、基幹システムの共同利用を検討している全国の自治体に向けて、「実績にもとづいた提案によりシェア拡大が期待できる」(日立情報システムズの増田勝二・公共マーケティング部担当部長)とみる。全国規模のビジネス展開を前提に、大胆かつ綿密な提案が、受注活動を勢いづかせた。(安藤章司)

日立情報システムズの副島忠夫・自治体情報サービス事業部東日本自治体システム本部長(中央)と同社の増田勝二・公共マーケティング部担当部長(右)、高木正幸・第一営業部第一課長
3つのpoint
・コスト削減目標を明確に示し、費用負担の公平性を高める
・既存パッケージソフト活用で、現行費用推計の4割減を実現へ
・全国展開の戦略を描き、大胆かつ綿密な提案で要求を満たす