映画・演劇の制作、興行などを手がける松竹は、作品データベースなどの業務システムのIT基盤として、ITホールディングスグループのTISが運営するクラウド基盤サービスを採用した。ハードウェアの切り替えのタイミングで、クラウド基盤へ移行させたものだ。松竹はこの業務システムで、従来のITの所有をやめて、利用する形態へと変えたことで、ITインフラまわりの運用負荷を改善。あわせてシステム運用コストを削減した。
松竹
会社概要:1895年創業。映画の制作や配給、興行を行うとともに、歌舞伎や演劇の制作、興行を手がける。また、映画などのキャラクターを活用した著作権ビジネスや、不動産事業などにも幅広く取り組んでいる。
システム提供会社:TIS
プロダクト名:TIS Enterprise Ondemand Service
TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)移行後のシステム構成イメージ
松竹は、作品データベースや、ポスター・限定グッズといった宣伝素材の在庫管理を、日本IBMのIAサーバーSystem xシリーズで運用していた。xシリーズはTISが運営する首都圏のデータセンター(DC)に預けてあったが、ハードウェアの経年劣化によって切り替えの時期に差しかかる。このタイミングで、TISから「新しく開発したクラウド基盤に移してはどうかとの提案を受けた」(松竹の山下良則・システム室長)のがきっかけとなった。ハードを自前で保有すれば、それ自体の購入費以外に、運用管理の作業負荷がコストとしてのしかかる。メインテナンスフリーのクラウドサービス基盤は魅力的だった。
松竹は、電子メールなど情報系システムで、クラウドサービスの先駆け的存在であるGoogle Appsを採用。早くからクラウド技術を活用してきた経緯がある。TISが開発したクラウドサービス基盤「TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)」は、外資系パブリッククラウドサービスとは異なり、DCの所在を明確にしている。業務システムをクラウド化する今回のケースでは、システムの運用場所がまったく分からないという状況は馴染まないことから、T.E.O.S.の採用に傾いた。
T.E.O.S.は、2011年4月、東京都内で開業した約3000ラック規模を誇る巨大な御殿山DCをフラッグシップセンターとし、東京第三DC、大阪の心斎橋DCなど、高規格・高信頼のDC設備を連携させた国内最大規模のクラウドサービス基盤だ。もともとクラウド化の対象となった松竹の業務システムを運用するサーバーはTISのDCにあるので、「システム的には、同じDC内での引っ越しにとどまる。加えてTISの基盤運用技術の高さには定評がある」(松竹・システム室インフラ担当の山崎敬之氏)ことから、T.E.O.S.の採用を決断した。

TISの木所郁男主任(左)と藤原尚主任
物理システムから仮想システムへとシステムを移行させる「P2V(Physical to Virtual)」作業は、「TISで実績を重ねたツールを使った」(TISの木所郁男・IT基盤サービス第3部主任)ことで、システムの中身に影響を与えずに仮想化することができた。2010年8月に本番稼働。仮想化したシステムでの運用コストは、従来と比べて低減し、また、十分なITリソースを割り当てることで「処理速度も従来より速めている」と、TISの藤原尚のIT基盤サービス第1営業部主任は胸を張る。
ただ、今回、クラウド化したシステムは、業務の特性上、リソースの増減がそれほど大きくない。クラウドのもう一つの強みである“必要なときに、必要なだけのITリソースを調達する特性”を、別のシステムで採り入れることも検討している。例えば経理システムは、経理締め間近のピーク時と平常時の処理件数の差が大きい。T.E.O.S.は、現時点では月次契約が基本だが、「もし、週単位や日単位でITリソースをダイナミックに変えられれば、さらに有効に使える」と松竹の山下室長は話す。TISでは、こうした顧客の要望を踏まえ、T.E.O.S.で提供するサービスに、より一層磨きをかけていく方針だ。(安藤章司)

松竹の山下良則室長(左)と山崎敬之氏
3つのpoint
・所有から利用への切り替えで運用コストを大幅削減
・物理から仮想システムへ確実に移行できるSI能力
・DC運用やクラウド基盤の習熟度の高さ