10年前まで、電算部門をもっていなかったという交野市。2001年、市制施行30周年を機にOA化を決断。市役所内のシステムにオープンソースソフトウェアを採用した。LinuxサーバーでSAMBAを活用し、ファイルサーバーを構築するとともに、移動プロファイルによるWindowsドメイン運用環境を整備した。2008年からはOpenOffice・orgとLinuxによるデスクトップ環境の整備を開始するなど、積極的にOSSの導入を進めている。
大阪府交野市
市の概要:大阪府交野市は、2011年、市制施行40周年を迎える。大阪、京都、奈良の間に位置する生駒山系のふもとにある、人口8万人の田園都市だ。「天の川」が流れ、織姫をまつる神社があるなど、七夕や星にゆかりのある地名が多い。
プロダクト提供会社:なし(オープンソース)
システム名:LinuxとSAMBAを活用した移動プロファイルによるWindowsドメイン運用環境、ほか
交野市が利用しているOSS
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| 交野市情報課の天野勝弘氏 |
2001年に市制施行30周年を迎えようとしていた交野市は、役所業務をOA化することを決定した。今から10年前のことである。このタイミングでホームページ(HP)を開設するとともに、サーバー、クライアントの整備を一気に行う計画が持ち上がった。当時はワープロ専用機だけが置いてあり、職員はフロッピーディスクを持ち歩き、データを保存して仕事をしている状態だった。
市ではOA化に向けて「行政管理室(現在の情報課)」という名称の情報部門を設置。天野勝弘氏のほか、役所内の各部署で「ITに明るいと思われる」人材を招集した。OA化計画では、各部署にクライアント端末を配布。ファイルサーバーを整備してファイルを集約することで、FDやローカルのハードディスクにデータを保存できない仕組みを考えた。「職員一人に端末1台は無理でも、せめて移動プロファイル(PCの環境情報、ユーザーが作成したデータをファイルサーバーの各ユーザー領域に保存することで別のPCで自分の環境を使える)によるWindowsドメイン環境を構築して、一人につき1アカウントは配布したいと考えていた」(天野氏)。
数社のITベンダーに問い合わせたところ、クライアントアクセスライセンスなども含め、かなり高額であることがわかった。そこで、OSS(オープンソースソフトウェア)の採用を検討しはじめた。天野氏はかつて自作パソコンでインターネット環境を構築したり、役所内での広報業務に利用するDTP環境の導入に携わり、OSSの知識を身につけていた。LinuxサーバーでSAMBAを活用することで、Windowsサーバーと同様に移動プロファイルの環境が実現できることを知った。
上司にデモをつくって見せたところ、すぐにゴーサインが出た。「OSSのメリットは、商用と異なり、多くのプロダクトを試してみることができたり、ユーザー自身でコスト設計をコントロールして、高いコストパフォーマンスを実現することができることだ」と天野氏は話す。業者の協力を得て、ウェブ、メール環境、市役所内のネットワーク環境を半年ほどかけて構築。2002年に運用を開始した。今ではおおむね事務処理関連の部署にPCが行き渡り、フロアごとにプリンタを配備することができた。「人事異動の際に人だけ移動すればよく、過去の資産が活用しやすくなった」と天野氏は効果について語る。
2008年には、オフィスソフトをOpenOffice.orgに切り替える取り組みを開始したが、当時は失敗。昨年、ある市民から「財政難なのに、なぜOpenOfficeを使わないのか」と指摘を受け、先に導入していた会津若松市に資料をもらって再考。手順を踏んで市の情報化推進本部会議に諮った。OpenOfficeは、特定ベンダーに依存しないXMLベースのファイル形式「ODF(Open Document Format)」を採用している。「公文書を一企業に左右されていいのかという懸念があり、ODF文書での保存に取り組むための検討が進んでいった」と天野氏は振り返る。Microsoft OfficeがODFに対応したことから、OSSに切り替え可能と判断。段階を踏んで端末に導入し、ファイルのODF変換を行っている。
交野市では昨夏、新たな施策として、Windows 2000のサポート切れを機に、古いPCにLinuxをインストールして再活用しはじめた。今年、市制施行40周年を迎える交野市では、OSSのHP作成システムを採用し、市のHPのリニューアルを予定するなど、OSSの積極活用を推進している。(鍋島蓉子)
3つのpoint
・OSSなら多くのプロダクトを試すことができる
・コスト設計をユーザーがコントロールできる
・ベンダーに依存しないシステムの構築が可能