CA Technologies(バスター・ブラウン社長)が、バックアップソリューション市場で攻勢をかける。9月8日に、主力ブランド「CA ARCserve」のメジャーバージョンアップ版を1年3か月ぶりに発表。東日本大震災で高まった災害対策ニーズに応える。バックアップ製品のなかでも、とくに「イメージバックアップ」と呼ばれる製品の拡販を急ぐ。CA Technologiesはバックアップ・リカバリソリューションでは市場シェアトップだが、イメージバックアップでは競合他社に出遅れている。今回の新版で、イメージバックアップソフトの機能も増強し、一気に攻める。「発売直後に月の販売本数でトップに立つ」と強気。バックアップソリューションのリーダーが、弱みの分野で競合他社を追撃する。(木村剛士)
CA Technologiesは、セキュリティや運用管理、仮想化、バックアップなど、複数ジャンルのミドルウェアとアプリケーションソフトを販売する総合ソフト会社。親会社の米CA Technologiesは全世界で約1万3200人の従業員を抱える大手だ。CA Technologiesは、ほぼ米国と同様のラインアップを抱えるが、バックアップソフトは主力分野だ。調査会社のミック経済研究所によれば、バックアップパッケージの出荷金額シェアは47.2%(2010年度)でトップ。2位のシマンテックに約30ポイントの差をつけ、圧倒的な強さをもつ。
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| マイク・クレストジェネラル・マネージャ |
新版では用途や機能に応じたバックアップソフト「CA ARCserve Backup」「CA ARCserve D2D」「CA ARCserve High Availability」「CA ARCserve Replication」の4製品の機能追加・強化を図りながら、各製品をつなげるための管理ソフトを今回初めて用意した。米CA Technologiesのマイク・クレスト・データマネジメント事業部ジェネラル・マネージャは、「保護するデータの形式、保存先、保存手法、クラウドなのかオンプレミスシステムなのかなど、バックアップ作業は複雑化し、それが課題となっているユーザーも多い。新版はあらゆるニーズに応え、しかも運用が容易な総合スイートだ」と、拡販に自信を示している。
なかでも力を入れるのが、イメージバックアップと呼ばれる「CA ARC serve D2D」で、クレストジェネラルマネージャも日本法人への期待としてこの製品の拡販を挙げる。イメージバックアップとは、ハードディスクのセクタ単位でデータを保存するバックアップ手法の一つ。操作が容易で特別な知識も不要なので、中堅・中小企業に人気がある。
CA Technologiesは、イメージバックアップソフトでは遅れをとっているが、今回の新版投入で一気呵成に攻め込む構えだ。同社の江黒研太郎ストレージ・ソリューション事業部事業部長は、「発売直後から一気に販売を伸ばし、月の販売本数でナンバーワンになる」と明言。イメージバックアップソフトでもトップを早期に獲る考えを示している。
販売は従来通りのパートナー販売で、既存の流通チャネルを生かす。「ARCserve」の再販事業者としては、主要なディストリビュータが取り扱っているほか、富士通やNECなどの大手コンピュータメーカー、大塚商会やキヤノンITソリューションズなどのSIerが名を連ね、合計32社のITベンダーをパートナーとして組織している。
新版投入によって新たな販売施策を打つ計画はないが、「およそ4000人は育成した」(江黒事業部長)というトレーニングメニューを継続推進し、パートナーの営業・販売スキルを底上げする。また、中小企業向けにはクラウドサービスの提供を開始予定だ。「ARCserve」を活用したクラウドサービスを提供したいITベンダー向けに特別な制度も適用する。
災害対策の一環で、データのバックアップシステム構築や増強へのニーズは強い。CA Technologiesは、新版の投入で強固な地位を築こうともくろむ。

バックアップパッケージの出荷金額シェア
表層深層
東日本大震災は多くの企業の危機意識を高め、これをきっかけに重要な情報資産を守るためのバックアップシステム・ソリューションを求める企業が大幅に増えた。バックアップは、IT産業で数少ない有望分野の一つになっている。この状況は、個人情報漏えい事件が多発し、IT資産管理や機密情報の保護機能などをもつセキュリティ対策ソフトの販売が伸びた2003年~05年時のセキュリティ業界によく似ている。セキュリティやバックアップは万一の事件・事故があった場合に効果を発揮する分野で、何も起こらなければ投資が無駄になる。それゆえに、“負の投資”とも揶揄されてきた。ただ、今回、甚大な被害を目の当たりにした企業が、重い腰を上げ、ようやく投資に踏み切っているわけだ。
調査会社のミック経済研究所によると、バックアップ・アーカイブパッケージソフト市場は、2010年度は対前年度比で10.6%の伸びを示した。11年度は同8.5%で伸び、12年度と13年度は約5%成長する。“ニッチマーケット”といわれてきたバックアップ市場が徐々に存在感を増している。このタイミングでCA Technologiesが攻勢をかけるのは自然な流れだろう。
ミック経済研究所の樋口一則アナリストは、「10年度は仮想環境に対応した製品の投入と、データ重複排除機能の浸透で市場は拡大している。11年度以降は災害対策の意識が高まり、さらに需要が強まる。安定して成長が予測できる」と説明。成長を疑っていない。