電車の車内や駅のコンコース、ビルの壁など、至る所で目にするようになったデジタルサイネージ(電子看板)。文字や音声、画像、動画を活用したコンテンツを発信できるメディアとして注目を集めている。消費者の認知度はまだ低いが、ハードウェアやシステム構築、コンテンツ配信サービスなど、さまざまな分野で成長が期待できる。次世代メディア、デジタルサイネージ業界を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「認知度」を読む
消費者の認知度は低く、70%は「知らない」
調査会社の矢野経済研究所が、2011年6月に東京在住の消費者を対象としたデジタルサイネージの知名度に関する調査を行った。IT業界や広告業界では有望視している分野だが、消費者の認知度はまだ低い。「言葉も知っており、具体的な設置例も知っている」と回答した比率は8.8%にとどまる。逆に「言葉を初めて聞いたので何も知識がない」という回答は72.6%にも及ぶ。昨年と比較すると、「知らない」の回答率は2.3ポイント増えている。首都圏でこの数値であれば、地方ではもっと認知されていないだろう。消費者が知っているデジタルサイネージとして最も知られているのが、山手線の車内に設置されている「トレインチャンネル」で、その次が東京メトロの車内にある「Tokyo Metro ビジョン」。電車内のデジタルサイネージの知名度が圧倒的に高く、コンビニエンスストアや小売店、駅、ビルの壁などに設置されている「インストアメディア」は、ほとんど気づかれていないことがわかった。
デジタルサイネージの知名度
figure 2 「関連する業界」を読む
さまざまな業種の企業が絡み合う特殊な市場
デジタルサイネージでコンテンツを発信する仕組みには、さまざまな企業が関わっている。まず、交通・観光情報や広告などのコンテンツを制作・配信するためのメディア企業と広告代理店、コンテンツ制作会社の存在がある。そして、それを発信するために必要な情報機器のメーカーと、システムを構築するためのITベンダーが関わる。そのうえで、ディスプレイモニタを設置する場所をもつ公共機関や交通機関、建物を管理する不動産事業者も絡む。IT業界で大きく関わるのが、コンテンツを表示するための映像表示機器をつくるメーカーと、コンテンツを配信するためのネットワークとシステムを構築するSIerだ。最近は、コンテンツの配信を請け負うアウトソーシング事業者も出てきた。映像表示機器メーカーは、デジタルサイネージに大きなビジネスポテンシャルを感じている。公共・交通機関向けの大型映像表示機器に強いNECは、09年の段階でデジタルサイネージに特化した専門部隊を70人体制で組織し、ここ数年、本腰を入れている。
デジタルサイネージに関連する業界
figure 3 「市場規模」を読む
2015年には09年の約2.3倍に成長
消費者の間では、まだデジタルサイネージはそれほど知られていないが、中期的にみれば関連する製品・サービスのビジネスボリュームは増えそうだ。図は、富士キメラ総研が調査した2009年の市場規模と15年の予測を示したもの。市場全体は、09年の実績が661億円だったのに対し、15年には1493億円になる見込みで、約2.26倍に急成長する予想だ。マーケットを細分化してみると、関連する機器やシステムの販売・構築サービスのマーケットは、15年には09年比べて24%伸び、548億円規模になる。それ以上に伸びるのが、コンテンツ制作・配信の関連分野と、広告だ。コンテンツ制作・配信に関する15年の市場は、09年に比べて約2.6倍。広告は、デジタルサイネージ機器を設置する企業や公共機関、広告代理店が広告出稿主から得る金額で、15年の市場規模は09年に比べて、約5倍。金額は770億円になる見込みで、デジタルサイネージ市場の約半分を占めることになるとみられる。広告のビジネスを細分化すると、交通機関向けと、「インストアメディア」が670億円と大半を占めることになりそうだ。小売り・流通業または交通機関向けの情報システムソリューション事業を展開する企業にとっては、デジタルサイネージは今後の有力商材になるとみていいだろう。
デジタルサイネージの市場規模
figure 4 「プレーヤー」を読む
コンピュータ、AVメーカーが強い
図には、デジタルサイネージ業界の主なプレーヤーをディスプレイメーカー、システム構築会社(SI)、広告代理店の3カテゴリに分けて示した。ハードウェアとしてまず販売が期待できるのは、液晶モニタや電光掲示板、大型の映像表示装置だ。この分野では、大手コンピュータメーカーが圧倒的に強い。NECや富士通、そしてAV(映像・音響)に強いソニーやパナソニックも名を連ねる。外資系で奮闘しているのが、韓国のサムスン。日本サムスンは、低価格機種を家電量販店で販売するといった斬新な販売戦略をとり、一気に知名度を上げ、国内勢が牛耳るマーケットで、外資系の一社として気を吐いている。一方、システム構築では映像表示機器で力のあるNECや富士通がSIにも強く、日立製作所や東芝などがこの分野では名前が出てくる。グラフィックソフトや画像・映像関連ソリューションに強い日本SGIも、強みを生かせる分野としてこの市場に参入。ピーディーシー(pdc)は、デジタルサイネージに特化したソリューション事業を展開する企業で、パナソニックが63.7%の株式を握っている。パナソニックのデジタルサイネージ事業を伸ばすための戦略的子会社になっている。大手コンピュータメーカーは、ほぼすべてデジタルサイネージ事業を手がけているといっていい状況だ。
デジタルサイネージの主なディスプレイメーカーとSI会社