SIerにとってソフトウェア開発は、依然として重要な利益源の一つである。人手がかかり、しかも人件費は原価に占める割合が大きいだけに、この部分のコスト削減をどれだけ実現するかで、利益率は大きく変わってくる。米国はインドのソフト開発リソースを最大限に活用して大幅なコスト削減を果たし、日本は中国でのオフショア開発の道を歩んできた。

　だが、日本のオフショア開発は、2008年のリーマン・ショック以降、減少傾向にあり、むしろここ数年だけでいえば逆のコースをたどっているようにもみえる。国内開発＝国内雇用の維持を図ろうとする意識が強く、この点がグローバル規模でソフトウェア開発を最適化するIBMやアクセンチュアとは方向が異なる。さらに、中国の大都市圏のSE人件費は年率10～20％の割合で上昇しており、日中の橋渡し役を務めるブリッジSEを含んだトータルの人件費をみると、「すでに日本の地方都市と差が縮まっている」（対日オフショア開発を手がける中国地場SIer幹部）というように、状況は刻一刻と変化する。

　調査会社ガートナーの調べでは、日本のオフショア開発発注量の約8割を中国が占めており、さらに都市別では大連、上海、北京がトップ3に名を連ねる。少なくともこの三大都市のオフショア開発ベンダーの最大のライバルは、九州や北海道といった日本の地方ソフト開発ベンダーであり、見方を変えれば、すでに“開発コスト削減”というオフショア開発の重要な意義の一つが失われつつあることを意味している。今は円高でごまかせても、いったん円安・人民元高に振れると、「中国大都市部での対日オフショア会社は立ちいかなくなる」（別の中国SIer幹部）という声も聞こえてくる。

　ある日系SIer幹部は、「安さだけを求めるのなら、もはや中国はオフショア開発に適さない」とみるが、オフショア開発の約8割を中国に依存し、日系ユーザー企業が続々と中国へ進出している状況を勘案すれば、中国内陸部への移転などで、少しでも安く開発する方法を模索せざるを得ない事情がある。開発だけでなく、運用もオフショアで……となると、なおさらノウハウや地理的要因から中国依存度が高まることが予想される。

　結論として、ソフト開発のコスト最適化を追求するなら、ASEAN・インドでのオフショア開発を進めざるを得ないのは自明の理だ。つまり、（1）ASEAN・インドのコスト重視型の開発、（2）中国内陸部などの中国特有型の開発、（3）九州・北海道といったニアショアのさまざまな開発リソースを、顧客のニーズに合わせて使い分ける柔軟性が欠かせなくなる。時間とともにこれら開発リソース構成比の最適解は変化していくわけで、収益性が最も高まる開発リソースを、顧客の要望と照らし合わせながら合理的に選んでいく戦略性が求められている。（安藤章司）