東日本大震災が発生してからおよそ1年。大阪を中心とする関西地区では、今、社内サーバーをデータセンター(DC)に置くハウジング需要が活発になりつつある。多くのユーザー企業は、新年度が始まる4月を機に、事業継続プラン(BCP)関連の予算を引き上げて、自社システムをDCに移行する取り組みを本格化している。関西地区のDC事業者は、4月以降、需要の「第三の山」が現れると見込んで、DC設備の整備を急いでいるところだ。(ゼンフ ミシャ)
震災から一年、システム移行が本格化
関西電力グループの有力システムインテグレータ(SIer)である関電システムソリューションズ(売上高345億円=2011年3月期)は、昨年12月に、最大1300ラックまで拡張できる9階建ての「第3データセンター」を大阪の都心部に開設し、ハウジングなど各種のDCサービスを開始した。
同社の田村和豊社長は、「『第3データセンター』をオープンして、システムのバックアップ用途で使いたいという東京の企業をはじめとする数多くのユーザーから引き合いをいただいている。開設前と比べて、DCサービスについての問い合わせ件数が10倍にも増えており、問い合わせに対応する従業員が足りないくらいDC需要が活発化している」と、うれしい悲鳴を上げる。
このところ、関西地区でのDC需要が改めて急速に拡大している背景には、ユーザー企業のBCPに対する意識の高まりがある。4月に迎える新年度のスタートに合わせてBCP関連の予算を増やし、事業継続の中核となる対策として、社内システムをDCに移設する動きに拍車をかけているのだ。関電システムソリューションズの田村社長は、震災発生後の1年間でのDC事情の異変を振り返り、今回の需要拡大を「第三の山」とみている。
本紙は昨年の4月から、関西地区におけるDC需要の動きを継続的に追ってきた。NTTデータやNECなど、関西地区の大手DC事業者への取材を踏まえて、ここ1年間の流れを次のようにまとめることができる。
まず、震災が発生して関東地区で電力事情が悪化した直後の2011年3~4月に、大手や外資系の一部の企業が緊急のBCP対策をとり、関西地区をはじめとする非首都圏へのシステム移行に着手した。NTTデータ自身も社内システムを名古屋や大阪のDCに移設することを決断し、現在、システム移行を進行中だ。このように、DCを利用したハウジングサービスの“特需”が生まれ、これが、関西地区におけるDC需要拡大の「第一の山」となった。
その後、夏に向けて関東・関西地区ともに電力供給が不足し、停電が発生する恐れがあることがユーザー企業を悩ませることとなった。だが、システムの移設に時間がかかることや、予算の制約などの問題でユーザー企業がDC利用の決定を後回しにしたケースが多くみられ、DC需要は一時的に低下した。DC市場に「第二の山」が訪れたのは、昨年秋だった。多くの企業で下期が始まる10月を境として、DC需要が再び拡大し、関西地区のDC事業者は確かな手応えを感じるようになった。
そして、今年4月から本格的にかたちになるDC需要の「第三の山」。みたび市場が活発化することに備え、関西地区のDC事業者は、ニーズに迅速に対応できるよう、急ピッチで設備を整える準備を推進している最中だ。事業者のなかには、早期にDCの増設・新設を視野に入れているベンダーも現れた。関電システムソリューションズは、「第3データセンター」の設立を計画した当初は、開設から7~8年をかけて全ラックが埋まることを見込んでいたが、需要の増大を受け、今はすでにその半分の3~4年でスペースが満杯になる見込みを立てている。田村社長は、「DC需要は継続するとみており、早期に第4データセンターを設立する検討に入りたい」と意気込みを示す。
震災発生から1年を迎える今、関西地区でのDCビジネスは、本格需要のステージに入ろうとしている。

震災後のDC需要の動き
表層深層
BCP対策としてDCを利用する動きが活発化しているのは、関西地区だけではない。DC向けにロードバランサを展開する某メーカーの関係者は、「このところ、沖縄でDCの新設が活発になっている」と教えてくれた。沖縄は、土地価格が比較的安く、地震が発生するおそれが低いので、DC設備の立地に最適ということだ。そして、沖縄にはもう一つのメリットがある。中国への距離が短いことだ。
上掲の記事で取り上げた関電システムソリューションズもその一社だが、DC事業者は今、激しい競争のなかでユーザー企業を獲得するために、中国をはじめとして、サービスの海外展開に取り組む姿勢をみせている。とくに製造業のユーザー企業が多い関西地区では、中国に進出していながら、基幹システムは日本国内に置きたい、という企業が増えている状況にある。海外進出組の製造業は、DC事業者にとって重要な得意先になっている。関電システムソリューションズは、アジアに進出した企業を対象に、DCサービスの海外展開を強化する構えだ。
DCは、基幹システムを置いたり、システムのバックアップに使ったりする利用シーンが多くなってきている。それだけに、DCの安全を守ることが重要となる。DCの安全を守るには、震災などに備えた建物の堅牢性だけでなく、サイバー攻撃からシステムを保護するセキュリティも欠かせない。今後のDCビジネスでは、情報セキュリティをいかに強化するかが、事業者間の大きな差異化要因となりそうだ。