新規株式公開で注目を集めるソーシャルメディアの世界的大手のFacebookに関して、あるSIerの技術者は「画面遷移やリロードをほとんど行わないリアルタイム分散処理能力の高さには舌を巻く」と感想を述べる。一見、何ということはない動作にみえるが、ひと昔前のグループウェアなどウェブアプリケーションの画面遷移とリロードの多さを考えると、今さらながら隔世の感があるというわけだ。

　一世代前のブラウザベースのスケジュール管理ソフトは、例えば「予定の登録」→「登録内容の確認」→「OK」と3回の遷移とリロードが発生することなどはざら。この点、同じスケジュール管理でもGoogleカレンダーの画面遷移とリロードのなさは、Facebookのユーザーインターフェース（UI）と通じるものがある。別の観点からすれば、従来型携帯電話（ガラケー）の確認画面の多さと、iPhoneのスマートさの大きな違いともいえる。ちなみに、身近にある国産有名メーカーのブルーレイディスク（BD）レコーダーのリモコンのボタンの数を数えてみたところ57個もあり、UIとしてはむしろ化石に近いのかもしれない。

　UIによって、そのサービスやデバイスに対するユーザー体験（UX）は大きく変わってしまう。故スティーブ・ジョブズがiPhoneのUIに徹底的にこだわったのは有名な話だ。もう一つ、どうしても見逃せないのは、すぐれたUIの実現には、良質なITリソースの調達が不可欠であること。すでに日本メーカーによる追随現象も起きているiRobotのロボット掃除機「ルンバ」は、人と機械の新しいかたちのUIとも捉えられ、このUIのバックボーンにはルンバに組み込まれた高度なソフトリソースの存在がある。

　日本でも、新しいUIへの挑戦は始まっている。一例を挙げるならば、この5月からUIの全面刷新を順次進める動画コミュニティ大手のニコニコ動画は、画面遷移とリロードを極力抑えた“Facebookライク”なUIを目指すという。会員数が2700万人に達し、若年層への絶対的なリーチを誇るニコニコ動画運営会社のドワンゴ取締役で、かつてNTTドコモの「iモード」事業の立ち上げに関わってきた夏野剛氏は、「技術的な難易度はそれほどでもなくても、予想以上に多くのハードやソフトなどのITリソースを整備する必要があった」と、UI刷新で苦心した点を話す。

　世界で共感されるUIを創出するFacebookやiPhone、ルンバなどに共通する点は、UIの背景に隠された優秀なハードやソフトリソースである。残念ながら、日本のベンダーはまだ見習うべきところが多い。せめて「現代」をリードするUIやUXをキャッチアップする姿勢や技術、先進的で良質なITリソースの創出につなげたい。（安藤章司）