富士ゼロックス(山本忠人社長)は、県別販売会社を広域圏で支援する100%出資の「地域統轄会社」を全国6地域に設立し、7月1日から営業を開始する。ここ数年、大手企業を中心に物品の「本社一括購買」が進むなか、競合メーカーのリコーや富士通など大手ITメーカーでは、経営効率化を含めた地域の販売拠点の統廃合が加速している。富士ゼロックスはこうした流れに逆行し、従来以上に「地域密着度」を高める体制を敷く。ここ数年をかけて推進してきたソリューション・サービス販売の総仕上げとみられるが、業界内では、この販売強化策に関連した投資のあり方に関心が高まっている。(谷畑良胤)
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| 「地域の実状に応じたワンストップ・ソリューションを提供する」と語る米山俊治・執行役員 |
富士ゼロックスが100%出資して設立する地域統轄会社は、北日本(宮城県仙台市)、関東(埼玉県さいたま市)、首都圏(東京都新宿区)、中部(愛知県名古屋市)、西日本(大阪府大阪市)、九州(福岡県福岡市)の6地域に本社を置く。
この統轄会社は販売機能をもたず、地域特性に応じた展開で県別販売会社の事業を成長に導く責任を負う。具体的には、地域の実状に応じたマーケティングや市場分析、戦略策定と展開、富士ゼロックスのMPS(マネージド・プリント・サービス)「XOS(オフィス出力管理アウトソーシングサービス)」などを提供する営業やSE(システム・エンジニア)、保守サービスのCE(カスタマ・エンジニア)など人員のマネジメント、域内販売会社の管理・事務業務の支援などを行う。6社の合計人員は、役員を含めて300人弱だ。
現在34社ある県別の販売会社は、従来通り販売・保守サービスに特化し、地域の顧客接点をさらに強化する。その販売会社傘下には11の特約店がある。統轄会社と販売会社・特約店は、持株会社の方式で会社体制を敷く。米山俊治・執行役員は、「ワンストップで顧客の経営課題を解決するソリューション・サービスの提供を狙った再編だ」と話す。
富士ゼロックスの県別販売会社のほとんどは、リコーなど競合他社が100%出資であるのと異なり、7年ほど前まで地域のパートナーと共同出資する事業体だった。基本的には、富士ゼロックスが株式の51%以上を取得していたため連結対象ではあったが、本社の意向だけでは再編しづらい事情があった。これを2005年までに全販売会社を100%子会社化したことから、一時的にはリコーが県別販売会社体制を統合してリコージャパンを設立したのと同様の再編を検討していたとみられる。
2年ほど前、本紙の取材で山本社長は、ソリューション・サービスを急速に進める手段として「地域の販売会社体制を見直す」と明言していた。米山執行役員によれば、この頃から営業プロセスの改革を断行。SBO(セールス・バック・オフィス)による見積書・提案書、契約書の作成支援や営業事務処理の効率化を図るとともに、「ディールハブ」と呼ぶ提案書のフォーマットを各販売会社で共有したり、全社的に統合的なSFA(営業支援システム)を導入するなどで生産効率の向上策を進めてきた。これらの改善策は統轄会社設立に向けた動きだったようだ。
競合のリコーが各県別販社体制を数年で1社に統合し、リコージャパンを設立した動きなどをけん制しつつ、より地域密着度を高めることで、同社事業全体を成長に導くことができる策を、販売・営業などの観点から検討していたということだ。
今回の再編は、プリンタ業界の置かれている実情に起因する。プリンタ機器販売や消耗品などのアフターマーケットは縮小傾向にある。MPSやプロダクションプリンタなど新たな成長エンジンを軌道に乗せなければ持続的な成長はおぼつかない。富士ゼロックスの場合は、リーマン・ショック後の景気低迷で一時的に販売台数が落ち込んだが、「県別販売会社によるA3機以上のプリンタと複合機の販売は、5年前に比べて5%程度売上台数を伸ばしているし、MPSも絶好調で、地方を含めた複数の大手企業合計で何十万事業所をMPS化する案件が進行している」(米山執行役員)と、地域の中堅・大手企業に対するアプローチの重要性が増していた。
ただ、現在の県別販売会社にMPSやプロダクションプリンタの販売を担わせるには、研修して習得するまでの時間を要する。そこで、統轄会社を設け、本社の専門家を地域に配置するなど、エリア単位で戦略的に営業人員の整備や販売ノウハウを身につけようと判断したようだ。

富士ゼロックスの地域統轄会社拠点
表層深層
プリンタ業界に限らず、多くの大手ITベンダーが地方の事業所を再編・統廃合している。不景気の影響で地域拠点で物品を購入するケースが減り、本社の一括購買体制が敷かれるようになったためだ。地方の拠点の権限で物品購入をしにくい以上、大手ITベンダーが地方の営業体制を強化する必然性が薄れた。地方で売り上げが出なければ、地方拠点の人件費や管理費が経営を圧迫する。
リコーは、県別販売会社をリコージャパンに統合することで、「オペレーションが一極集中し、コスト削減効果が見込める」(近藤史朗社長)ことを再編の理由としていた。また、MPSや他のIT製品・サービスと組み合わせたソリューション販売が主流になり、サービスの販売へ業態を変革する過程で、各販売会社の存在が壁となって変革を一度に起こしにくく、本社方針が徹底するのに時間を要することも懸念して、統合という道を選んだ。
富士通がSE子会社を東西で合併したように、統合でリソースを有効活用するだけでなく、開発投資も効率化できる。全国均一の製品・サービスを提供できるので、「選択と集中」が進む。
地方の販売会社を再編する理由としては、各社ともほぼ同等の理屈だ。ただ、富士ゼロックスの場合は、コストをかけてでも地域に適した売り方で販売力を高める選択をした。売上責任を負う統轄会社経由で販売会社に本社戦略が伝達され、エリアの課題が本社に通じる。コスト増に見合った販売増を実現できるかどうかに真価が問われる。