クラウドサービスとスキャナの連携で、新しいワークスタイルを提案する動きがITベンダーの領域で広がりをみせている。オンラインストレージなど、企業がパブリッククラウドを利用するケースも多くなっており、クラウドサービス対応のスキャナで紙の資料をスキャンして直接データをクラウド上に保存。ユーザー企業が社内や社員の自宅に設置した事務機を有効活用して業務効率化を実現することができる。しかも、保存してあるデータを、いつでも、どこでも情報共有できることから、企業によるスマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの利用を活性化することにもつながりそうだ。(取材・文/佐相彰彦)
メーカー各社の製品が出揃う パブリッククラウドの普及が寄与
クラウドサービスに対応したスキャナとして、メーカー各社が発売しているのはドキュメントスキャナだ。PFUをはじめ、エプソンやキヤノンなど主要メーカーが発売している。最近では、ブラザーが法人向けのプリンタや複合機のブランド「ジャスティオ」で、新カテゴリとしてドキュメントスキャナを投入。卓上とモバイルのモデル4機種を発売し、最上位機種の「ADS-2500W」でクラウドサービスやスマートデバイスとの連携を果たしている。
ドキュメントスキャナをクラウドサービスに連携させる動きが活発になってきているのには、クラウドサービスプロバイダが提供している「パブリッククラウド」の利用者の増加が寄与している。調査会社のIDC Japanによれば、国内パブリッククラウドサービス市場は11年に前年比45.9%増の662億円。12年には1000億円規模になる見込みで、16年には11年比5.2倍の3412億円になると予測している。
法人向けクラウドサービスといえば、自社単独でクラウド環境を構築するプライベートクラウドが多くの拠点をもつ大企業で主流になりつつあるが、中堅・中小企業(SMB)や大企業の部門単位ではパブリッククラウドを利用する傾向が高まっている。さまざまなサービスが充実していることに加えて、安価にサービスを利用できるからだ。個人に限らず、法人でも利用が増えている。
そこで、パブリッククラウドの利便性を高める機器として、スキャナを定着させるというのがメーカーの狙いだ。オンラインストレージサービスを利用している場合、スキャナがあれば、手書きのノートやメモ、印刷して配られた資料など、さまざまな印刷物をスキャンして、そのデータをクラウド上のストレージに保存することができるから使い勝手がよい。オンラインストレージを通じて、社員や取引先と情報を共有することもできる。また、スマートデバイスに専用のアプリをダウンロードしておけば、スキャンした内容を直接スマートデバイスに取りこむことができる。捨てようかどうかと迷っているような印刷物をデータ化して保存できるので、オフィスのデスク周りを整理整頓することもできる。スキャナメーカー各社は、クラウドサービスだけでなくオフィスに設置しているハードを使えばクラウドサービスがさらに使いやすくなるとアピールしている。
ハードとサービスの連携は販社のビジネスチャンスに
オフィスに設置した事務機として、プリンタはクラウドサービスとの連携が従来から進んでいた。スマートデバイスにプリンタと連携するためのアプリをダウンロードし、端末からの単純な印刷指示だけで、しかもワイヤレスで指定したプリンタから印刷できる環境を整える。これにより、例えば取引先でタブレット端末を使ってプレゼンテーションを行い、その場でタブレット端末から、その企業のプリンタに印刷するということもできる。これまでのような、プリンタ・ドライバをインストールしたPCだけしか印刷できないという環境が大きく変化しているわけだ。
スキャナやプリンタなど事務機とクラウドサービスの連携は、ユーザー企業にメリットをもたらすことに加えて、事務機ディーラーにとってもハードの拡販が図れるようになる。ユーザー企業に対して、使い慣れたスキャナやプリンタでクラウドサービスを有効活用できるようになると提案することで、買い替え・買い増しを促すことができるわけだ。
クラウドサービスは、社内に構築しているシステムを必要としない方向に進み、オフィスへのハード販売が減少するのではないかとの見方が根強くある。しかし、事務機メーカーのスキャナやプリンタとクラウドサービスとの連携を図る動きは、ハードの販売を増やすことにつながりそうだ。しかも、スマートデバイスを販売できるケースも出てくることから、事務機の販売から新しいビジネスに発展する可能性を秘めている。