大手セキュリティメーカーが、中堅・中小企業(SMB)向けセキュリティサービスの展開を本格化する動きが顕著になっている。SMB市場開拓で後発のマカフィーは、1年前に就任したジャン・クロード・ブロイド社長の下で、2013年、SMB事業のパートナー体制を一新。SMBを得意とする1次販売店(ディストリビュータ)の数を約10社に絞り、支援を強化する。販社によるインフラや顧客サポートへの投資を促す狙いだ。また、今年前半からSMB向けサービス展開に注力しているトレンドマイクロとシマンテックも、SMBビジネスの拡大に向けて動いている。共同セミナーの開催や、パートナーへの直接訪問などの施策を講じて、販社への接触を密にする。(ゼンフ ミシャ)
マカフィーのブロイド社長は、「中堅・中小規模の企業を、成長のキーと位置づけている。SMBビジネスの強化を目指して、2013年にパートナー戦略を刷新する」と本紙のインタビューで明らかにしている。同社は来年、米国などですでに展開中のパートナー支援プログラムを新たに日本で開始する。このプログラムは、1次販売店を対象にするもので、販社の利益を投資とリンクすることを特徴としている。「販社が、SMB向けセキュリティサービスの展開に必要なインフラや顧客サポートに投資すればするほど、販社にとってのマージン率が高くなる」(ブロイド社長)という仕組みだ。
もともとハイエンド市場に強いマカフィーは、これまでもSMB市場の開拓に取り組んできた。しかし、現時点で、公共や金融向けの大型案件が法人事業の売り上げでまだ大半のウエートを占めている。トレンドマイクロやシマンテックと比べて、SMBのマーケット開拓が遅れているのが実状だ。そんな状況にあって、マカフィーは2013年からグローバルのパートナープログラムを日本でも展開することによって販売体制を強化し、SMB向けセキュリティサービスの展開を本格化することを目指している。
マカフィーは新プログラムの展開にあたって、対象となる1次販売店の数を10社ほどに絞る。ブロイド社長は、「販社の利益率を引き上げるには、当社にも投資の負荷がかかる。そのため、すべての1次販売店に対してプログラムを展開することができない。当社は現在、数十社の1次販売店をパートナーとして抱えているが、そのうちの10社程度を目安に新プログラムを展開する。数少ないパートナーを厚くサポートしていく」と、戦略を語る。
マカフィーのこうした動きの背景には、セキュリティサービス市場の高い成長見込みがある。調査会社IDC Japanは、国内のセキュリティサービス市場は、2011年から2016年まで年平均8.5%で伸びて、2016年には9838億円に拡大することを予測している。セキュリティソフトウェア(年平均成長率4.3%)とセキュリティアプライアンス(同3.0%、いずれもIDC Japan調べ)よりも、成長の勢いが強いマーケットだ。セキュリティサービスは、もちろんSMBだけではなく、大企業もターゲットにしている。しかし、月額課金などによる導入のしやすさによって、とくにSMB市場で有望な商材となるのだ。中堅・中小企業はセキュリティサービス市場の成長のエンジンになる可能性が高い。
マカフィーに一歩先駆けて、今年前半から、SMBビジネスの本格化に取り組んでいるトレンドマイクロとシマンテックも、SMB市場のさらなる開拓を狙って動いている。
トレンドマイクロは、同社製品をサービス型で提供している販社に対し、ライセンスを発行・管理するためのシステムや、ユーザーごとの感染状況をレポートする管理機能を提供している。今後、1次販売店の一部とともに共同セミナーを開催し、SMBに強いパートナーとのパイプをより太くしていく。シマンテックは、パートナーアカウントマネージャー自らが販社を直接訪問。パートナーと密に接触し、SMB向け案件獲得に注力している。
IT管理者の数が少ないSMBでは、運用管理を含めたマネージドセキュリティサービスの需要が高まっている。運用管理は販社が行うので、メーカーは今、販社の「運用管理力」を向上させることに必死だ。販社へのサポートを厚くして、2013年以降、SMB市場を本格的に開拓しようとしている。
表層深層
マカフィーは、2013年に新しいパートナープログラムを開始し、SMB市場を本格的に開拓しようとしている。同社の売上構成は、法人向け事業と個人向け事業がそれぞれおよそ50%を占めている。また、法人事業では、大企業や政府機関向けのビジネス展開のウエートが大きい。ハイエンド市場では、マカフィーは有力システムインテグレータ(SIer)と組んで、データセンターなどの大規模システムをサイバー攻撃から守るソリューションを提供している。今年9月に、ITホールディングスグループのTISを最上位の「Eliteパートナー」として獲得した。今後も、販売体制の強化に取り組むという。
しかし、マカフィーが新たに狙うSMBビジネスは、ハイエンド市場と比べて案件のボリュームが比較的小さい。したがって、販社の利益をいかに確保するかが、パートナー戦略のカギを握ることになる。マカフィーは、販社がSMB向け展開に投資すればするほど、マージンを向上させるモデルを採用。この取り組みは、マカフィーが投資する金額も大きくなるので、決してリスクは低くない。マカフィーが、SMB市場に有望性を感じてマーケット攻略を本格的に開始することの裏づけとして、パートナー戦略を位置づけていることが読み取れる。
ジャン・クロード・ブロイド社長によると、マカフィーにとって、日本は米国に次いで2番目に大きい市場。だからこそ、あえて大きく投資して、強い販売体制を築こうとしている。