ミック経済研究所
調査第二部部長・主任研究員
平山浩二
市場の可能性
2010年度の国内IT市場規模は16兆6155億円で、2016年度まではその水準に戻らない見込みだ。SaaS、PaaS/IaaSで構成する2011年度のクラウド市場規模はまだ2000億7600万円の規模でしかないが、IT市場で伸びているのはほぼクラウドだけの状況とみられる。2011年度のSaaS市場は1634億4600万円で、2017年度までに58%伸びる。急成長しているのは、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)、リモートアクセス、ウェブ会議システムなどだ。ハードウェア市場は縮小傾向にあって、データセンター市場は微増。こうした状況下で、ITベンダーはクラウド市場に群がっている。
傾向と課題
中小企業向けのSaaS市場は、ここ数年、ほとんど伸びていない。中小企業規模で売上比率が高かったのは情報系SaaS市場で、300人未満のレンジを合計すると、2011年度で45.5%を占めている。情報系SaaSについては、中小企業向けの販売が進んでいる。一方で業務系SaaSの場合は15.3%でしかなく、大企業向けの大型カスタマイズを含むASPや金融向けSaaSの売り上げのウエートが高い。なお、100人未満の企業ではSNSやスマートフォン向けアプリケーションの利用がメインとなっている。
注目したいのが、各分野で上位2社のシェアが上昇していることだ。2011年度のシェアでは、SFAは85.9%、リモートアクセスは67.6%にもなる。SaaS市場は参入が相次いでいるが、後発ベンダーは収益を上げることが難しくなっている。すでに、上位と下位のベンダーの間で10倍近くの差が生じている分野がある。
ITベンダーへの提言
成長のカギを握るのは、間接販売のビジネスモデルの構築だ。営業活動がうまくいかないベンダーは、大型案件は自社で手がけて、儲けが少ない中堅・中小企業の案件はパートナー企業に任せている。パッケージが売れないからSaaSを始めたというケースでは、従来のパートナーのうち、実績があるのは1、2社という状況が少なくない。パートナーが利益を得られる仕組みの構築が不可欠といえる。
SaaS事業で年10億円の売り上げを計上するベンダーも増えてきたが、新たな課題が浮上している。上場企業に対しては、すでにほとんど営業をかけ終わり、その結果、新商材や廉価版の投入など、次の成長戦略を展開する必要が生じている。
(構成/信澤健太)
見逃したらソン!最新データ
▼矢野経済研究所調べ
『スマートデバイスに関する法人アンケート調査』
タブレットを導入済みと回答した法人は18.4%。スマートフォンでは17.8%だった。タブレットは「社内情報」や「Eメール」の閲覧に次いで「販売活動」や「オフィス文書」の閲覧などの比率が高い。スマートフォンは「Eメール」と「社内情報」閲覧の比率が高い。
▼野村総合研究所調べ
『2017年度までのIT主要市場の規模とトレンド』
車載情報端末やデジタルカメラなどの多様な専用端末が次第に淘汰されて、スマートデバイス上のアプリケーションに移行する。スマートグリッドなどのエネルギー領域の成長にけん引され、2017年度のM2M市場は約8700億円に急拡大する。