国産の有力クラウドベンダーは、価格やサービス品質などの点で、他社との差異化をより明確に打ち出すことに取り組んでいる。国内PaaS/IaaS市場が急速に伸びている状況にあって、「外資対国産」だけではなく「国産対国産」の戦いも激化しつつある。NTTコミュニケーションズとGMOクラウドはアマゾンなど外資勢を強く意識して、サービス価格を大きく下げている。一方、さくらインターネットは「アマゾンを意識しすぎない」(田中邦裕社長)ことを掲げ、サービスの品質重視など、日本ベンダーとしての強みを前面に出している。
PaaS/IaaSを中心とするクラウド市場は、差異化の時代に差しかかっている。国産ベンダーは、先行して市場開拓に取り組んでいるアマゾンやグーグルなど“黒船”にどう立ち向かうかはもちろんのこと、同じ国産ベンダーとの違いをどう打ち出すかも急務となっている。
PaaS/IaaS市場は、日本でもクラウド利用のメリットを評価する意識が高まりつつあって、活況を呈している。2016年までに2200億円に増大することが見込まれているほどだ(アイ・ティ・アール調べ、グラフを参照)。外資・国産ともに、ベンダーは市場開拓に必死となっている。
国内PaaS/IaaS市場でトップシェアをもつNTTコミュニケーションズはこのほど、社内で「アマゾン対抗プロジェクト」を立ち上げた。「アマゾンを約30%下回るよう、サービスの価格を下げている」(中山幹公クラウドエバンジェリスト)と、価格設定をアグレッシブに見直している。
アイ・ティ・アールによると、NTTコミュニケーションズは首位を堅持しているが、「Amazon Web Services」を含めた競合サービスの追い上げが堅調。ベンダー間の差が縮まっている状況にあって、NTTコミュニケーションズは低価格であることを武器として、シェアの維持・拡大に取り組んでいる。

3月12日、日本インターネットプロバイダー協会が東京・品川で開催した「Cloud Conference 2013」。ライバルの3氏が、同じテーブルに着いて戦略の“本音”を語った。(左から)GMOクラウドの青山満社長、さくらインターネットの田中邦裕社長、NTTコミュニケーションズの中山幹公クラウドエバンジェリスト
GMOクラウドも「価格を徹底的に抑える」(青山満社長)という戦略をとっている。しかし、同社は大手外資やNTTコミュニケーションズのようなスケールメリットを生かすことができないことから、「クラウドを呼び水にして、収益性の高い専用サーバーの案件獲得につなげる」(同)ことによって、収益の確保を狙っている。
競争が激化し、国産ベンダーは、どこで戦うべきかを見極めることが問われている。NTTコミュニケーションズやGMOクラウドのように、大手外資を意識して低価格を重視するか。それとも、高い品質やクラウド以外のサービスメニューなど日本ベンダーならではの強みをを打ち出すのか。
さくらインターネットの田中邦裕社長は、「アマゾンを意識しすぎて、価格だけを重視するのは賢くない」と指摘する。同社では、価格を下げるよりも、サービス品質の改善に力を入れることを方針としており、外資系だけでなく、低価格重視の国産競合との違いも明確にしようとしている。
国産の有力クラウドベンダーは、差異化の時代の到来を受けて、自社の特徴を打ち出すことに懸命だ。クラウドは他社との違いを訴えにくい性格をもっているので、価格設定は差異化の要素となるのは確かだが、国産ベンダーは価格以外の付加価値をユーザー企業にアピールすることを忘れてはならない。(ゼンフ・ミシャ)