中国ではサービス産業の振興に向けた取り組みが盛んに行われている。この5月末、国を挙げた大規模イベント「中国(北京)国際服務貿易交易会(京交会)」を北京で開催。流通・小売りや情報サービス、コンテンツといったサービス産業の振興を目的としたもので、今年が2回目だ。中国はこれまで製造業の集積に力を入れてきたが、今後はこれに加えてサービス産業の育成にも力を入れる姿勢を鮮明にしている。(取材・文/安藤章司)

「京交会」で開催された中国服務貿易協会主催の「中国文化産業投資および貿易国際大会」
「京交会」は北京市内の複数会場で開催された。ガラス張りの大きな建物は会場の一つとなった国家会議センター
「京交会」会場の一つ、北京国際会議センター南の「広交会」 北の「京交会」
「世界の工場」と評されるほど、中国の製造業の集積は成功を収めてきた。電機・電子や衣料、自動車部品に至るまでの幅広い製造業の振興が原動力となり、世界第2位の経済大国に躍進した。
しかし、所得水準や生活水準が向上するのに伴い、人件費が上昇。中国人民元のドルに対する値上がりも避けられないなか、コスト競争力を生かした中国製造業の将来に陰りがみえるのも事実だ。そこで中国政府が打ち出したのがサービス産業の振興である。
中国は、2015年までの5か年計画で、GDPの伸び率を上回る勢いでサービス業を伸ばす目標を掲げており、今回の「中国(北京)国際服務貿易交易会(京交会)」も、こうした中国の政策を反映したものになっている。「京交会」では中国国内外のサービス業関係者を集めてのパネルディスカッションや勉強会、展示会に加えて、商談会も多数開催。6月2日付の主催側発表によれば、会期中の商談成約件数は415件で、成約金額ベースでは昨年の第1回に比べて約3割伸び、うち海外との成約件数は114件に達したという。
国を挙げてのイベントは、中国南部の都市・広州で1957年から開催されている「中国進出口商品交易会(広交会)」が有名だ。のちの中国の改革開放と相まって、外国企業と商品(モノ)を交易する一大イベントへと発展してきた。年に複数回開催されており、今年10月は114回目の開催を予定している。「広交会」は主に商品(モノ)の交易をメインとしているのに対し、「京交会」はサービスを対象としている点が大きく異なる。ただ、京交会は今年で2回目という開催回数からもわかるように、中国のサービス振興策はまだ始まったばかりだ。
文化産業の重要性は「韓流」が証明
「京交会」はサービス業に属する幅広い団体や企業が参加し、パネルディスカッションや勉強会を開いた。このなかの一つとして、中国服務貿易協会が中心となって「中国文化産業投資および貿易国際大会」と題したパネルディスカッションを開催。映像や音楽、ゲームなどの文化産業の振興をテーマとしたもので、ディスカッションの冒頭で講演した中国文化部外聯局の趙海生副局長は、「コンテンツ産業には国内外の活発な交易が欠かせない」と、中国のコンテンツ産業の発展に向けて海外市場との連携を重視する姿勢を示している。
中国の文化産業の状況をみると、例えば米国のコンテンツ関連における著作権ビジネスの世界シェアは46.4%に達しているが、中国は1%未満にすぎず、発展の余地は大きい。「京交会」は、サービス商材の積極的な海外輸出に力を入れることで、コンテンツ産業でも世界シェアの拡大に努めていく。
隣国の韓国をみると、自国で制作した映像や音楽作品を積極的に海外へ輸出している。いわゆる「韓流」ブームを巻き起こしたことで、多くの消費者は韓流に影響されるかたちで「韓国製品は格好いい」「韓国のサービス商材は進んでいる」という印象を抱いた。結果として、韓国の文化産業は国としてのブランド価値向上や製造業の輸出増などにも多大なプラス効果を生んでいる。
中国の文化産業が、韓流のような対外的な発信力、輸出力をもたないままでは、結果的に中国のブランド価値向上に役立てることは難しい。こうした意味でも国内の文化産業の振興のみならず、海外向けの輸出にも力を入れる重要性を中国自身が強く認識している現れでもある。
ITを活用した高度BPOに注目
ITに近い領域では、高度ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)に熱い視線が注がれている。円安や中国の人件費高騰につれて、単純な受託ソフトウェア開発や、データ入力などの従来型BPOは採算が合いにくくなっていることから、中国企業はより複雑で高度なスキルが要求される高度BPOへのシフトを急いでいることが背景にある。

左から、済南麗之仁信息諮詢服務の木田橋麗総経理、北京日豊泰達国際医薬科技の正田豊董事長兼総経理 京交会に出展した山東省の済南麗之仁信息諮詢服務の木田橋麗総経理は、「日本企業と協業して中国市場の開拓をワンストップで請け負う」と意気込みを語る。同社はソフト開発で培ったITのノウハウを駆使して、ネット通販などで沖縄の化粧品メーカーの中国での販売チャネルを開拓したり、日本の健康食品や医薬品を取り扱う北京日豊泰達国際医薬科技と連携して山東省の市場開発に乗り出したりといった高度BPOに力を入れている。北京日豊泰達の正田豊董事長兼総経理は、「山東省での市場開発で麗之仁信息と連携していきたい」と、麗之仁信息のBPO事業に期待している。
木田橋総経理は、山東省中小企業管理協会や山東省女性企業家協会などの役員を務める地元の有力な女性経営者。「従来型のソフト開発やBPOでは伸びしろに限界がある」と、今回の挑戦に乗り出した背景を話し、「日系企業からの、こうしたワンストップ型BPOサービスに関する引き合いは強い」と手応えを口にする。ITのノウハウを強みに、今後は中国での市場開発やネット通販などの業務プロセスをワンストップで請け負う高度BPOビジネスに拡大させる方針だ。
もはやハードの「おまけ」ではない
中国が力を入れるサービス業のなかには、当然、情報サービス業も含まれる。中国がサービス業の振興策を打ち出すことで、ビジネス環境の整備が進み、中国での情報サービスビジネスの振興にもつながることが期待されている。こうした中国の変化を踏まえたうえで、日系ITベンダーは中国でのビジネス拡大に力を入れる。固定資産管理システム「ProPlus」シリーズの開発で知られるプロシップもその1社だ。
固定資産管理は、減価償却など会計的な資産管理のアプローチと、現物管理的なアプローチがあるが、とくに前者はそれぞれの国で会計制度が異なるため、当該国の関連法令の解釈、これにもとづく製品仕様のつくり込みなど、地場の会計士・税理士と密接な連携をとった開発が不可欠だ。同社は、今年4月、大連に続く二つ目の拠点として上海法人を開設。中国市場へのコミットを一段と深めた。

プロシップ
山口法弘取締役 プロシップの山口法弘・取締役海外ビジネス営業本部長は、「制度変更のたびに、固定資産管理も手直しする必要があり、地場に密着した迅速なサービスを提供できるかどうかが海外ビジネスのカギを握る」と、中国市場に密着したビジネスを重視する。営業面では日系、中国地場系を含めておよそ300社にコンタクトをとり、固定資産管理システム「ProPlus」シリーズを活用した付加価値の高いサービスを提供する力をもつパートナーを探すとともに、今年5月には中国でのパートナープログラムを策定。中国市場での販路開拓に余念がない。
かつての日本がそうだったように、「ソフトウェアやサービスは、ハードウェアの付属品」といった“おまけ”扱いされていた時期は、中国のサービス業の振興とともに終わりを告げつつあることを意味している。日系情報サービスベンダーのビジネスにおいても、こうした中国政府の狙いに沿った提案を強めることで、これまでにない案件獲得につながる可能性が高まっているといえそうだ。