子育て支援事業を展開しているAsMama(甲田恵子CEO)は、ソニックガーデン(倉貫義人社長兼CEO)に委託して、身近な子育て支援者と、その支援を受けたい人とをつなぐ「子育てシェアサービス」のシステムを構築した。ソニックガーデンは、クラウドを活用して、試作と評価を繰り返しながらシステムを構築していく“納品のない受託開発”のスタイルをとっている。AsMamaは、仕様書不要で委託を開始。現在もシステムの改善を積み重ねている。
ユーザー企業:AsMama
創業は2009年11月。子育てを支援したい人と、その支援を受けたい人をつなぐための環境づくりを事業としている。従業員数は45人で、そのほとんどが育児経験のある女性となっている。
製品提供会社:ソニックガーデン
製品名:納品のない受託開発

ソニックガーデンの倉貫義人社長兼CEO(左)とAsMamaの甲田恵子CEO【課題】「仕様書の作成」はハードルが高い
AsMamaは、子育てを支援する人と、その支援を必要とする人を、身近なコミュニティのなかでつなぐための環境づくりを事業としている。具体的には、子育ての仲間や支援者との出会いの場を創出する交流イベントを全国で開催して、子育てに関わる人たちを年間約5万人集めている。そして、「子育てシェアサービス」の提供を事業としている。イベントなどで知り合った子育てができる人と、全国に約300人いる子育て支援の専門家「ママサポーター」に、子どもの送迎や保育を1時間あたり500円で依頼できるサービスだ。依頼者は身近な存在を見つけて、安心して子育てを任すことができるし、支援者はやりがいや収入を得ることができる。「子育てシェアサービス」は今年4月に開始したが、そのシステムを構築するまでには長い道のりがあった。
甲田恵子CEOが「子育てシェアサービス」のシステムを構築したいと考えた頃、会社にはエンジニアがいなかった。
そこで、甲田CEOは、システムの構築を委託しようと考えた。延べ約200人の技術者と面談するなど、慎重に担当エンジニアを選定したが、採用には至らなかった。甲田CEOは、「要望するシステムを口頭で説明しても、『仕様書がなければできない』といわれた。必死に勉強して、仕様書をつくったが、今度は業者によって見積もりの金額や作業の工数がまったく違うという問題に突き当たった。説明を受けても、システム開発に詳しくないので理解できず、どの業者を選択したらいいのかがわからない」と、頭を抱えてしまった。
【決断と解決】アジャイル開発でシステムを改善
転機になったのは、知人から紹介を受けて12年8月にソニックガーデンを訪問したことだった。
ソニックガーデンの受託開発は、クラウドを活用して、試作と評価を繰り返しながらシステムを構築していくアジャイル開発の方式をとっている。そのため、「納期を設けずに、長期的な取引を前提として、継続してシステムを改善していくスタイル」(倉貫社長兼CEO)となっている。料金は、一括支払いではなく、月額固定制だ。この“納品のない受託開発”は、一度システムを構築して、納入したらそれで終わりという従来の受託開発とは一線を画している。倉貫社長兼CEOは、「ユーザー企業にとって、システムの構築は多額のコストを要する重要な作業だ。仕様書に従うかたちの受託開発では、使わない機能や足りない機能があることが導入後に判明した場合に、さらにコストがかかる。また、スタートアップの企業では、ITの専門家がいなくて、仕様書の作成が困難なケースが多い。当社では、そのつどシステムを改善していくことができる。顧客が仕様書を用意する必要もない」と説明する。
甲田CEOは、「最初に説明を受けた時には、いつシステムが完成するかわからないといわれて、疑心暗鬼だった」というが、仕様書ありきのシステム構築ではなく、まずは構想に沿ってつくってみるという独特のスタイルに興味をもった。その後のおよそ4か月の間、毎週ソニックガーデンのオフィスを訪ねて、必要なシステムについて話し合った。最終的に、「『一番いいのは、無駄なシステムをつくらないこと。ただ、本当に必要なシステムということであれば、ぜひ請け負いたい』という言葉から、信用が置ける人だと判断して、採用しようと決意した」と甲田CEOは振り返る。
こうした経緯があって、今年1月にシステムの構築を開始し、4月には「子育てシェアサービス」をスタートすることができた。まだベータ版の提供ではあるが、「今後は、UI(ユーザーインターフェース)や、支援者への支払いの課金システムなど、改善したいところは多い」と甲田CEO。“納品のない受託開発”を選択したおかげで、いつでもシステムに対する要望を反映していくことができる。そのうえ、月額定額制の利用となるので、追加費用はかからない。甲田CEOは、「継続的なつき合いもあって、まるで社内にCTOができたような安心感がある」と語った。(真鍋武)
3つのpoint
仕様書ベースでない
システムをそのつど改善できる
信頼できるCTOができた