国内の独立系ソフトウェアベンダー(ISV)にとって、海外進出は事業戦略上、今や必須条件となっている。サイボウズは、決算期末を従来の1月から12月に、2012年度から変更した。同社社長の青野慶久は、「グローバルを見据えた措置」と理由を説明する。米国や中国企業の多くが採用する「12月期」を期末としたのだ。主力とするグループウェアの国内市場は、競合との熾烈な争いを強いられるだけでなく、案件のパイが減少。海外で通用する何かの“武器”を携えて海外に出る時が来ていると判断したうえでの決算期変更だ。(取材・文/谷畑良胤)
サイボウズは、13年度(13年12月期)の期初、年度中に中国と米国で業務アプリケーション連携クラウド「kintone」を本格的に販売を開始することを計画した。「kintone」の名前の由来は、『西遊記』の孫悟空が乗る雲(クラウド)の「キン斗雲」にちなんだものだ。「変化の速いビジネス環境に即座に適応するため」(青野)にすばやく対応する“速い雲”をイメージしたという。
「kintone」は、すでに中国の日系企業やローカル企業にも好調な売れ行きを示している。中国の企業には、スケジュールなどを共有する文化がなかった。日本市場もロータスの「Lotus/Notes」が浸透する前はそうだったように、中国でサイボウズはグループウェアの拡販に苦戦を強いられた。だが、「kintone」であれば、既存システムの連携製品として採用が期待できる。
サイボウズは、過去、米国に進出して失敗した経験がある。「Lotus/Notes」が浸透する国に、日本色の強いグループウェアは「馴染まなかった」と、当時現地に派遣された担当者が明かす。このほど提供を開始した、新しくソーシャル機能を付加した「kintone People/Space」は、米国進出の足がかりを築くうえで欠かせない製品だ。米国では、セールスフォース・ドットコムの社内SNS「Chatter(チャター)」など、リアルタイムに情報を共有するだけでなく、SNS上のつぶやきを解析するビッグデータ活用が進む。サイボウズもこの文化に馴染む機能を加えたのだ。

サイボウズが米国向けに「kintone」のサービスを説明するために構築したウェブサイト アマゾンなどのクラウド基盤を使えば、「kintone」と同じように開発費用を抑えて開発できる。青野は「他社クラウドを使えば、その運用に合わせることになる」と、ブラックボックス化を避ける必要性を感じた。もちろん、国内クラウド基盤でサイボウズのクラウドサービスは提供されている。それでも「サイボウズが必要とするセキュリティ基準や品質を満たす」(青野)べく、「kintone」を自社開発したわけだ。自前主義に走るには、相当の覚悟が要るし、開発費用も膨大になる。それをあえて断行し、同社の今がある。
サイボウズ社長の青野と同じ考えをもつISVの経営者は多い。NTTデータ イントラマートは、アマゾンなど外資系一辺倒の傾向に対するアンチテーゼとして次世代システム基盤「intra-mart Accel Platform」を開発し、シェアを伸ばしている。この基盤の販売先の目線は、海外市場にある。日本のグローバル企業に採用を勧め、欧米系ITベンダーの進出がまだ途上にある東南アジアへ進出を開始。同社社長の中山義人は「世界的にみれば、外資系大手ITベンダーへの資本集約が起きている」と危機感を露わにする。巨大なITベンダーがアジア進出を本格化する前に、ベースの市場獲得を狙っているのだ。
このシリーズに登場したISVのほとんどが、海外進出を前提に将来の事業戦略を練っている。テラスカイのようにセールスフォース・ドットコムの手が届かない領域で米国へ出たり、アイサイトは特化分野のアプリでアジアを攻める。クラウドという飛び道具ができてから、事業展開の視野は広がっている。[敬称略]