日本のSIerの海外ビジネスが、勝ちパターンを見出せるかどうかの岐路に立っている。日本のSIerは積極的にアジア成長市場へ進出してきたが、大きな成果を上げているベンダーはごく限られている。NTTデータをはじめとするトップ層は、グローバルITベンダーとしての成功を狙えるポジションを固めつつあるが、すべての国内ITベンダーがNTTデータのようになることができるわけではない。さまざまな制約があるなかでの日系SIerが実現可能な勝ちパターンを検証してみよう。
国内トップベンダーは、資本力があり、人材も豊富に抱えていることもあって、海外ビジネスの基礎を着実に固めつつある。NTTデータは、2007年以降、海外でのM&A(企業の合併と買収)に本格的に取り組み、直近ではグループ約6万人の社員のうち海外社員がおよそ半数を占める。日立システムズはマレーシアの地場有力SIerと合弁会社を立ち上げて、ASEAN主要国をカバーする販売・サポート網を確立した。どの会社でもNTTデータや日立グループのようになることができるわけではないが、だからといって、大手以外のベンダーは海外ビジネスに望みがないかといえば、それは違う。
海外進出する日系SIerの現行ビジネスのなかから、成長可能性が高い事業と、そうでない事業を分けてみた。成長につなげられる可能性が高いのは、(1)パッケージソフト(2)クラウドサービス(3)M&Aだろう。いずれも先行投資を伴うリスクがあるのは承知のうえだ。逆に、そうでない事業は(a)対日オフショアソフト開発(b)既存顧客の海外ITサポート(c)日系企業だけを対象とするSIだと本紙ではみている。(b)は、ユーザー企業の進出先の近くに駐在所を設けて、その顧客のサポートだけに専念する。(c)は海外で新規に日系顧客を開拓する手法である。過去20年余り、多くの日系SIerはまず(a)から始まって(b)へと進み、少し余力が出てきて(c)を手がけている段階ではないだろうか。
日系関連ビジネスがよくないといっているわけでは決してない。海外に足がかりをつくるうえで日系関連ビジネスは非常に有効だし、日系関連が売り上げのベース部分を支えてくれることで新規領域へ進出しやすくなる効果も期待できる。リスクも少ない。ただ、伸びしろの大きさでみると、日系関連ビジネスは、しょせん、国内ビジネスの延長線に過ぎない。国内で手がけてきたような受託ソフト開発が海外では通用しないことを考えると、伸びしろ部分はパッケージソフトやクラウドサービス、M&Aなどのアプローチに絞られる。
理想をいえば、海外でまとまったシェアが獲ることができるソフト・サービスを自社で開発することに尽きるが、残念ながら国内にはそうしたベンダーはごく少数しかいない。そこで登場するのがM&Aだ。サイオステクノロジーは、2006年に米SteelEye Technologyをグループに迎え入れ、この会社が開発する高可用性(HA)クラスタやバックアップソフトを北米や日本を含むアジアへ展開。中国へはいち早く進出し、「販路はほぼ確立できた」(岩尾昌則常務執行役員)と手応えを感じている。
ITホールディングス(ITHD)グループのTISは、中国天津でのDC事業の成功を足がかりとし、今年8月からはインドネシアでもクラウドサービスを始めた。国内でTISといえば疑う余地もなくSIerであるが、中国・ASEANでのTISは見方によっては「クラウドサービスベンダー」にみえなくもない。サイオスも、国内ではオープンソースソフト(OSS)を駆使したSIで屈指の実力をもつSIerという印象があるが、海外ではHAクラスタソフト開発ベンダーにみえることだろう。
SIer特有の全方位のビジネスモデルにこだわっていては、NTTデータやAccentureのように、本当の意味でグローバルに展開するしか方法がなくなる。だが、いくつかの点に絞ることで海外ビジネス拡大への足がかりを掴むことは可能だ。これまでのドメスティックなビジネスの発想を捨てて、ITの専門家としての目利きで、ターゲットとする海外市場で何が求められているのかを冷静に分析すること。そして、M&Aを含めて、最適な商材を能動的に揃えていく戦略性が求められている。(安藤章司)