日本と中国のITサービス・アウトソーシングビジネスの振興をテーマとする「日中サービスアウトソーシング企業懇談会」が、9月26日、東京都内で開催された。中国のサービスアウトソーシングへの関心は高く、情報サービス関係者やシンクタンク、自治体や大学関係者など約70人が出席した。新疆ウイグル自治区からも多数のITベンダー幹部が訪日団として参加し、中国における対日オフショアソフト開発ビジネスの最前線が、西端地域にまで広がっていることを印象づけた。(取材・文/安藤章司)
日系SIerの開発拠点は内陸部へ

中国商務部
賈峭羽
副処長 懇談会は、中国政府でサービス貿易の促進を担う中国商務部服務貿易和商務服務業司が主催し、中国服務貿易協会とBCNが協力するかたちで開いた。駐日中国大使館の特別後援と、日本のITサービス関連産業など9団体の後援を得たイベントだ。来賓として挨拶した中国大使館の羅暁梅・経済商務処参事官は、「日中の経済関係は緊密で重要だ」と述べるとともに、開催に協力した中国服務貿易協会の趙中屹執行副会長は、「中国のサービス産業の伸びしろは大きく、ビジネスチャンスも大きい」とアピールした。
基調講演に立った中国商務部の賈峭羽副処長は、「中国は産業構造の転換が進んでいる」として、過去30年あまりの改革開放の結果、飛躍的な経済発展を遂げたものの、これからの30年を見通すと、「これまでとは違う新しい発展の段階にきている」と指摘した。IT関連産業では、経済発展に伴う人件費の高騰によって、日本からのオフショアソフト開発の発注量が伸び悩む副作用も出ているという。
急速な発展を続ける中国沿岸部での従来型の対日オフショアソフト開発は、もはやコスト的に厳しく、沿岸部ほど人件費の高騰が著しくない中国内陸部の活用を推進することが強く求められている。大手日系SIerもすでに内陸部シフトを進めており、例えばNTTデータは、沿岸部中心だった開発拠点を内陸部の長春や西安、重慶へ、ここ1年ほどで次々と分散させた。ITホールディングスグループのTISも、主力開発拠点を北京から西安へと移しつつある。

満席となった「日中サービスアウトソーシング企業懇談会」低コスト以外の魅力を売り出す

iSoftStone Japan
丹波嘉皓
副社長 懇談会には、中国西端の新疆ウイグル自治区の有力ITベンダー幹部ら多数の関係者が参加し、日系ITベンダーの幹部と活発な意見交換を行った。中国は国土が広いのに加えて、ソフト開発に欠かせないIT系高等教育機関も全国規模で充実している。IT人材の厚みという面においても中国内陸部は非常に魅力的だ。懇談会を通じて、中国でのオフショアソフト開発の最前線は、中国西端の新疆ウイグル自治区まで広がっていることを強く印象づけた。
ソフトウェア開発に詳しい中国有力ベンダーである軟通動力信息技術日本法人iSoftStone Japanの丹波嘉皓副社長は、日本向けビジネスの改革ポイントとして、(1)人件費が比較的安定している中国内陸部の開発拠点の一段の活用、(2)日本国内のニアショア開発体制の強化、(3)日本のITベンダーがもつ商材を活用した中国ビジネスの拡大を挙げた。以前のような低コストの魅力が薄れているなかで、「中国の優秀な人材そのものを活用するという観点が重要になってくると同時に、日本ベンダーのニーズに合致した対応が対日ビジネス拡大のポイント」(丹波副社長)と話す。

EnMan Corporation
今泉勝雄
社長 日本の多くのITベンダーは中国市場でビジネスを拡大したいと望んでいる。中国ベンダーはこうした日系ベンダーの要望を踏まえつつ、双方に利益のある協力関係の構築こそが、今後、より強く求められている。EnMan Corporationの社長で、アジアITビジネス研究会理事の今泉勝雄氏は、「今の日中ITサービスは、構造が『量より質』に転換している」と指摘。付加価値を高められるビジネススタイルに転換すべきで、このためには「日中双方のプレーヤーが知恵を出し合い、中・長期的な視野をもったビジネスモデルの再構築を進めていくことが大切だ」とコメントした。