タレント管理や劇場運営などを手がける吉本興業(大崎洋社長)は、メールの仕組みを「Google Apps」に移し、クラウドサービスを利用して災害に強いシステム環境を整えた。そして、「Google Apps」と連携するかたちでトランスウエアが提供するメール誤送信防止ツールを導入した。これによって、イベント募集やキャンペーン案内など、日頃の業務に欠かせないメールを、安全で便利に使うことができるようにしている。
【今回の事例内容】
<導入企業> 吉本興業1912年創業のエンタテインメント会社。大阪に本店・本部を、東京に本部を置く。社員数は644人、所属タレントは約6000人
<決断した人> よしもとアドミニストレーション 情報システム管理部 土屋 篤 氏新しいことに挑む吉本興業の企業文化をシステム面で支援することが仕事のやり甲斐だと言い切る
<課題>キャンペーン案内などを送信するためにメールが欠かせない。メールシステムの災害対策や、誤送信防止が課題だった
<対策>メールサービス「Gmail」を中核とするクラウド型サービス「Google Apps」を採用するほか、メール誤送信防止ツール「Active! gate SS」を導入
<効果>災害に強いシステムを構築し、うっかりミスによるメールの誤送信を防ぐ
<今回の事例から学ぶポイント>利便性を損なうことなく、業務の基盤をなすメールの安全性を確保することが大切
うっかりの誤送信が心配のタネ
「よしもとの劇場公演チケットをプレゼント!」。毎日、ファンのパソコンやスマートフォンの画面に、「お笑い」を売る吉本興業からキャンペーンやイベントの案内メールが届く。
吉本興業が一日で送信するメールの数は約2万通。一度に複数の当選者や応募者にメールを送ることもある。うっかり間違えてアドレスをBccではなく、ToやCcに入れてしまうと、個人情報の漏えいにつながるので、メールを送信する際は細心の注意を払わなくてはならない。メールの誤送信はどうすれば確実に防ぐことができるのか。吉本興業のシステム運用を担当するよしもとアドミニストレーションの情報システム管理部は頭を悩ませていた。
クラウドに適した誤送信防止
吉本興業がメールシステムの一新を決断したきっかけとなったのは、東日本大震災だった。2011年3月11日、新宿区の古い学校の校舎をリフォームした建物に入居している東京本部のオフィスが大きく揺れた。社内に設置しているメールサーバーは大丈夫か。吉本興業の上層部は、もしもシステムが壊れて、1日でもメールの送受信ができなくなったら、ビジネスへの影響が大きいとみて、震災直後によしもとアドミニストレーションに対して、メールシステムのクラウド化を検討するよう、指示を出した。
検討を重ねて採用したのは、メールサービス「Gmail」を中核とするグーグルのクラウド型サービス「Google Apps」である。メールサーバーがデータセンター内にあるので、震災によって被害を受けるリスクが低いと捉えて、導入を決めた。そして、「Google Apps」を導入した延長線の課題として出てきたのは、クラウド環境に適したメール誤送信防止ツールを探さなければならない、ということだった。
「ウェブで検索したら、トランスウエアが上位に表示されたので、連絡を取ってみた」。よしもとアドミニストレーション 情報システム管理部の土屋篤氏は、最初のコンタクトはウェブ検索に引っかかったことがきっかけだったと語る。後日、トランスウエアの営業担当から、「Google Apps」と連携して、ToやCcに入れたアドレスを自動的にBccに変換する機能を備えている「Active! gate SS」の提案を受けた。
土屋氏は、利便性を損なうことなく、安全なメール送信ができることを評価し、導入を決裁する吉本興業に「ぜひ入れたい」と申請した。トランスウエアの営業担当には粘り強く値引き交渉して、導入費用を下げてもらい、コストを気にする吉本興業から採用の承諾を得ることにこぎ着けた。そして、最初の提案から3か月という短時間で「Active! gate SS」を用いて構築したシステムの稼働を開始した。
YouTubeで社内の情報伝達
吉本興業は、新しいことに挑む企業文化を大切にしていることもあって、個人の端末を社内システムにつなげて業務に生かす「BYOD(Bring Your Own Device)」を推進している。「古いシステムでは、パソコンだけでメールの送受信ができたが、新しいクラウド型のシステムでは、モバイル端末でもメールを送ったり、受信したりすることが可能になったので、メールの活用シーンが広がった」(土屋氏)と効果を実感している。
同社は、社外に向けた情報発信のツールとして安全なメール環境を整える一方で、社内のコミュニケーションに関しては、これまで主要通信手段だったメールのやり取りを減らそうとしている。
現在、テスト的に取り組んでいるのは、動画サイト「YouTube」を活用した社内の情報交換だ。例えば、東京本部から大阪本店に伝えたいと思っているメッセージをスマートフォンのカメラで撮り、YouTubeにアップロードする。こうして、メールではなくYouTubeを伝達ツールにして、「スピーディでかつ正確な社内コミュニケーションの実現を図っている」 (土屋氏)というわけだ。(ゼンフ ミシャ)

タレントが登場する記者会見のセッティングを行う。新宿にある東京本部は、古い学校の校舎を改装し、旧体育館をイベントスペースとして活用している。メールシステムをデータセンターに移すことによって、災害対策を講じた