クラウドとインメモリコンピューティング、そしてモバイル。独SAPは、これらのテクノロジーを「三大革新技術」と位置づけ、パートナーと築くエコシステムで中国市場に広めようとしている。SAPが北京で開いた自社イベント「China SAPPHIRE」で、SAP幹部が語った内容から、SAPが描く中国市場攻略の今を探る。(『SP/計算機産品与流通』2013年12月9日第22期第16巻より)
翻訳・再編集/『週刊BCN』編集部
高まる中国市場の重要性
独SAPの創業者であるハッソ・プラットナー氏は、2011年11月に北京で開催した自社イベント「China SAPPHIRE(中国商業同略会)」で、SAPの中国事業計画を発表した。それから約3年、SAPのグローバル戦略のなかで、中国のポジションは確実に高まっている。SAPの中国での事業エリアは13都市まで拡大し、13年の「China SAPPHIRE」は史上最大の規模で、2日間の合計来場者は2万人を突破。そして、「グローバル技術サポート本部」を北京に設置した。中国でのSAPの存在感は高まり、SAPも中国をさらに重要視している様子がうかがえる。
SAPの共同CEOであるビル・マクダーモット氏は、「SAPにとって中国は第二の故郷。中国も私たちを受け入れてくれることを願っている」と「China SAPPHIRE」の冒頭挨拶で語り、中国での事業発展に意気込みを示した。また、最高技術責任者(CTO)のヴィシャル・シッカ氏は、「SAPは世界各国でビジネス展開しているが、そのなかでも中国をとても重要視している。大学や政府、ベンチャー企業など、あらゆる企業・団体と良好な関係を築き上げることを私たちは強く望んでいる」とラブコールを送った。
中国電信との共同クラウドを開始
今回の「China SAPPHIRE」開催当日の午後、SAPは中国通信事業者の大手である中国電信(チャイナ・テレコム)と共同で、パブリッククラウドを開始すると発表した。2年前に設立した中国電信グループ企業との合弁会社である中数通信息有限公司が準備し、満を持して提供するサービスだ。
SAPのアジアパシフィックジャパンチャネル開発担当でシニアバイスプレジデントのブロンウィン・ヘイスティングス氏は、「パブリッククラウド以外にプライベートクラウドによるマネジメントホスティングもある。事業展開するにあたって重要なポイントは、活気に溢れるエコシステムであり、ユーザーに多くの選択肢を与えることだ。ユーザーは、自社ソリューションを中国地場のクラウド基盤に構築することができ、パブリッククラウドを使うこともできる。企業が中国地場のクラウドからパブリッククラウドに移行する際にも、SAPは最良のソリューションを提供できる」と発言した。
また、SAP副総裁兼SAP Greater Chinaチャネル&エコシステム総経理の潘応麟氏は、「クラウドホスティングは、顧客に多くの選択肢を与えた。ユーザーは、パブリッククラウドかプライベートクラウドかを自由に選択できる。これによって、パートナーは新しいビジネスモデルを構築できる」と説明する。
プライベートクラウドやクラウドホスティングは、中国のユーザー企業に浸透し始めている。とくに、大手企業や国有企業は、プライベートクラウドやクラウドホスティングに対して明確な利用プランをもっているという。SAP Greater Chinaプレジデントのマーク・ギブス氏は、中国におけるパブリッククラウドの発展に楽観的で「すばらしい成長が期待できる」と話し、成長を疑っていない。
スピード・適応力・獲得力を支援
クラウドとともに、SAPが推進する重点ポイントは「ビッグデータ」と「モバイルプラットフォーム」である。
「ユーザー企業が急成長するために必要なのが、『スピード』『適応力』そして『獲得力』」とギブス氏は分析する。それを支えるテクノロジーが、「インメモリコンピューティング」「クラウド」「モバイル」だという。これらのテクノロジーを、シンプル・安全に、より効果的な方法で提供することにSAPはこだわる。「三大革新技術における優位性が、ビジネスに劇的な変化をもたらす」という。
ヘイスティングス氏は、「これまで、がん患者が病院で正確な診断結果を手にするまでには、およそ6週間を要した。それを、『SAP HANA』ベースのアプリケーションソフトを使えば、4~6時間に短縮することができる。医師は、有効な治療プログラムを患者に迅速に提案することができる」と例を交えながら話した。また、「過去半年、私たちは中国で販売パートナーの育成プログラムを実施してきた。これにより、中国市場でのシェアを拡大し、多くのパートナーは、革新的なサービスと業務運営を顧客へ提供し始めている」と話し、パートナーとの協業の重要性も語っている。
従来の伝統的なITチャネルを、SAPプラットフォームとクラウド・エコシステムパートナーへ転換するには、いくつかの方法がある。その一つが組み込みソリューションとプラットフォームのOEMだ。そこにはモバイルプラットフォーム、ビジネスアナリティクスプラットフォームやデータベースプラットフォームなどが含まれている。
潘応麟氏は「たとえ小規模な企業であってもソリューションを提供するチャンスがあり、その過程において自社を発展させることができる」という。中国国内では、すでに神州数碼、華勝天成、中軟、太極などの実力派ソリューションプロバイダがSAPのプラットフォームソリューションを採用。SAPのプラットフォームのOEMあるいはVAD(付加価値ディストリビュータ)としてパートナー関係を構築している。
技術者育成で事業基盤を強固に
ここで特筆すべきは、SAPが買収した企業がもつフロントエンド・インターフェースですぐれた技術「SAP Fiori」を、さまざまなSAPのソフトウェアに取り入れていることだ。「SAP Fiori」は、SAPアプリケーションソフトウェアのユーザー・インターフェース(UI)設計、デザインの最終形と位置づけられており、すべてのSAPのフロントエンドに適用していく考えだという。
また、今回の「China SAPPHIRE」で、SAPはモバイルコマースに関して初めて中小企業向けに「SAP Anywhereアプリケーションキット」を発表した。セールスリードの創出から受注、販売に至るまでのプロセスを「SAP Anywhereソリューション」を活用することで簡素化、迅速化できるという。そのほか、SAPグループ会社のハイブリスのeコマースプラットフォームは、アリババグループの支付宝やテンセントの微信のシステムと統合している。これらのプラットフォームは、中国全土で圧倒的なシェアを獲得し、1万の新規ユーザーが利用し始めている。
「SAPが努力し続けているのは、SAPプラットフォームをベースにしたアプリケーション開発者による自由な活用を促すこと。オープンなプラットフォームで、異なるアプリケーションであっても、『SAP HANA』がもたらすメリットを十分に享受できる」。SAPアジアパシフィック・日本地域のデータベース&テクノロジーの副総裁であるアンソニー・マクマホン氏は、「SAPと多くのディストリビュータやSIer、ISV、ハードベンダーが一緒になって、ユーザーが新たなアプリケーションを活用できるように支援する」と話す。
SAPの技術におけるさまざまな取り組みは、ユーザーが新しい技術によって、新しいビジネスチャンスを掴み、新しいビジネス価値を創造するための支援である。SAPは、すでに40以上の中国の大学と提携し、大学カリキュラムにSAP関連の授業を設けている。そうした授業を通じて、ビッグデータの分析、モバイル、クラウドコンピューティング、ERPなどの技術人材を育成しているのだ。「SAPは人材育成を加速させる。今年の目標は、1500人の大学生がSAPの技術を学んだ後、SAPのエコシステムに加わっていくことだ」と潘応麟氏は説明し、協業戦略を引き続き強化する姿勢を鮮明に示した。
『週刊BCN』は、季刊発行(3月、6月、9月、12月)する中国特集号で、中国ITベンダーの動向や欧米系ITベンダーの中国でのパートナービジネス戦略情報を発信しています。そのなかで、BCNの中国子会社・比世聞(上海)信息諮詢有限公司は、中国IT業界のパートナービジネスの領域でメディア・コンサルティングサービスを展開するSPと協業し、情報収集・発信体制を強化。その一環として、SPのコンテンツの一部を活用しています。この記事は、SPが発行する中国IT専門メディア『計算機産品与流通』(「コンピュータ製品と流通」の意味)が掲載した記事を、BCNが翻訳・再編集したものです。