インド・タタグループの大手システムインテグレータ(SIer)であるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の日本法人、TCSジャパン(カマラ・カンナン社長)は、国内事業の拡大に向けた基盤づくりに積極的に投資している。4月1日付で、日本法人の従業員を150人増やし、バイリンガルのインド人と日本人で構成する数百人の人員体制を整えた。カンナン社長は、「近々、1000人まで増員する」ことを構想している。こうした規模の営業・技術部隊は、日本で事業を展開するインド系SIerのなかでは断トツ。TCSジャパンはこれを踏まえて、海外進出する日本企業への「グローバル支援」を商材に、これから数年で5億米ドル(約500億円)の売り上げを目指す。(ゼンフ ミシャ)
アジア特化型の「進出支援」を売り込む
プライムベンダーに舵を切る

TCSジャパン
カマラ・カンナン
社長 TCSジャパンは、このほど、東京・港区の本社に、ソリューションの体験ができるコーナーを新設した。ビデオ会議で、1500人の日本専用の開発部隊をもつインド本社につなぎ、ビジネスアプリケーションなど、各商材の優位性を訴求する。「興味を示していただいたら、インドに招いて、現地でさらに深く体感してもらう」(カマラ・カンナン社長)というように、丁寧な顧客対応を心がけて、事業拡大に結びつけようとしている。
コンサルタント系SIerであるTCSの2013年12月期の全世界の売り上げは、34億3800万米ドル。前年同期比で約1億米ドルの伸びをみせた。同社は、着実に成長を遂げて、IBMやアクセンチュアなど、世界トップクラスのITベンダーとの距離を縮めつつある。日本法人の売り上げは公開していないが、これまで比較的規模が小さかったと思われる。TCSジャパンは、2004年に設立。短時間で低コストでのシステム開発ができるインド式を武器にして、主に国内ITベンダーのアウトソーシング先として事業を展開してきた。
しかし、このところ日本企業が中国やインドへの進出を加速している。TCSジャパンはこうした情勢下にあって、グローバル展開のシステム面の支援を商機と捉え、およそ2年前に、ビジネスの再編に着手。本社を移転・拡大し、プライムベンダーとしての事業展開に舵を切ることによって「TCSグローバルの成長を上回る勢いで」(カンナン社長)売り上げが伸びるようになった。これを追い風に、現在、本格的な事業拡大に動き出している。
この4月に、従業員を150人増員して、開発・営業の体制を大幅に強化。エンジニアリングやERP(統合基幹業務システム)、アプリケーションデリバリに加え、近々、コンサルティングからシステムの提供まで、海外で企業の業務を支援する「ビジネス・プロセス・ソリューション(BPS)」群を投入する。ポートフォリオを拡充しつつ、提案活動に取り組み、国産・欧米系ベンダーにはできない、アジアに特化した進出支援を切り口とする案件の獲得を目指していく。
近いうちに、従業員を1000人まで増やして、「売り上げを5億米ドルに伸ばしたい」(カンナン社長)と、事業拡大に意欲を示す。
“ニッチ”パートナーと協業拡大
TCSは、日本法人を立ち上げる前の1987年に、インド系SIerとして初めて日本市場に進出した。現在は、ウィプロ・ジャパンやInfosys Japanなど、ほかにもインドに本社を置くSIerが日本でビジネスを展開しているが、規模や成長の勢いでは、TCSジャパンと肩を並べるには至っていない。
TCSジャパンが他社との差異を明確にするために注力しているのは、言語や商慣習についての従業員教育である。インド人の社員に日本語教育を受けさせ、日本企業と商談ができるスキルを身につけさせるとともに、日本人の社員をインドに派遣している。現地で研修を受けさせ、本社と日本法人の橋渡し役を担う人材を育てるわけだ。
事業拡大に向けたTCSジャパンの取り組みは、日本のSIerにとってチャンスとなる。TCSジャパンは直販のほか、製造や医療など、特定の業種に精通するSIerとの協業を強化しようとしているからだ。カンナン社長は、「生命保険の分野ですでに日本のSIerとうまく手を組んで案件を実装した実績があるので、これから、横展開に力を注いでいきたい」として、パートナーシップづくりに積極的な姿勢を示す。
お知らせ
TCSジャパンのカマラ・カンナン社長のインタビュー記事は、4月21日号の「Key Person」に掲載します。