【インド・プネ―発】インド工業連盟(CII)は、2月20日、インドのIT産業の中心地の一つ、プネ―で「インドの自動車産業とそのサプライチェーンにおけるITコンプライアンスリスク~サプライチェーンの強化に向けて」と題したセミナーを開催した。地元の自動車メーカーや自動車部品メーカー、ITベンダーなど、55人が参加した。

 プネ―は、インド西部のマハラシュトラ州でムンバイに次ぐ第2の都市。人口は300万人を超え、自動車関連産業やIT産業が盛んだ。比較的治安がよく、近年は日本の自動車関連メーカーの進出先としても注目されている。今後、日系企業向けの工業団地を整備することも決まっている。

 一方で、こうした新興国の製造業をターゲットに、とくに米国では、海賊版ソフトウェアなどを使用する企業に対して、不正競争防止法を適用してペナルティを課す動きが広がっている。正規ライセンスを取得していないITを使うことを、「違法な手段を使ってサプライチェーンのコストを下げた」として取り締まるという考え方で、海賊版を取り締まる根拠となっている知的財産権の保護の枠組みとは別の新しい規制が、製造メーカーのビジネスリスクになりつつある。

 今回のセミナーは、こうした背景を踏まえて、インド最大の経済団体であるインド工業連盟が、プネー周辺の日系企業や現地自動車関連企業向けに、サプライチェーンのITコンプライアンスの重要性を啓発するために開催した。
 

オープニングセッションにはCII幹部らが登壇

 オープニングセッションには、地元プネ―に本拠を置き、自動二輪車でインドを代表するメーカーのバジャージ・オートのラージーブ・ジョラプール情報システム管理担当バイスプレジデントや、CII国家知的財産委員会共同代表で大手ITベンダー、センザー・テクノロジーズのガネーシ・ナトラジャン副会長兼CEOといったインド経済界の大物に加え、マハラシュトラ州産業部のサダシブ・スルバセ ジョイント・ディレクター、CIIプネ地区IT&ITES(ITサービス)委員会議長でインフォシス・テクノロジーズのプラビン・クルカルニ アソシエイトバイスプレジデントが登壇し、イベントの意義や、プネーの製造業、IT産業の現状と課題などについて話し、参加者と情報を共有した。

 バジャージ・オートのジョラプール バイスプレジデントが、「ユーザー中心の考え方を徹底し、コストの問題よりもコンプライアンスを重視する必要がある。今日のセミナーを、リスクをチャンスに変えるきっかけにしてほしい」と口火を切ると、続いてセンザー・テクノロジーズのナトラジャン副会長が、「インドのGDPを向上させるには、IT産業よりも製造業の役割が大きい。しかし、製造業の企業が成長するためには、サプライチェーンの課題を解決するITの力が不可欠。SMACというITの新たなトレンドからも明らかなように、スマートフォンはPCを駆逐しつつあるし、将来はビッグデータとアナリティクスによってサプライチェーンを管理するようになるだろう」と指摘。さらに、「その際、ITコンプライアンスはすべての基盤になる」とも話し、製造業の成長に向けてITの適切な導入が重要であることと、ITコンプライアンスの管理が競争力のベースになることを示唆した。

 また、マハラシュトラ州のスルバセ ジョイント・ディレクターは、プネーを含むマハシュトラ州政府が、近年、税制の優遇措置など、製造業誘致のためのさまざまな制度を整備していることを紹介。オープニングセッションの締めくくりとして、インフォシス・テクノロジーズのクルカルニ アソシエイトバイスプレジデントが、地元ITベンダーと製造業企業が、情報交換をしながらIT導入を促進する取り組みを積極的に展開していることを紹介し、マハシュトラ州には制度だけでなく、製造業発展のソフト的な基盤があることをPRした。

 続いて登壇したインド対外貿易所(IIFT)中小企業研究センター代表の K・ラングラジャン博士は、2016年までにインドの自動車産業の市場規模が1450億米ドル程度になるという予測と、自動車部品の輸出では、もともと巨大な需要がさらに拡大している米国が市場として魅力があるという分析結果を示した。これを踏まえて、「正規のITを使用してITのコンプライアンスを高めることは、競争力の強化につながる」と主張した。 
 

IIFT代表のK・ラングラジャン博士

 また、米国での新たな違法IT規制の動きに対応して、インドのライバルとなる中国やタイがすでに知的財産保護政策の強化を打ち出していることに触れ、「こうした競合国に比べると、ソフトウェアの違法コピー率が低いインドのメーカーは、彼らとの差異化を図るためにITコンプライアンスの徹底を急ぐべき」と指摘した。

 セミナーでは、日系企業のITコンプライアンスの取り組みも紹介された。日本の自動車産業のコンサルティング業務を担当するKPMGビジネスアドバイザリーの奥村優 ディレクターは、「日本のグローバル企業は、サプライチェーンのリスク管理を非常に重要なものだと考え、サプライチェーン全体のITコンプライアンス強化にすでに取り組んでいる」と説明。そのうえで、「さまざまなケースがあるが、リスクをアセスメントとして、それを受けて対策をするという2段階での取り組みが必要なのは、あらゆる事例に共通する。そのためにも、海外子会社にはとにかく正直にリスクを報告することが求められる。また、そうした親会社・子会社間のやりとりを記録・管理し、効率よく仕事を回していくためにも、ITの力は不可欠」と訴えた。 
 

KPMGビジネスアドバイザリーの奥村優 ディレクター

 このほか、インド国内の著作権関連法とソフトウェア盗用の現状について、弁護士のフジェファ・タワワラ氏が解説したほか、世界最大のIT関連業界団体であるビジネス・ソフトウェア・アライアンス(BSA)のガウリ・ソナオジャム プログラム・マネージャーが、ITコンプライアンスのリスクを軽減するための具体的なソリューションとして、BSAが開発したソフトウェアライセンス管理支援ポータルサイト「Verafirm」を紹介した。「Verafirm」には、コンプライアンス状況を評価する2段階の認証スキームもあるが、中小企業は単純に登録して、ライセンス管理ツールとして利用することもできるという。ただし、日本語版はまだリリースされていない。(本多和幸)