サーバーの値下げ圧力がより一段と強まる様相をみせている。Facebookなどが提唱して始まった米「Open Compute Project(OCP、オープンコンピュートプロジェクト)」の余波が、いよいよ国内にも本格的に及びつつあるからだ。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が、日本のITベンダーとしては初めて、米OCPの認定ソリューションプロバイダとなり、この4月からOCP準拠の商材の販売をスタート。また、OCPの主なユーザーとなるデータセンター(DC)事業者もOCP準拠の商材や部材の調査研究を開始している。OCPはハードウェアの価格や維持費を下げることを目的とした活動であり、既存のコンピュータメーカー製品の価格にも影響を及ぼすことは必至の情勢にある。(安藤章司)
「OSSのハードウェア版」が誕生
OCPは、「オープンソースソフトウェア(OSS)のハードウェア版」とたとえられるように、既存のメーカー製ハードウェアに対抗するかたちで勢力を増しつつある。現在のコンピュータメーカーの多くは、サーバーなどの自社製品をOEM(相手先ブランドでの製造)やEMS(製造受託サービス)といった方式で、外部のメーカーに製造委託している。OCPは自らサーバーなどの仕様を決めて、まとまった台数をOEM、EMSメーカーに発注し、ブランド力のあるコンピュータメーカーを介さずに、直接買い付けることで調達コストを下げている。あるDC事業者は、「メーカー提示価格で800万円もするような最新スペックのサーバーを、半額以下で買えるケースも出てきている」と驚く。
もちろん、メーカー製品とOCP準拠製品は、同じものではない。メーカー製は、製造者責任の考え方にもとづいて、ユーザーが多少乱暴な扱いをしても、極力、問題を起こさないように二重、三重の安全策が施されている。この点、OCPはDC運営のプロがチューニングし、ITリソースとは直接関係のない部分を思い切って削ぎ落とすことで、パフォーマンスあたりの価格を下げている。メーカーによる懇切丁寧なサポートや保証は期待できないが、その分、価格も安いし、性能も高い。こうした点が「OSSのハードウェア版」といわれる由縁である。また、OCPによれば、DC全体を最適化することで消費電力だけでも従来比で10%余りの削減効果があり、維持費削減の面でもメリットが大きい。
情報サービス業界に対するインパクトは、かつて「OSS」が登場したときと同じようなものが想定される。Linuxに代表されるOSやウェブサーバー、クラウド基盤の「OpenStack(オープンスタック)」などさまざまなOSSの登場によって、メーカー製のソフトウェアの価格高騰を牽制してきた。なかにはOSSで完全に代替できてしまう領域もある。OCPはDCに特化した仕様であることから、「DCのOSS化」と比喩するIT業界関係者も少なくない。現に「OpenStackとOCPの相性はとてもよい」(CTCでOCP事業を担当する小泉利治・ITインフラ技術推進第1部部長代行)とする声もある。
OCPはDC運営の知見を集積
クラウドサービスに代表されるように、IT機器はDCへ集約される流れにあって、DCのコストを下げるOCPは、今後、OSSと同様、影響力を増していくことは間違いない。今年4月、CTCが国内で初めてOCP準拠の商材の販売を開始しており、今後、独立系SIerを中心にOCP商材の流通が拡大することが見込まれる。あるDC事業者によれば、台湾のOEM、EMSメーカーを中心に、「サーバー台数ベースで5000~1万台規模の発注で、フルカスタマイズしてくれるようになってきた」といい、従来の数分の1の発注台数でもユーザー仕様のハードウェアを開発する体制が整いつつある。ましてや、サーバー保有台数ベースで50万台とも、60万台ともいわれるFacebookなど米大手ITサービスベンダークラスであれば、ITベンダーを通さずに、直接、台湾のOEM、EMSメーカーと取引したほうが、価格面や仕様面で有利になる。
だが、国内を見渡せば、FacebookやGoogle、Microsoftに匹敵するような規模でオーダーできるITサービスベンダーは、残念ながら非常に限られている。だからこそOCP準拠の製品に相乗りすることで調達コストや維持コストを下げる取り組みは、メリットが大きい。日本のOCP推進団体のOpen Compute Project Japan(OCPJ)の委員の一人であるビットアイル総合研究所の長谷川章博所長は、「ソフト開発にソフトウェア開発キット(SDK)があるように、OCPはハードウェア版SDKと捉えている」と、ソフト開発の効率化に欠かせないSDKになぞらえて、OCP準拠とはいわないまでも、OCPを参考にして自らのビジネスの最適な仕様策定に役立てる考えだ。
同じくOCPJ委員でデータホテルのテクニカルアーキテクトを担当する伊勢幸一執行役員は、「OCPの知見を自分たちのビジネスに採り入れる一方で、自分たちが独自に開発したDCに関する技術もOCPに積極的に開示していく」と、OSSの文化と同様、コミュニティへの還元を重視する。「『ITリソースあたりこれだけのコストを下げた』と開示することで、コミュニティに参加する別の技術者から『実は、うちはこういう方法も考えたんだ』と反応が返ってくる。こうした積み重ねによって、世界のOCPのなかのOCPJの存在感を高めていく。
OSSが今や情報システムの構築になくてはならない存在であるように、OCPも情報システムの心臓部に相当するDCの構築に欠かせない要素になるのは間違いない。