積水化学グループの社員は2万人を超える。同社のグループウェア「iSmile」は、海外法人を含むすべての社員が利用することから、ライセンスコストや社内要件に対する柔軟性を考慮し、オープンソースを活用して自社開発した。2004年のメールシステムに始まり、翌年には電子会議室などの機能をリリース。以降、四半期ごとに機能を追加してきた。iSmileは当初からオンプレミス環境で運用してきたが、メールストレージの保守期限が迫ってきたのを機に、クラウド環境への移行を果たした。
【今回の事例内容】
<導入企業> 積水化学工業1947年創業のプラスチック成形・加工メーカー。三つのカンパニー(事業体)に、コーポレート部門を加えた体制で、多様な事業を展開している。グループの社員数は2万人を超える
<決断した人> コーポレート 情報システムグループ 部長 原 和哉氏全社情報システム部門として、グループウェアなどの情報系システムを中心に企画・戦略立案を担当している
<課題>グループウェアと電子メールでおよそ100台のサーバーを運用管理。毎年、20台から30台の更新作業が大きな負荷となっていた
<対策>AWSのクラウドサービスを採用
<効果>情報システム部門のメンバーがシステムの開発や保守、運用に集中できる
<今回の事例から学ぶポイント>クラウドを採用しただけでは大幅なコスト削減は期待できないが、自社の状況にあったサービスやライセンスを契約することによって、コストを削減できる可能性がある
オープンソースで自社開発
積水化学工業は、住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックスの3カンパニー(事業体)を柱として、多様な事業を展開している。海外進出は早く、1963年設立の米国法人は、日本の製造業の米国進出第1号となった。2013年3月期連結ベースでの海外グループ企業は91社で、現在も事業のグローバル化を積極的に推進している。
連結ベースの社員は2万人を超えており、積水化学グループでは、全員を対象にするグループウェア「iSmile」を運用している。iSmileは、オープンソースを利用して自社開発したものだ。
「2万人以上が利用するので、商用製品を利用すればライセンスコストが膨大になってしまう。オープンソースを利用して、内製化したのはそのため」とコーポレート情報システムグループの原和哉部長は経緯を語る。
iSmileは2004年のメールシステムに始まり、翌年には電子会議室などの機能をリリース。以降は四半期ごとに機能を追加しており、現在では17の機能が提供されている。
順調に滑り出したiSmileだが、運用開始からの期間が長くなるにつれ、課題も出てきた。最も大きな課題は、サーバーの運用管理だ。iSmileは、およそ100台のサーバーによるオンプレミスの環境で稼働していた。毎年20台から30台のサーバーがリース期限を迎えるので、その切り替えが年次の必須作業となっていた。
メールシステムについては、社員からの要望が常に出ていた。というのも、メールボックスの容量を100MBに制限していたからである。ウェブメール形式での利用になっているため、メールボックスが溢れる前に既読メールを削除しなければならないが、その頻度が高くなっていた。
また、メールシステムのストレージが保守期限を迎えていた。保守期限が2013年8月のところ、無理を言って1年延ばしてもらっている状況だった。そのストレージの切り替えが、インフラを見直す直接のきっかけとなった。
SaaSを含む移行モデルを検討
新基盤を検討するにあたって、原部長は四つのケースを検討した。一つは、これまで通り、オンプレミス環境でハードウェアを切り替える。二つ目は、全面的な刷新。三つ目は、グループウェアのSaaS。そして、既存のシステムをIaaSに載せるというのが四つ目となる。
図は、その検討結果だ。現状のスペックでハードウェアを切り替えるのはコストでは優位に立つが、メールボックスの容量増加などの追加要件を満たすことはできない。SaaSはユーザー数が多いために、コストが大幅にアップしてしまう。ユーザーIDの管理も大きな運用負荷となる。IaaSに対しては図にあるように◎の評価がつかなかったが、原部長はIaaSの採用を決断した。総合評価で優位との判断である。
IaaSのなかでは、実績からAWS(Amazon Web Services)を中心にして複数のサービスを調査した。決め手となったのはNoSQLデータベースサービスの「Amazon DynamoDB」だったという。「DynamoDBはI/Oギャランティ(帯域保証)で契約できる。ほかのIaaSにはなかった」と原部長。メールのパフォーマンスを確保するには、I/Oギャランティ型高速データベースが魅力的だった。
AWSへの移行にあたっては、これまで出ていないバグが見つかるなどのトラブルはあったが、大きな問題にはならなかった。システム改修などを含めて、グループウェア環境の移行はおよそ半年の移行期間で完了した。
「AWSに移行しても、表向きのコストが大きく下がることはない。ただ、サーバーの更新作業が不要になったのは大きい。情報システム部門は開発や保守、運用に特化できる」と原部長は効果を実感している。今後について、原部長は、「IaaSは、すぐに調達できるのでシステム開発用としての利用に向いている。また、IaaSに移すことができるシステムは移していきたい」と考えている。(畔上文昭)