日本IBM(マーティン・イェッター社長)は、今年9月、バックアップ管理ソフトウェアのアプライアンス販売に乗り出した。システムインテグレータ(SIer)3社と提携し、ハードウェアに組み込むかたちで提供。年間、6%前後の伸びをみせているバックアップアプライアンス市場の開拓に取り組むことによって、国内バックアップ市場での日本IBMのシェアを現在の10%から、3年後には30%に引き上げる。現在は3社に絞っているパートナー体制だが、アプライアンス販売が軌道に乗れば、パートナーの拡充も検討する。(ゼンフ ミシャ)
日本IBMの期待
日本IBMと提携するのは、大手の商社系SIerであるSCSK、日本IBMの子会社でハードウェア構築に強いエクサ、そして、中堅・中小(SMB)市場を得意とするベニックソリューションの3社。彼らは、日本IBMのバックアップ管理ソフトウェア「Tivoli Storage Manager(TSM)」を自社で扱っているメーカー各社のストレージに組み込み、アプライアンスとしてユーザー企業に売り込む。9月5日に日本IBMと共同開催したユーザー企業向けセミナーを皮切りに、本格的な提案活動を開始した。
今後は、日本IBM側でも案件を発掘し、「この3社に向けて、優先して振り分ける」(林健一郎・ソフトウェア事業本部Cloud & Smarter Infrastructure事業部事業部長)というように、密に連携しながら市場開拓に動く。
日本IBMは、国内のバックアップ/アーカイブ市場でおよそ10%のシェアにとどまっているとみられる。とくに中堅市場に弱いことが苦戦の大きな原因で、ここ数年、シェアを拡大するのに苦労している。同社によると、国内のバックアップアプライアンス市場は、年間5~7%の伸びをみせている。年間1~2%増にとどまっているバックアップ全体の市場の水準を大きく上回る。成長の背景には、システムが複雑化している仮想環境が普及し、ハードウェア、ソフトウェア、バックアップを組み合わせて、「箱」一つで効率よくデータを保護するニーズが高まっていることがある。日本IBMは、これを商機と捉え、アプライアンス販売の開始に踏み切ったという経緯がある。

日本IBM
林健一郎
事業部長 これまでソフトウェアだけで提供してきたTSMは、一回だけフルバックアップを取り、その後はデータの差分だけをバックアップするなどして、保護作業に必要な時間を大幅に短縮するもの。ここへきてTSMの価格を引き下げて、販社が中堅・中小規模のユーザー企業を対象に売りやすいようにした。日本IBMはTSMを引き続き既存のパートナー体制でソフトウェアとして提供しつつ、SCSK、エクサ、ベニックソリューションを抜てきし、アプライアンス販売に力を入れることで、バックアップ事業の拡大に拍車をかける。林事業部長は、「3年後には、国内バックアップ市場で、30%のシェアを獲得したい」と、意気込みをみせる。
日本IBMが手を組んでいるパートナー3社は、大手~中堅(SCSK)、中堅(エクサ)、中堅~中小(ベニックソリューション)というふうに、それぞれの規模のユーザー企業を網羅している。TSMのソフトウェアとして長年の販売・構築実績をもつだけでなく、日本IBMが筆頭株主になっているエクサのように、資本で日本IBMとつながっている企業もある。
販社へのインパクト
パートナーにとって、アプライアンス販売で日本IBMと提携する大きなメリットは、短期間での導入を実現することで「お客様の心がつかみやすくなる」(SCSKの白井秀明・プラットフォームソリューション事業部門ITエンジニアリング事業本部ミドルウェア部技術第三課長)という点にある。3社は、アプライアンスならではの設置のしやすさを生かして、本格稼働までの期間を約3か月に抑えることができるとみている。四半期内に導入を完了させることで、ユーザー企業の予算を獲得しやすくし、自社も四半期ごとに売り上げの結果を出すことができるので、事業の展開が安定する。
それぞれ特徴をもつ3社に、バックアップアプライアンスの販売が与えるインパクトはどのようなものなのか。SCSKは、既存のユーザー企業により深く入り込み、案件の深掘りに期待を寄せている。「中堅規模のお客様の多くは、この1~2年で仮想環境を構築してきて、そのバックアップはどうするかに悩んでいる。バックアップだけだとなかなか案件を受注しにくいが、箱の中に入れて求めやすい価格設定にすれば、ハードルは下がる。積極的にアプライアンスを提案していきたい」(白井課長)と、営業活動に力を入れる。
シマンテックのバックアップ製品の構築にも強いエクサは、シマンテック提案の失敗を財産にして、日本IBMのアプライアンスを提案する。高橋良広・基盤ソリューション営業本部セールスマネージャーが「シマンテックの提案で何がうまくいかなかったかを分析し、その知識をIBMの提案に活用したい」とコメント。シマンテックとIBM製品の併売によってバックアップビジネスの拡大を図る。コンサルティングなど、周辺サービスを提供することによって、案件ごとの利益を向上するのだ。

(左から)ベニックソリューションの小河慎二郎部長、エクサの高橋良広セールスマネージャー、SCSKの白井秀明技術第三課長。日本IBMの林健一郎事業部長(右)と密に連携しながら、日本IBMの「手が届かない」中堅市場を中心に、バックアップアプライアンスを売り込む 10年ほど前からTSMをSMBに販売しているベニックソリューションは、提携をきっかけに、ストレージ事業に本格的に参入する。小河慎二郎・営業本部東京営業部部長は「営業部隊はこれまで、ストレージの提案に消極的で、そのためクローズし切れなかった案件もあった。今はもう逃げ道がないので、ストレージの提案にも注力して、『ソリューション』としての展開を強化したい」と述べる。アプライアンスをツールに提案のポートフォリオを拡充し、利益の向上に動く。
仮想化の時代だからこそ、バックアップは「箱」で──。ここに紹介した3社の取り組みが注目を集めそうだ。