双日システムズ(南部匠社長)が手がける「アプリケーションの仮想化」のビジネスが好調だ。今後数年で当初予想の5倍の事業規模に拡大するという手応えを感じており、アプリ仮想化の方式も、順次、種類を拡充。ユーザーの多様なニーズに応えられるように、技術習得やマーケティング、営業面などでの先行投資に余念がない。双日システムズの木佐谷康・エンタープライズソリューション本部ThinApp事業部部長は「アプリ仮想化によって、OSの更改に振り回されない情報システムのライフサイクルを確立することができる」と胸を張る。(取材・文/安藤章司)
ライフサイクル完結を支える

木佐谷康
部長 双日システムズの「アプリ仮想化」に弾みをつけたのは、今年4月のWindows XPのサポート終了だった。ユーザーは多数のWindows XP用アプリを抱えながら、サポート終了に備えてアプリの改修やつくり直しに迫られていた。こうしたなか、双日システムズはアプリ仮想化のヴイエムウェア「VMware ThinApp」によって、アプリに手を加えることなくWindows 7などの新OSへの移行を実現。ユーザーのなかには「アプリを改修するのにかかる見積もりの半額以下で、しかも短期間での移行を実現した」(木佐谷部長)というケースもある。
アプリ仮想化の最大の狙いは、クライアントやサーバーのOS更改に左右されない、アプリ単独のライフサイクルの維持である。せっかくつくったアプリも、OSのバージョンアップのたびに改修していては、追加費用がかさむだけでなく、ライフサイクルや減価償却の計画も立てにくくなる。アプリ仮想化は、アプリを仮想化することでOSと切り離し、アプリに手を加えることなく新バージョンのOSへ移行できる技術だ。
図1は、「サーバー仮想化」と「アプリ仮想化」の違いを示したもの。サーバー仮想化は、ハードウェアとOSの間にハイパーバイザー(仮想化機構)を挟み込むことでハードウェアに依存しなくなるが、OSには依存している。これに対して、アプリ仮想化ではアプリとOSの一部機能をパッケージ化するため、OSに依存しない。
双日システムズは、クライアント用アプリの仮想化として、ThinAppと米Code Systemsの「Spoon(スプーン)」、サーバー用アプリの仮想化として米APPZERO SOFTWAREの「AppZero(アップゼロ)」を取り揃え、アプリ仮想化事業の拡大に取り組んでいる(図2参照)。
「EOS」のコストを大幅に削減

森田美紀氏 当面のビジネスターゲットは、2015年7月15日にサポート終了が予定されているWindows Server 2003上で稼働しているサーバー用アプリの仮想化だ。その次は2016年1月にサポートが終了する予定のウェブブラウザ「Internet Explorer 8」。企業で使われる業務アプリはウェブブラウザ対応のものも多く、双日システムズのThinApp事業部の森田美紀氏は、「例えば、アプリ本体はWindows Server 2003上で稼働し、それをIE8環境で閲覧するといったケースは珍しくない」という。IE8については、実質、2015年中に対応しなければ間に合わない。
双日システムズは、IE8互換ブラウザとして、独自に「thinforie(シンフォリエ)」を開発しており、アプリ仮想化と組み合わせることで「OSやウェブブラウザの更改に影響されない業務アプリケーションの運用」(双日システムズの関口祐美・ThinApp事業部主任)が可能になる。

関口祐美
主任 通常の業務パッケージソフトならば、アプリ開発ベンダーが新OSや新ブラウザに対応してくれるのだが、ユーザーがSIerなどに発注して独自に開発したカスタムアプリはそういうわけにはいかない。従来はカスタムアプリの開発を請け負ったSIerが新OSへの移行のためのアプリ改修を請け負うケースがほとんどだった。いわゆる「エンド・オブ・サポート(EOS)ビジネス」と呼ばれるもので、大規模なアプリの改修ならば数千万円から億円単位の受注になることも珍しくない。
ユーザーからみれば、せっかく開発したアプリが、OSやブラウザの都合で使えなくなるのは不条理な部分もある。双日システムズは、ここに着目し、アプリを丸ごと仮想化して新OSなどへ移行することに主眼を置く。また、この技術を使えば、新OSだけでなく、例えばMicrosoft AzureやAmazon Web Services(AWS)、IBM SoftLayerなどのクラウドへアプリを移行することも容易だ。アプリ仮想化のビジネスについては、当初は年商10億円ほどを見込んでいたが、「ユーザーの引き合いは予想以上に強い」(木佐谷部長)ことから、向こう数年で年商50億円への拡大を見込んでいる。