「ThinApp事業部の活動を(双日グループ内向け販売を担当する部隊と)同じ基準で評価するのは、そもそもおかしくないですか」。双日システムズの役員会議室。課長たちが経営陣に報告するミーティングで、力を込めた西本信浩さんの声が響いた。双日システムズは、アプリケーション仮想化ツール「VMware ThinApp」を商材に、グループ外向け販売の拡大を目指して、2013年にThinApp事業部を新設した。リーダーの西本さんは、立ち上げ時の赤字を恐れず、部下たちが思い切って提案活動に取り組むことができるよう、経営陣と熱い議論を闘わせて、独自の評価基準を採用してもらうようにした。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
西本 信浩(にしもと のぶひろ)
IT関連企業で開発と営業に携わった後、10年ほど前に双日システムズに入社。営業活動に従事する。2013年4月、仮想化関連事業を手がける専門部隊である「ThinApp事業部」の新設とともに、現職に就任。初代営業リーダーとして、14人の部下を率いる。
個性を生かして外販を拡大
「直近の数字ではなく、期末を見てください」。役員と口数で負けることなく、自分の部署の立場を主張した。パートナーとの関係構築など、売り上げ以外の要素も評価に取り入れ、当部署のメンバーが自由に行動できる環境を整えてもらった。
昨年、ThinApp事業部を立ち上げたが、最初の3か月の売り上げはほぼゼロだった。提案活動の土台づくりに専念し、案件の受注には至らなかったからだ。計画段階で想定していることではあるものの、役員に赤字を報告することになると、厳しく追及されるのは必至。こうした逆風に耐え、私を突き動かしているのは、社内の壁を打ち破って外販を伸ばさなければ、会社の将来はないという強い信念だ。
当社は10年ほど前から、ヴイエムウェアが提供する「ThinApp」の販売実績を積み上げてきて、他社がすぐには追いつけないほどのノウハウをもっている。これを武器に、外販を戦略的に拡大させたい。
直近では、基本ソフト(OS)の「Windows XP」のサポート終了をきっけに、アプリをパソコンから切り離し、新OSに移行させるニーズがある。そんなツールとして、ThinAppに対する需要が旺盛だ。ここにきて売り上げが伸び始め、役員の表情が以前に比べてだいぶ穏やかになってきたと実感している。
14人の部下は、個性が強い者が多く、経験もスキルも豊富だ。私は、「自立的に動きたい」という彼らの言い分を認めて、経営陣には“口うるさく”物申すのとは裏腹に、部下に対しては指示やアドバイスを控えめにしている。部下たちは、セミナーを開催してThinAppの活用シーンを訴えたり、販売パートナーと商談を詰めたりして、能動的に動き、売り上げの伸びを支えてくれている。私はこのように、フロントで部下を自由に動かせ、後方では、大胆な取り組みを行って失敗してもいいように、メンタル面を含めてバックアップしている。
経営陣には正式にアナウンスしていないけれど、今年は、数字に関する責任をすべて私が取るようにしている。つまり、各営業担当者に個別の数字目標を振り分けていないということだ。現在は、新規事業を立ち上げている最中なので、部下はいろいろな不安を抱くだろう。そんななか、「必ず受注しなくてはならない」という数字のプレッシャーをかけることなく、部下たちに思い切って行動してもらいたいと考えている。実際、案件も増えてきているので、部下の今のやる気を維持して、さらなる拡大につなげたい。
マネージャーとしてのこうした自分がかたちづくられているのは、新人時代の上司の影響が大きい。当時、私は自分の言いたいことを主張しすぎて、課長に「お前の上司、やっていられない」と怒られ、部長から「いいよ、西本の面倒をみるから」と言われて、直接、部長に付くことになった。部員の個性を大切にし、自分の考えを押しつけないその部長に学んだリーダーシップを生かして、ThinApp事業を活性化していきたい。
私の営業方針を表す漢字は……「攻」
当社はこれまで、双日グループ向けの販売(内販)を柱として、安定的にビジネスを展開してきた。今後は、売り上げを本格的に伸ばすために、グループ外向けの販売(外販)に注力して、一般企業をどんどん攻めたい。外販事業の立ち上げは、当分の間は赤字が避けられないので、利益を重視する上層部の理解を得なければならない。これまで当社の事業を支えてきた“内販派”の役員にいかに外販の重要性を訴え、サポートしてもらうか。部下とともに外販の実績を築き上げて、「攻め」のマインドを定着させたい。