アマゾンウェブサービスジャパン（AWSジャパン）は、ビジネスパートナーと連携してユーザー企業のIT人材の育成に取り組む。ユーザー企業にAmazon Web Services（AWS）を活用した「クラウドネイティブなAmazon流のものづくり」（渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長）を習得してもらうことで内製化を支援。AWSジャパンがユーザー企業に対して直接的な技術支援を行うことはこれまでもあったが、SIerを中心としたビジネスパートナーと一体となってユーザー企業の内製化を支援するのは今回が初めて。ユーザー企業が主体となって先進的なITを駆使した新規ビジネスを迅速に立ち上げてもらうことで「攻めのIT」の投資拡大を狙う。（安藤章司）

10社のSIerが
内製化支援に賛同

　AWSジャパンは、昨年秋頃からビジネスパートナーとともにユーザー企業の内製化支援に本格的に乗り出すための下準備を進め、3月23日に開催したイベント「AWSパートナーサミット2021」では、伊藤忠テクノソリューションズ（CTC）やSCSK、キヤノンITソリューションズ、アイレット、サーバーワークスなど10社が賛同を表明した。クラウド関連の先進的な技術を駆使して新しいビジネスを立ち上げるのに長けている、また既存の組織やビジネスを転換するデジタルトランスフォーメーション（DX）の文脈では、ユーザー企業にクラウドネイティブな人材が増えることがSIビジネスにもポジティブな影響を与えると考えるSIerが賛同したかたちだ。
 
　渡邉執行役員は、「DXを推進する上での障壁の多くはユーザー自身のスキルの問題に起因している」と指摘。まずは企画したビジネスをいかに素早く、安く、柔軟性をもったITシステムで実稼働させるかのスキルを身につけることが、“攻めのIT投資”の拡大につながるという。

　SIerの従来的な価値観では、ユーザー企業の内製化比率が高まれば、それだけSIerの仕事が減るとの抵抗感があったが、DXの文脈ではユーザー企業の内製化スキルを高めてもらい、横並びで協業する文字通りのパートナーとしてプロジェクトを推進したほうが成果を出しやすく効率もいいという見方が支配的だ。ユーザーの内製化支援を進めることで結果的に攻めのIT投資の拡大も期待できると考えるSIerが増えてきたことと、DXの基盤としてのクラウドの潜在市場を一段ギアを上げて掘り起こそうと考えるAWSジャパンの方針が重なり、今回の内製化支援策につながった。

ユーザーと横並びで
BizDevOpsを回す

　内製化支援プログラムでは、ビジネス企画（Biz）→プロトタイプ作成（Dev）→運用（Ops）からなる「BizDevOps」の方式を採用（図参照）。新規事業を創り出す手法「Amazon流ものづくりワークショップ」でビジネスを企画し、それを支えるITシステムのプロトタイプをつくり、運用していく一連の流れをユーザー企業とAWSのビジネスパートナーとが一体となって進めていくものだ。
 
　米国をはじめユーザー企業の内製化比率が高い国や地域では、BizDevOpsをユーザー自身が回していくケースが高いが、SIerにシステム開発を発注する割合が多い国内ユーザー企業の場合は、「ユーザー企業とSIerが横並びでBizDevOpsを回したほうがスムーズにいく」（渡邉執行役員）と話す。ITエンジニアの約7割がITベンダー側に在籍している国内の状況を考えると、実際問題としてSIerの協力がないと技術者の確保は難しいことから、「初期パートナー10社だけでなく、広くAWSビジネスパートナーに参加を呼びかけていく」（同）方針。

　BizDevOpsのうち、「ビジネス企画」はユーザーが主体となって取り組み、「プロトタイプの作成」や「運用」はユーザーとAWSビジネスパートナーとの共同作業で行うことを想定している。AWSビジネスパートナーは、BizDevOps全体をスムーズに遂行できるよう支援するとともに、従来の「発注者・受注者」の垣根を越えて、DXをユーザー企業とともに遂行するパートナーとしての役割も担っていく。

　今後も市場環境の変化に適応してユーザー企業が競争力を高めるためのDX関連ビジネスは拡大すると見られる。守りのITから攻めのITにシフトする速度も一段と高まる可能性が高い。AWSジャパンはパートナーエコシステムの力を活用してBizDevOpsの仕組みを根づかせ、AWS関連ビジネスの一層の活性化、拡大につなげていく。