数あるスポーツの中で人気の高いサッカー。プロのサッカー選手となり、1クラブチームで活躍するケースもあれば、自身の望むプレースタイルを求めてクラブチームを移籍するケースもある。ただ、移籍する際、選手の多くは代理人をつけられる一部の一流選手を除き、移籍先を自身で探さなければならない。一方、クラブチームも戦力の維持や向上に向けて常に選手を探し出さなければならないが、一部の大手クラブチームを除き、ほとんどはスタッフが自らの足で情報を探さなければならず、ここに多くのミスマッチが発生している。そこで注目が集まっているのが、選手とクラブチームのコミュニケーション支援だ。この連載では、ITの活用した新サービスによって、これまでにないビジネスを創出したケースを紹介していきたい。
PLAYMAKERのサービスサイト
「サッカーに関わるすべての人に+1の選択肢を。」というコンセプトを掲げた「PLAYMAKER」というサービスをご存じだろうか。PLAYMAKERは、サッカー業界の課題を解決するために生み出されたサービスで、選手とクラブチームのコミュニケーション支援を行う、インターネット上のバーチャル代理人のイメージである。そのほかにもクラブチームからの情報発信やレンタル移籍支援など、サービスを拡充しており、サッカー業界では注目されている。
PLAYMAKERの創設者は、元AC長野パルセイロのプロサッカー選手であった三橋亮太氏。三橋氏は自身のプロサッカー選手としての原体験をもとに「挑戦へのリミットを外す」というミッションを掲げ、さまざまな観点からスポーツ業界における課題に取り組んできた。その中でプロサッカー選手の移籍に関する課題ついて着目してサービス化したのがPLAYMAKERである。PLAYMAKERはコンセプトやプロトタイプの段階から複数のビジネスコンテストで最優秀賞を獲得。プロトタイプのWebサイトを開発し初期段階としてサービスを提供した後、本格的に事業を拡大していきたいというタイミングで相談を受け、筆者は戦略の見直しからサービスの開発、リリースまで携わっている。
PLAYMAKERの事業化で検討したポイントは、「理念の言語化」「事業ドメインの定義と理念との整合」「顧客、ニーズの明確化」「ビジネスモデルの検討」「カスタマージャーニー、UI/UX」「システム開発」「サービス提供開始後の発展」など。昨今では新たな事業やサービスの創出にITやデジタルの活用はほぼ必須といえるが、ITやデジタルだけで新たな事業、サービスが創出できるというわけではない。PLAYMAKERが当初から注目を集めた理由の一つに、アナログな部分をIT化したという要素があったといえるが、筆者は携わるにあたってIT化よりも事業戦略自体をしっかり組み立てることを重視してサービス開発に取り組んだのだ。
なお現在、PLAYMAKERはサッカーにとどまらずスポーツ全般の「キャリアプラットフォーム」としてサービスを展開しようとしているところだ。次回以降、PLAYMAKERのサービス開発で検討してきたこと、PLAYMAKERの事例から得られた事業化のヒントを抽出していく。
■執筆者プロフィール

荒井雄介(アライ ユウスケ)
シソーラス 取締役COO ITコーディネータ
大学卒業後、NTTデータ、アクセンチュア、TISを経て現職。システム監査技術者、プロジェクトマネージャ、システムアーキテクトなどのIT系資格も保有。MBAホルダーのITプロフェッショナルとして活動中。長野県ITコーディネータ協議会の理事も務める。政治学修士(同志社大学)、経営学修士(グロービス経営大学院)。