ローコードの売り文句である「ドラック&ドロップで簡単にアプリケーションが作成出来る」はとても魅力的だが、コードを手で書いていく従来のコーディング方式で開発を行ってきた開発者にとっては大きな疑問が残る。それは「ローコードで実現できるものには限界があるのではないか?」ということだ。これは至極全うな疑問であり、この疑問故にローコードを敬遠してしまう開発者も少なくない。そしてこの疑問は少なからず間違っていない。
では、「ローコードは既存の開発者にとってメリットがないのか」と言われれば、答えは「NO」である。開発者はローコードを活用することで、これまで以上に「生産性の高い開発者」になることができる。
さまざまあるメリットの中で特に筆者が個人的にメリットと感じているものとして、(1)デザインパターンの豊富さ、洗練さ、(2)保守性の向上――という2点があげられる。
デザインパターンについて、ローコードはその特徴として画面作成時には組み込みのウィジェットを使用する場合が殆どである。そのため、ローコード各製品はユーザーのニーズやトレンドに合わせたウィジェットを多数提供している。例としてデータに合わせた豊富なグラフ、モバイルアプリに対応したウィジェット、デジタル署名やAI技術用のウィジェットなども登場してきている。
特にグラフはデータ活用が重要視されている近年、収集したデータを可視化・分析し、ビジネスに活用するために不可欠な存在だ。その場合単純な棒グラフのみでなく、データ構造によっては散布図やレーダーチャートといったグラグが適している場合もある。
多彩なグラフは「ただデータを集めるだけ」のアプリケーションから進化させることが可能だ。それにより開発者にとっても重要な、アプリケーション価値や顧客満足度を上昇させることができる。
しかし、グラフィック性を求めると比例してコーディングにおける難易度は急激に上昇する。この問題に対しローコードであれば、グラフをドラック&ドロップとデータのひも付け(これもプルダウン選択等で実行出来る場合が多い)だけで実現することが可能だ。またデザイン性においても、色合いや動作性など、入念に設計されたハイセンスなものが提要されているため、動作や見た目を1から考える必要もない。
次に保守性の向上について、ハンドコーディングでは「要件をどのようなコードで実現するか」という部分は、各コーダーの技量に左右される場合が多い。例えば「画面に1から10の数字を表示する」という簡単な処理であっても、その実現方法は多数存在する。そしてその中には「あまりにも複雑なため改修が困難」といった、保守性に影響を与えるような可能性のあるコード(いわゆるスパゲッティコード)が紛れ込む可能性が高い。
その点、ローコードは組み込みのウィジェットや処理を組み合わせて利用するため、コーディング差異が出にくく、高い水準で標準化されたアプリケーションを作成することが出来る。またローコードの組み込み部分のコードやライブラリについて最新化はベンダーの担当なため、開発者が手を動かす必要はない。
また、処理をフローチャート図で作成する場合も多いので、視認性が上がり、改修や引継ぎといった点でも良い影響を発揮する。ドキュメント作成についても、視覚性が高いコードであるため必然的に削減されるだろう。
このようにローコードはこれまで当たり前に時間をかけていた工程の一部を引き受けてくれる。開発者はその分の空いた時間を要件定義や設計といった、開発者がアプリケーション価値向上のために真に時間を割くべき行為に充てることが可能であり、それにより、より「生産性の高い開発者」になることが可能だ。これは開発者にとって、とてつもないメリットであるといえる。
次回は視点を変え、DXとDevOpsやクラウドネイティブの関係性などについて解説していく。
■執筆者プロフィール

佐藤梨花(サトウ リファ)
SB C&S ICT事業本部ICT事業戦略・技術本部技術統括部
テクニカルマーケティングセンタービジネス開発課
神奈川県出身。大学ではリベラルアーツ学群に所属し、情報科学を専攻。卒業後は新卒で入社した会社にて8年半、主に基幹系Webアプリケーション開発(言語はjava)に従事。メインは設計~コーディングだが、運用・保守も担当。2021年からはSB C&S(現)にて、開発での経験を活かしDXやDevOps、クラウドネイティブなど、アプリケーション開発に関わるツールのプリセールスを担当。