日本IBM
クラウドでパートナー支援領域拡大
新たな「商流」を来年度開始
大手ITメーカーのクラウド/SaaSが急ピッチで動き出している。日本IBMは、同社のミドルウェアやサーバーとパートナーのソフトウェアやソリューションなどを融合したクラウド/SaaSのパートナーモデルを構築中。同社サーバー製品などを販売する「特約店」やビジネス・パートナー(BP)をフル活用した重点施策を来年早々にも提示する計画だ。
日本IBMは現在、ISV関連で「日本IBMパートナー・ビジネス骨太方針」と呼ぶ新戦略を新旧パートナーに説明して回っている。具体的には、重点施策として(1)環境の変化に対応した多角的な支援、(2)パートナーと「Smarter Planet」の推進だ。現在同社のISV関連では、既存ISVパートナーのうち、トップ10社程度で9割の売り上げを稼いでいる。ISV製品にIBMミドルウェアなどを組み込んで販売するスキームが不十分だったためだ。そこで、「特約店とBPのIBMパートナーによるソリューション販売の流通を確立する」(佐内桐梧・ISV&デベロッパー事業推進部長)という。
これらパートナー体制の確立の一環でキーとなるのがクラウド/SaaSの推進だ。「サービス向上」「コスト削減」「リスク管理」の三つの課題をクラウドなどを利用して解決する「Dynamic Infrastructure(DI)」をパートナーと共同推進し、「製品の再販だけでなく、クラウドで付加価値を加え、ユーザーに提供するスタイルを確立する」(佐内部長)と、ISVやBP、新規販売パートナーのビジネス領域の拡大を目的としている。
その具体例を、日本IBMの米持幸寿・コンサルティング・テクノロジー・エバンジェリストはこう説明する。「ISVのソフトは、サーバーなどITインフラのCPUを70%使っている。どんなソリューションでもクラウドにすればいいわけではないが、当社のDIでは外(クラウドサービス)から借りて、必要な時に必要な分を使えるようになる」。ユーザー側はいま、アプリケーションの追加に伴うサーバーなどITインフラの増設で新たに生じる運用費やメンテナンス費を懸念する。同社DIでITインフラ全体のコストを削減できれば、ISV製品も売り機会が増えるという構図を描いているようだ。
この方針に賛同するISVやBPを獲得するため、現在、異例の全国セミナーを開催中だ。「当社のインダストリーフレームワークの一つになることができるISVと有力ISV製品を発掘したい」(佐内部長)と、中堅・大企業から中小企業に至るまで対応する体制を整える考えだ。
しかし、現在までにどのような「商流」でISV製品などをクラウド環境と絡めて流通させていくか明らかになっていない。この具体策を来年度から具体的に動かす計画だ。
富士通
「売る」を意識したパートナー制度
クラウドでは世界のリーダーに
富士通のSaaSに対する取り組みは、国内ITベンダーのなかでも早かった。2008年2月に、「パートナーと共創、SaaSサービスの提供開始」と題する内容を大々的に発表。SaaSビジネスを始めたいISVや、SaaS基盤を活用したITサービスを提供したいITベンダー向けのサービスメニューを体系化して、その第一歩を歩み出した。
発表内容のタイトル通り、自社単独ではなく、複数のITベンダーとの協業によるビジネス展開を主眼に置いた内容で、協業制度「SaaSパートナープログラム」も用意した。「一般会員」「アプリケーションパートナー」「リセ−ルパートナー」で募るパートナーを区分けし、それぞれに応じた支援内容を揃えた。
特筆すべきは、この当時から「SaaSを売る」ことに特化したパートナー区分を用意していたことだ。SaaSの基盤づくりやパッケージソフトのSaaS化で協業を促進していたITベンダーは存在したが、富士通のように当初から「売り」を意識した協業制度・支援内容を用意していた競合ベンダーはいなかった。その点でも、富士通のSaaSビジネスの取り組みは他社よりも先を行っていたのだ。
富士通のSaaSパートナー数は今年5月の時点で、260企業、富士通のSaaSサービスが30種類を超え、他社製ソフトのSaaSサービスも約20種類が揃っている。
そして、09年4月には、クラウドサービス基盤「Trusted━Service━Platform」をリリース。サーバーからネットワーク、デスクトップまでを網羅し、ITリソースやアプリケーションの提供ほか、そのマネジメントサービスも揃えた。「クラウド」という不明確な概念をユーザー企業・団体に分かりやすく提案できるように、改めてサービスとして整理したわけだ。
それだけではない。富士通のクラウドに対する取り組みは、社外にも及んでいる。今年11月下旬、クラウド推進の世界的グループ「Open Cloud Standards Incubator(OCSI)」のリーダーシップボードになった。
「OCSI」は、クラウドコンピュ−ティング間の相互接続性の確保と運用効率化を向上させることを目的に設立された任意の作業グループで、米IBMやマイクロソフトなど世界的ITベンダー37社が参加している。
富士通はリーダーになったことで、クラウドでのITリソースの配備・設定や、追加・削除のインタフェースであるAPIを同作業グループに提案した。クラウド環境の相互接続性を評価・検証する世界的な作業部会のリーダーを務めることで、富士通が今後、クラウドの標準化活動をけん引する存在になるのは確実だ。イニシアティブを握る優位な立場になったわけだ。
自社のクラウド/SaaSビジネスの体系化を進め、クラウド推進団体のリーダーに——。とくに目新しさはないが、王道といえる戦略で、富士通は社内外で着実にSaaSとクラウドの事業基盤を固めている。
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