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「ソフトウェア」ビジネス
自社ソフトの次を担う柱へ
まずは企業利用の動画配信から
「2010年はモバイルソリューションの年になる」。ある通信キャリア関係者はこう断言する。最近では、スマートフォン向けアプリケーションが複数のメーカーから相次いで発表され、にわかに活気づいていることは、アプリケーションメーカーの動きから察しがつく。
このうち、サイボウズでは自社開発のグループウェア「サイボウズ ガルーン 2」と連携する「Windows phone」用のシンクアプリケーションである「サイボウズモバイル KUNAI for Windowsphone」や「BlackBerry」用の「サイボウズモバイル Sync for BlackBerry 」を3月に発売する予定だ。
サイボウズが矢継ぎ早に新プロダクトを発表した理由は、「すでに機は熟した」(中光章・開発本部プロダクト管理部プロダクトマネージャー)とみているからだ。「Windows phone」を選択したのは、「Windows CE」ベースの端末が買い替えの時期で、キャリアが限定されないことが大きいという。
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| インフォテリアが提供するコンテンツ作成・配信・閲覧サービス「Handbook」では、自社の製品画像・動画を自社で簡単に「iPhone」などへアップすることができる。(画面写真提供/インフォテリア) |
現在、サイボウズは「サイボウズOffice」と「ガルーン」が事業の大半を占める。今後は、「大きな柱とはなり得ないかも…」と、中光マネージャーは前置きし、スマートフォン向けアプリケーション事業を「デヂエ」と並ぶ第三の柱に成長させる戦略を練っている。すでに上海とベトナムに開発体制を整えていることが、それを裏づける。今年2月にはモバイル戦略部を設置し、拡販活動を加速化させる予定という。
米アップルが日本時間の1月28日朝にタブレット型端末「iPad」を発表したその日、XML専業ソフトウェアベンダーのインフォテリアは、「iPad」向けアプリケーション開発・販売への意向を表明した。同社は昨年6月、「iPhone」向けのコンテンツ作成・配信・閲覧サービス「Handbook」の提供を開始し、すでに青山学院大学など、大学での利用が加速している。「大学などの文教市場を含め、ビジネスシーンでスマートフォンが普通に普及する」(平野洋一郎社長)と、スマートフォン・ビジネスを次の事業の柱にするためのさまざまな施策を打ち出している。
「Handbook」は、企業のカタログやマニュアル、学習教材などのコンテンツを手軽に「作成」「配信」「閲覧」できる統合サービスだ。担当する甲斐淳仁・スマートソフトウェアビジネス部プロダクトマネージャーは、「『iPhone』を業務などで利用したりビジネス展開する際、アプリケーション開発、App Storeへの申請、サーバー構築などのハードルが高い」とみている。「Handbook」はこうした手間を省くことができ、スマートフォンの利用・普及に貢献するサービスとして拡大を目指している。同社は「iPhone」に限らず、「Windows Phone」や今後登場する米Googleの「Android」版携帯電話向けのビジネスも視野に入れている。

1月に開催された大塚商会のソリューションフェアでは、スマートフォンの利用が大きくクローズアップされていた
大塚商会のソフトウェア子会社、OSKは、インフォテリアとほぼ同時刻に、既存の法人向け動画配信SaaSサービス「eValueムービー」に新たに「iPhone」への動画配信機能を追加したサービスを開始することを明らかにした。このサービスは、MP4形式の動画ファイルを「iPhone」の「Safari」で再生可能なファイル形式に変換して配信できるようにしたものだ。
「Safari」は、パソコンでの動画再生で一般化している「Flash Player」や「Windows Media Player」に対応していない。そのため、従来は「iPhone」に動画配信するときは、アプリケーションを提供するか、または専用の再生プレイヤーを開発する手間がかかっていた。これを解消することで、「企業の教育用動画やWebサイト上のプロモーション用動画などの利用を目指している。リリースから1週間で、すでに40件以上の問い合わせがきた」(飯田俊幸・営業本部マーケティング部企画販促課1課課長)と、「iPhone」効果の大きさに驚きを隠せない。
同社では今後、ドキュメント管理やワークフローなどの機能をもつ統合型グループウェア「eValue NS」のユーザーアカウントと連携させたソリューションを構築していく考えだ。
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「地域」ビジネス
業種専業ベンダーが「iPhone」参入
すでにチャネル開拓が始動
スマートフォンのビジネス展開には、首都圏以外の地方のITベンダーでも関心が高まっている。とくに、スマートフォン向けアプリケーションには期待が大きい。「『iPhone』向けの業務アプリケーションはまだ少ない」とみて、製造・会計事務などのシステム開発を得意とする京都のスリーエースは、08年末という早い段階から「iPhone」向けの業務アプリケーションの開発に取り組んできた。「Android」向けの開発にも着手しており、スマートフォン向けアプリケーションの開発で、9人の専属技術者によるチームを組織。井上太一郎代表取締役は、「早くから注目してきた」と胸を張る。
スリーエースのイチ押しは、名刺ビューアー「BC Holder」だ。「BC Transfer Pro for iPhone3.0」は、メディアドライブの名刺管理ソフト「やさしく名刺ファイリング PRO v.10.0」と連携しており、名刺データを「iPhone/iPod touch」に転送して閲覧できる。現在、美容室の顧客の顔写真を「iPhone」からパソコンのデータベースに取り込んで、来店頻度などを記入した「カルテ」を作成するアプリケーションを開発中だ。
同社の主力である製造業向けシステムの受注は、リーマン・ショック以降の不景気が影響して、09年に前年比30%程度の落ち込みをみせた。その穴を埋める意味合いもあるようだ。
大阪に本拠を構え、音声認識技術に強みをもつドクターシュミットも、スマートフォンに期待を寄せる。「電気設備月次点検報告書作成システム」のほか、在庫管理や配置販売管理など、用途に応じてさまざまなアプリケーションを用意している。
これらのアプリケーションでは、作業中で手がふさがっている場合でも、音声入力で作業の効率化を図ることができる。同社が販売するのはPDA向けだが、ソフトバンクバンク子会社のコラボルタをパートナーに据え、スマートフォン向けのアプリケーションとしても販売している。今後は、弥生など業務ソフトウェアベンダーにも提案するなど、精力的にチャネル開拓に努めていく方針だ。
epilogue
スマートフォン向けアプリケーションといえば「iPhone」というITベンダーは少なくない。しかし、米アップルにプラットフォームを握られ、“振り回される”ケースが予想される。なかには「iPhone OSのバーションアップに際し、アップルの事情に応じて自社のアプリケーションも変更する必要が生じた」(関係者)という声も聞こえてくる。旧バージョンのユーザーは泣き寝入りとなっていたわけだ。こうした企業にソリューションを導入したITベンダーは、当然のことながらユーザーからのクレーム対応に苦慮していた。
盛り上がりをみせるスマートフォン向けアプリケーションだが、急激に普及が拡大するには、課題が少なくない。