国内のコピー/プリンタメーカーが、プリンタやデジタル複合機(MFP、複合機)など、事務機器関連に代わる新たな収益源となる新規事業を模索している。従来の機器販売は、将来的な需要の伸びを期待できず、新たな収益事業を打ち立てる必要があるからだ。需要増を期待できる「プロジェクタ」「モバイル・ラベルプリンタ」の機器のほか、機器の販売を伴わない「マネージド・サービス」の3項目について、それらのビジネスを推進するメーカーの動きを追った。
国内のコピー/プリンタ市場は、印刷関係の機器販売が昨年後半から復調気配にある。しかし、将来を見通すと、需要が急激に上向く気配はない。国内のコピー/プリンタ市場は“成熟期”に差しかかり、各メーカーの収益を上げるために、新たな事業を創出する必要性が高まっている。
新たな事業としてメーカーが期待する領域の一つに「プロジェクタ」がある。既存の光学技術を転用し、自社でプロジェクタを開発して販売を開始したリコーの動きが象徴するように、文教や医療向け、一般オフィスなどでのモバイル利用ニーズの高まりで、成長性が高いと判断されている。
また、ブラザー工業のように、従来から手がけていた「モバイル・ラベルプリンタ」をプリンタの販売会社獲得策や新たな業種業態の市場へ進出する一環として注力し始めたところもある。コピー/プリンタ単体の販売だけでは、顧客に受け入れられにくくなっているという事情がある。ITシステムをトータルで提案することができる力をつけていく必要性が高まっているということだ。
コピー/プリンタ市場の機器販売は、世界的にみればアウトソーシングへの流れが強くなっている。機器を購入して使う形態から、借りる形で、導入後の管理・運用をすべてメーカーやベンダー側に任せる方式だ。コピーメーカーの富士ゼロックスやキヤノン、リコーが先行する形で進んでいるが、シングルプリンタをメインに販売するOKIデータも、この領域に乗り出した。世界の市場では、2015年にコピー/プリンタの売上高の半分がマネージド・サービスが占めるという予測もあり、メーカー各社はユーザーのニーズが顕在化してくる前段階として、準備作業を本格化させている。自社がもち得る“得意技”を生かして、販売パートナーと連携しながら、新たな領域への挑戦が始まっているのだ。
プロジェクタ
学校向けの浸透率はまだ2割
リコーの新規参入で市場は混沌
セイコーエプソンとリコーは、プリンタやデジタル複合機(MFP、複写機)などの事務機器に代わる新たな収益源として、世界的に成長が見込まれるプロジェクタ(プロジェクション)事業の育成を急いでいる。昨年10月、初となる自社開発・生産のプロジェクタを発売したリコーが各種調査機関のデータを基に弾き出した予測値によれば、世界のプロジェクタ(ピコ/1000ルーメン未満を除く)市場は、2009年時点で約450万台、今後5年間に年率4.5%の成長が期待できるとされている。
数年前まで、プロジェクタの重さは3Kg程度が一般的だった。だが、現在では、ノートパソコンよりも軽い2Kg以下の製品が登場。客先へ持ち込んでプレゼンテーションしたり、会社内の小部屋で部門会議に使われるなど、ビジネス上の利用方法が多様化している。
最近では、iPadなどパソコンに代わる端末が普及し、モバイル性能の高いプロジェクタへのニーズが高まる傾向にある。ただ、国内市場の場合は、世界と異なる特殊な傾向も示している。プロジェクタの世界トップメーカーであるセイコーエプソンの販売会社、エプソン販売によれば、「世界で売れているプロジェクタの半分は、学校など文教市場で導入されている。だが、日本の場合、文教向けは全体の2割程度」(久保厚・MD部部長)ということで、ビジネス向けの利用率が圧倒的に高いのだ。
国内に限っていえば、プロジェクタ市場は約18万台(エプソン販売の推計)。ビジネス用途の多様化や文教市場、とくに教室内での利用拡大、照射能力の低い老朽化したプロジェクタからの買い替えなど、世界市場以上に期待できるというわけだ。文教市場では、文部科学省の「スクール・ニューディール構想」に関連する予算が民主党政権の事業仕分けで減額されたものの、総務省の「フューチャースクール推進事業」などで電子黒板や、将来は電子教科書が普及する可能性があるといったように、教室内でITの利活用を促す予算が付き始めるという“追い風”も吹く。
リコーがプロジェクタ市場に新規参入した理由には、こうした国内外の事情の後押しがある。過去20年にわたって、プロジェクタの基幹部品である光学ユニットを他のメーカーに販売してきた。もともと自社にある光学技術とノウハウを生かして、世界の需要の高まりを見込んで自社製造・販売へ踏み切ったわけだ。
国内に関しては、若干異なる目論見がある。リコーで営業担当から転身した第2商品戦略室国内商品計画2グループの平田佳之氏は「当社のプロジェクタ販売台数は、6年連続で国内1位。仕入れルートはもとより、すでに顧客や商流が確立されている」と話す。技術力だけでなく、流通網が確立されており、顧客が魅力を感じる製品さえ揃えれば一気に市場を拡大できるという目算だ。事実、2010年度下期(10年10月~11年3月)は、自社機がラインアップに加わったことで、プロジェクタ販売台数は前年同期に比べて2.2倍に達する見込みだ。
リコーは昨年10月にネットワ・ク機能を標準搭載するモバイルプロジェクタ「IPSiO PJ WX3230N」など2機種を投入したのに続き、今年1月には解像度を高めた高機能製品を出すなど、4機種8モデルをラインアップ。今後も2500ルーメン以上のハイエンドモデルから、順次拡充する。グループ販売会社や既存の事務器ルートを活用して、先行するエプソン、NECなどを追撃する。リコーの平田氏は「当面は、一般企業に加え、医療機関や学校、工場など重点10業種/利用場所を販売ターゲットにし、市場を拡大したうえで、ネットワークを介した映像コミュニケーションの領域まで事業を拡大する」と、競合他社が強みとする市場へ切り込んでいく考えだ。
一方、迎え撃つ側のエプソン販売も、ここへきて相次いで新製品を投入している。軽量で携帯性にすぐれた世界最薄/44mmのモバイルプロジェクタ「EB・1775W」や、主に学校の教室内での利用を想定して開発した業界初の電子黒板ユニット「ELPIU02」など、トップメーカーとして数人規模利用の機器から巨大ホールで使う超高解像度のものまで、ラインアップの豊富さで追随を許さない。エプソン販売の久保部長は、「今のメインターゲットは、学校向けだ。2011年度(4月)から小学校での外国語(英語)が必修になり、電子教科書の利用も検討されている」と、大型・高額で移動が面倒な電子黒板に代わる商材として、学校の教室向けにプロジェクタや電子黒板ユニットを売り込む。
エプソン販売の電子黒板ユニットは、同社のプロジェクタに取り付けるだけで、操作面でのマウス操作や図形の書き込みができる。パソコンと黒板をUSBケーブルで接続するだけというシンプルな配線。子どもが歩き回る教室でも安心だ。「オートキャリブレーションを搭載しているので、セットアップ時間が大幅に短縮できる」(MD部の村内徹氏)というように、利用環境に応じた機能を搭載できる技術力が同社の強みだ。
エプソン販売は業界最薄のプロジェクタを出す前から、「薄さ」にはこだわってきたが「客先で説明することが多い医薬情報担当者(MR)向け販売では、ほぼ寡占状態にある」(久保部長)と、市場をけん引してきたトップメーカーとして、世界と国内のプロジェクタ市場で50%のシェアを目指すという。
新参メーカーのリコーと、トップメーカー・セイコーエプソンの間に位置するNECも、基幹システムを販売する強力な販社と、プロジェクタをはじめとする事務機器のソリューション販売を強化している。機器の強みだけでなく、用途提案や販路の出来不出来が、シェア獲得の明暗を分けそうだ。

投写面を選ばず、プロジェクタに取り付けるだけで「電子黒板」を実現できるセイコーエプソンの「ELPIU02」は、学校の教室でのIT利活用に革新をもたらす(写真はエプソン販売MD部の村内徹氏)
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