モバイル・ラベルプリンタ
ラベル機器で販社開拓
ブラザーは「PRO・USE」を本格展開
シングルファンクションプリンタをメインに生産・販売するプリンタメーカーにとって、自社の市場や事業領域を拡大するうえで、システムインテグレータ(SIer)など、他のシステムと組み合わせてプリンタや複合機を複合提案できるプレーヤーの獲得は至上命題だ。SOHOや中小企業をメインターゲットにし、最近、プリンタ販売を急速に拡大しているブラザー工業は、こうした複合提案を得意とするパートナーが、競合他社に比べて手薄な状況にある。
同社は、こうした自社の態勢を勘案して、昨年9月に業務用途のモバイルプリンタとラベルプリンタを「PRO-USE(プロユース)」と名づけてひと括りにした。コンシューマ向けプリンタ「MyMio」、ビジネス向けプリンタ「JUSTIO」に次ぐ第三の柱となる事業に「PRO・USE」を位置づけて、全体の収益拡大を目指している。同社の販売子会社であるブラザー販売には、この機器を「ピンポイントで当てはまる市場を開拓する」(大澤敏明・マーケティング推進部長)ことを目的として「市場開拓推進グループ」が新設されている。
ブラザー工業は、1988年にプリンタの派生製品として「P-touch(ピータッチ)」というオフィスのファイルに貼るシールを印字するラベルライターを製品化した。いまでは一般オフィスだけでなく、業務用途のラベルプリンタや外出先で印刷する携帯用のモバイルプリンタ、客先で伝票類を打ち出すA6/A7サイズのポケットジェット「MPRINT」などを出している。市場開発推進グループの野村和史チームリーダーは、「海外を中心に当社のラベルプリンタが多用途で使われるようになった。耐久性の高いラミネート加工のラベルが打ち出せる機器なので、配電盤・スイッチ・ケーブルなどの表示ラベルやIT機器などの製品管理用のシリアルラベル、薬品管理・薬棚など薬のピッキングミスを防ぐ用途などで使われている」という。
国内の例では、INAX製品のトイレ・水栓金具・ユニットバスなどの修理・点検・取付を行う保守メンテナンス会社、INAXメンテナンスのカスタマエンジニア(CE)でブラザー工業の「MPrint MW-260」が採用された。INAXメンテナンスは、携帯電話などを使った基幹システムと連動させて、顧客からの修理依頼や訪問予定管理、修理部品発注などを一元管理するシステムを構築していた。ここに「MPrint」を約700台導入し、それまで手書きだった顧客に手渡す報告書や領収書などを、これを使って客先のいる現場で打ち出すことができるようになった。
ブラザー販売は、このようにピンポイントで適用できる領域を探して、「PRO・USE」の拡大を狙う。大澤部長は「モバイルのプリンタ製品と連携したソリューションを展開できるように、SDK(開発キット)を提供している。個々の案件を通じてSIerを開拓することができ、同時にプリンタ販売の拡充にもつながっている」と、企業の既存システムと「PRO・USE」製品や従来のシングルプリンタが連携したソリューション例が増えていることに手ごたえを感じている。今後、iPadなどのモバイル端末が企業向けに普及することが見込まれることから、この領域でも連携ソリューションを拡大しようと考えている。
マネージド・サービス
MPS/MDSの全盛は、もう目の前
2015年には世界で半分を占める!?
コピー/プリンタの国内機器販売は、昨年後半にもち直しの兆しがみえたが、依然として急速な拡大は見込めない。むしろ、コスト削減や環境配慮を掲げる企業が増え、機器を集約・統合し、印刷枚数を制限する傾向にある。コピー用の用紙やトナーカートリッジなどの「アフター・ビジネス」で利益を稼ぐビジネスモデルは、徐々に成り立ちにくくなっている。
機器販売への期待が薄まるなか、コピー/プリンタメーカーが注目している分野が、「マネージド・サービス」だ。メーカーによって「マネージド・プリント・サービス(MPS)」「マネージド・ドキュメント・サービス(MDS)」などと、表現は異なるが、従来の調達時に利用していた購入契約やリース契約に代わる「顧客のプリンティング環境のアセスメントに基づく最適配置を実施し、導入後の運用管理をアウトソーシングで受託する」方式だ。富士ゼロックスやキヤノンが世界的に先行し、リコーも今年1月に「グローバルMDS事業」としてインフラ整備に約260億円を投じると発表した。
コピー機を保有するメーカーが主導する形で普及してきたが、国内メーカーとしてはOKI(沖電気工業)の子会社であるOKIデータが、今年度(2011年3月期)当初からシングルファンクションを中心に製品を揃えるプリンタメーカーの販売会社としては、他社に先行して「MPS」に取り組んでいる。昨年4月に新設した「MPS事業推進部」の三浦晋部長は、「IDCの調査によれば、世界のコピー/プリンタ販売は、2015年に半分がMPSになると予測している。欧米で始まったこの方式は、いまや世界に展開されている。日本国内は、まだ遅れているが、徐々に顧客側からMPSでプリンタを導入したいというニーズが高まってきた」と、近い将来、MPSの需要が高まりが見込まれることから、提案材料の一つとしてMPS体制を整える必要があると指摘する。
調査会社のIDC Japanによれば、2009年の国内MPS市場は、前年比40.5%の大幅プラス成長を記録し、市場規模が211億7500万円に達している。今後、2014年までの年間平均成長率は10.7%で、見逃せない領域になっている。
世界展開するOKIデータでは、すでに海外の販売子会社や代理店で、同社製のプリンタを使ったMPSの事例が出てきているという。同社では、このノウハウを使いながら、国内市場でMPSを利用した事業展開を本格化する。
三浦部長は「(コピーメーカーを中心とした)他社にないMPSの仕組みをSIerと組んで立ち上げたい」と、まずはITシステムのアウトソーシング事業に実績のあるSIerと連携し、MPSの普及を目指す考えだ。現在、5か年程度の計画で、新プリンタシリーズ「COREFIDO」を利用したソリューション・メニューの作成やサポートセンターの構築、人員体制の整備などを急いでいる。「国内では、すぐに収益に結びつく事業ではないが、いつ顧客からMPSの要望が上がってきても不思議ではない」(三浦部長)と、いつでも動くことができる体制をつくっているという。
一方、リコーは今年1月20日、世界的にMDS事業を本格展開すると発表した。MDS事業推進の中核を担うリコージャパンの畠中健二社長は「MDSは、米国中心に進んでいる。ここでのノウハウを国内にも展開する。いまは、顧客の要望を聞きながら、当社内のナレッジをため込んでいるところだ」と、この先需要が増すとみられるMDSの体制整備を急ピッチで進めている。
番外編
NECは、多様な事務器で複合提案 NECは、コピー・プリンタメーカーとは一線を画して、以前からSI(システム・インテグレーション)力を発揮し、プリンタ/複合機やディスプレイ、ラベルプリンタなどを利用した複合的なソリューションを展開している。2010年度(11年3月期)当初のイベント(10年6月)では、映像機器や電子文書関連ソリューション、省エネプリンタなどを展示(写真参照)。とくに、デジタルサイネージ(電子看板)に関連するディスプレイ機器販売は、今年度は2倍以上も伸びているという。
イベントでは、コピー/プリンタメーカーが参入しようとしている3D(3次元)映像対応のプロジェクタを展示していたが、10万円前後で購入できる機器として教育機関などへの拡販を開始している。コピー/プリンタの用紙やトナーカートリッジなどで収益を得る「アフター・ビジネス」から脱却し、新たな商材と複合的な提案をしていく必要性が出ているなかで、NECの存在感は高まっている。

NECのイベントでは、3D対応のプロジェクタなどが展示された