市場開拓に期待感高まる
ベンダーと販社がパイプを太く 2011年に入って、予想よりも早く期待感が高まっているネットワーク機器のハイエンド市場。ここでは、市場開拓の最前線で活動しているベンダーと販社の取り組みを紹介する。また、日本という枠を超えて、ネットワーク機器の主要市場として注目を集めているアジアでの戦略を追う。
ベンダーの事例
F5ネットワークスジャパン
「ハイエンドでますます有利に」
ネットワーク機器ベンダーのなかでも、とくにハイエンド市場の開拓に力を入れているのが、ロードバランサー(負荷分散装置)をはじめ、リモートアクセス機器やストレージを提供するF5ネットワークスジャパンだ。帆士敏博プロダクトマーケティングマネージャは、「ここにきて、大手企業のプライベートクラウド案件が確実に伸びている」と、ハイエンド市場での手応えを語る。
製品力を向上 F5ネットワークスジャパンによれば、製造や金融、テレコミュニケーションといった業種で、ユーザー企業がプライベートクラウドへの移行を急いでおり、OSやハードウェアなどITリソースを統合させるために、インフラ基盤の標準化に向けた投資を拡大しているという動きがある。「大手企業のシステム統合化にけん引されたかたちで、ここ1年間、ネットワーク機器のハイエンド市場が活性化している」(帆士マネージャ)として、ハイエンド向けネットワーク機器需要の高まりを、自社の事業拡大にリンクさせることに力を入れている。
同社はもともと高性能な上位機種に強いが、さらなる技術強化を図ることによって、「ハイエンド市場で、当社はますます有利になる立場を築いていく」(帆士マネージャ)ことを狙っている。帆士マネージャは、トラフィック量の急増や、クラウド/仮想化への対応など、ハイエンド市場がネットワーク機器に対して求めるニーズに対応するために、「製品力を向上させていって、今年中に大きなリリースを予定している」とラインアップの拡充をほのめかす。ハイエンド市場の大きいポテンシャルに期待し、ロードバランサー以外の製品メニューも強化して、ストレージなどの展開を強めていくという。
技術ノウハウを販社に伝える  |
F5ネットワークスジャパン 帆士敏博プロダクト マーケティングマネージャ |
市場を開拓するにあたって、機器メーカーにとって必要不可欠なのが、ハイエンド市場を得意とする販売パートナーだ。F5ネットワークスジャパンは、今後、大手企業やDC事業者に直接に営業をかけるハイタッチ体制を強化すると同時に、パートナー戦略を拡充することに取り組んでいくという。
同社は、パートナー支援にあたって、「単なる箱売りにならないよう、インテグレーションに関する当社の知識を販社に伝える」(帆士マネージャ)ことを重要視している。販売パートナーの技術スキルの向上を目指して、昨年11月に新しいパートナープログラムを立ち上げた。パートナー向けに特別なトレーニングなどを実施して、ハイエンド市場での提案に活用できる技術ノウハウをレクチャーするなど、サポートの充実を図っている。
帆士マネージャは、「新しいパートナープログラムに対する反応がとてもよく、新規パートナーも参加してくれている」と語り、パートナー支援をさらに充実していく方針だ。
大手ベンダーはアジアを視野に DCの急増によってネットワーク機器の市場が拡大しているのは、日本のマーケットに限った動きではない。インドや中国、タイなどのアジア各国でも、クラウドコンピューティングの普及が急速に進んでおり、ネットワーク機器/ソリューションのハイエンド需要が高まってきている。米国などの大手ネットワーク機器ベンダー各社は、アジア太平洋地域(APAC)のハイエンド市場の開拓に意欲を示している。
1億ドルの投資プログラム  |
ブロケード ジョン・マックヒュージ バイスプレジデント |
日本を柱の一つとしてアジア戦略を強化している米ブロケードは、アジア各国で、DC向けイーサネットソリューションの展開を加速化している。同社の地域別売上構成比(2011年第1四半期)は、米国が59%で、その他のグローバル市場が41%だが、急成長しているアジアでの事業を拡大することによって、グローバルの売上構成比を引き上げるなど、アジア市場を重視した事業戦略を推し進めている。
そのアジア戦略の一環として、今年3月、DC事業者などユーザー企業に向けて、1億ドルの投資計画を策定した。ネットワーク設計に用いるイーサネット・ファブリックを中心に、クラウドインフラ製品のテスト費用のカバーを柱とするというものだ。
ジョン・マックヒュージ バイスプレジデントは、「今後も継続的に投資を拡大することで、アジアでの市場開拓に積極的に取り組んでいく」ことを方針として掲げている。
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ヒューレット・パッカード スティーブン・ダイチ バイスプレジデント |
2010年、DC向けソリューションに強いネットワーク機器ベンダーの3comを買収して、ネットワーク事業の拡大を急いでいるヒューレット・パッカード(HP)も、アジアのハイエンド市場に目を向けている。今後、3comの買収によって実現したプライベート/パブリック/ハイブリッドのクラウド環境全体でサービスを構築・管理できるシステム「HP CloudSystem」を主な商材として、アジアのハイエンド市場を攻略していく考えだ。「HP CloudSystem」は、大手企業やDCを運営するサービスプロバイダを狙ったソリューションということから、アジアで展開するポテンシャルが大きいとみている。
DR as a Serviceを提供 HPのスティーブン・ダイチ バイスプレジデントは、「アジアでのハイエンド向けネットワーク機器市場の年間成長率については5%前後とみているが、当社はアジアにおいて市場の成長率を超えたペースで事業を拡大している」と自信満々だ。東日本大震災が発生したのをきっかけに、今後はアジア各国でディザスタリカバリ(DR)のニーズが高まると見越して、クラウド型のディザスタリカバリサービス「DR as a Service」を提供するなど、動きを活発化していく。
販社の事例
三井情報
商談は予想以上のハイペース
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三井情報 高田康博副部長 |
大手ネットワーク機器ベンダーが、揃ってハイエンド市場を攻略──。ベンダーとユーザー企業の間に立つ販売会社がその動きを受けて、ハイエンド市場での販売活動のペースを上げている。ブロケードやシスコ、フォーティネットなどの製品を取り扱っている大手NIerの三井情報は、「今年に入って、クラウドサービスプロバイダ(CSP)のネットワークインフラへの設備投資が著しく高まってきた」(プラットフォームソリューション事業本部第二営業部の高田康博副部長)として、CSPをはじめとするハイエンド市場の開拓を目指した取り組みに本腰を入れている。
ネットワークの強化にあたって、CSPがまず求めるのは、データへの安全なアクセスを確保するセキュリティだ。プラットフォームソリューション事業本部事業推進部営業推進室の陸田貴秀室長は、「多くのCSPは、ファイアウォールなどのネットワークセキュリティ製品の置き換えを検討し、最も高スペックの製品を求める企業が非常に多くなっている」と、ハイエンド需要の確実な拡大を表現する。ハイエンドの需要拡大は、今年に入って顕著になった動きだが、同社は「先駆的な企業は、すでに『買うか、買わないか』という段階にきており、見積もりまで進んでいる」(陸田室長)という。予想以上に早いペースで商談が進んでいる状況がうかがえる。
ベンダーと密な連携を  |
三井情報 陸田貴秀室長 |
CSPに加え、モバイル通信キャリアも、ネットワーク強化への投資を余儀なくされている。「キャリアは、スマートフォンなどモバイル端末の急増に伴ってアクセス数が大幅に増えてきた。そのため、既存のネットワークが圧迫されており、苦しい状況にある」(高田副部長)という現象が背景にある。
大量のトラフィックをオフロードするインフラを構築するために、「設備投資が必要不可欠で、ネットワーク機器に関するさまざまなニーズが出てくる」(同)。そのことから、モバイル通信キャリアを相手にしたビジネスが右肩上がりで推移する傾向が当面、続くといえそうだ。
CSPであれ、モバイル通信キャリアであれ、ハイエンド市場の開拓に向けて販社は速いスピードで動かなければならない。高田副部長は、「向こう1、2年が勝負どころ。当社にとって、ハイエンド需要が生まれたというビジネスチャンスをどうやって具体的な価値に結びつけることができるかが、最も大きな課題になっている」と、スピーディに動き出すことの必要性を明かす。
ハイタッチとの相乗効果 ネットワーク機器のハイエンド市場を攻略するうえでカギを握るのは、ベンダーとより密な連携を築くことだ。多くのベンダーが、ハイエンド市場の開拓を目指してハイタッチの営業を強化しているが、そのことが販社にとってもチャンスになっている。陸田室長は、「ベンダーの営業担当者がわれわれと同じ顧客先を訪問しているので、情報を共有したりするなど、相乗効果を得ることができる。実際、当社は各ベンダーのハイタッチ営業と定期的にミーティングを行っており、一緒に販売戦略を練っている」という。
DRでリモートアクセスの需要拡大  |
アバイア ロバート・スチーブンソン社長 |
日本全体に大きな衝撃を与えた東日本大震災。この震災を機に、DRの対策や、停電時の事業継続計画(BCP)に関する意識が高まっている。企業がDRや事業継続に向けた取り組みを推進している状況に歩調を合わせて、ネットワーク機器のハイエンド市場で新たな需要が生まれようとしている。DCがハウジングやホスティングサービス利用の急増に対応してネットワークインフラを強化するだけでなく、大手をはじめとする企業も、リモートアクセスのソリューションを導入するなど、ネットワークへの投資を拡大していくことが考えられる。
大手企業を対象として、ユニファイド・コミュニケーション(UC)のソリューションを展開するアバイアのロバート・スチーブンソン社長は、社員が会社に出て来なくてもビデオなどを通じて会議を行うことができるなどの特徴を生かして、UC需要が高まるとみている。スチーブンソン社長は、「とくに、東京でも大規模な停電が懸念される今年の夏に向けて、社員の居場所を問わないリモートアクセスのニーズが拡大する」とにらみ、UCソリューションの展開に力を入れていくという。
記者の眼
大手DCの急増にけん引されるかたちで拡大しつつあるネットワーク機器のハイエンド市場。最上位機種の需要は、クラウドコンピューティングの普及に伴って、今後も高まっていくと考えられる。NIerにとって、事業を拡大させる大きなチャンスになるわけだ。外資系の大手ベンダーの製品パワーを活用して、すばやく動き出すことこそが市場攻略のカギを握っている。