機器、チャージ、消耗品の3点セット──法人向けにコピー・プリンタを販売する国内メーカーの現行収益モデルだ。これがいま、単価下落やプリント制限などの影響で瓦解しつつある。メーカー各社は、新たな収益モデルとして新サービスを探さない限り、将来に向けて安定成長が望めない。今回の特集では、コピー・プリンタ業界のこれまでと現状を分析し、5年後を展望する。(取材・文/谷畑良胤)
→前編から読む第3章 現状
プリンタメーカーは「市場探し」 8月24日、東京・日本橋のイベント会場を舞台とするセイコーエプソンとエプソン販売のビジネス向けプリンタの新製品発表会は、100人ほどの席が満席になるほどの盛況だった。CMタレントも両社の社長も登場しない会見でここまで集客した会見は、最近記憶がない。当日発表されたカラーA4プリンタの新製品は、「LP-S510」以来、5年ぶりのモデルだ。このA4カラー機が象徴するように、両社はここ数年、新製品の投入に慎重だった。
ところが、この日、報道陣に公開した新製品は、インクジェットとページの複合機/プリンタの17機種。虎視眈々と新基軸を打ち出す瞬間を待っていたかのごとく、一挙大量投入となった。席上、エプソン販売の中野修義・取締役販売推進本部長は、各機種のターゲット層と販売戦略を述べたあと、「年内にまだ出しますよ」と、リップサービスしたほど、製品・販売戦略で大きく舵を切っている。両社製品の一般オフィスで使うビジネス用途の複合機/プリンタは、全部で40機種。どんな用途にも応えられるラインアップを揃えるまで製品開発を止めない、という意気込みが伝わってくる。
プリンタベースの複合機/プリンタを投入するブラザー工業も、セイコーエプソンと同じく、不足する用途のラインアップを強化する方向にある。同社の販売子会社であるブラザー販売は、従業員10人以下のSOHO・小規模事業者で絶対的な地位を築くことを狙う。
ブラザー工業の業務目標によると、複合機/プリンタ、電子文具の「P&S事業」は、2010年度(11年3月期)で3366億円。これを15年度には約38%増の4650億円に引き上げる計画だ。このために、インクジェット、LED、レーザーを問わず「多彩なラインアップを取り揃える」(ブラザー販売の三島勉・取締役)のは必須条件といえる。
ただし、SOHO・小規模事業者の市場で一定の地位を確保していたと踏んでいたブラザー販売だが、導入実態の自前調査をしたところ、大きな課題が浮上した。三島取締役は「従業員2~5人の企業では当社製品が大きなシェアを占めていた。ところが、5~10人の領域は、思ったほど伸びていない」ことが判明したのだ。07年12月に発表した初の自社生産プリンタの新ブランド「JUSTIO」を出して2年程度で、OKIデータの「COREFIDO」と同様に、大手ディストリンビュータの2次店販売網で一気に認知度を高めて、一挙に市場を開拓していた。次のステップとして「より規模の大きい企業への波及を目指す」(三島取締役)と、提案型で機器を販売すべく訪問販売網の整備を急いでいた最中のネガティブなデータだった。これを受けて同社は戦略を練り直し、新たな動きを始めている。
NECは、5年前、ページプリンタとディスプレイ事業を統合・独立させた「ディスプレイ・ドキュメント事業部」を組織した。この事業部内のドキュメント関連では、ページプリンタ(シングル機)を中心に「NEC特約店」や事務機ディーラーなど本体チャネルで販売していた。コピー・プリンタ業界では、あまり知られていないが、2年前の09年4月、この事業部では、グループ会社であるNECアクセステクニカが開発したFAX、プリンタ複合機製品の販売を開始している。
その理由は簡単だ。「シングル機だけでは、顧客の多様なニーズに応えられない」(岡田靖彦・パーソナルソリューション販売推進本部長)からだ。11月には、独自商品として、モノクロ印刷とカラースキャナを集約し、プリンタベースの複合機としては珍しいカード認証に対応したプリンタ複合機「Multina XP2300」を発売する。「(コピーベースの)MFPにセンター集約するコピーメーカーの提案とは一線を画すためだ」(岡田本部長)。
コピーメーカーのMFPや競合他社のプリンタが置かれる企業の現環境に「Multina XP2300」を配置し、「集中と分散」をうたい文句にしてドキュメント環境の最適化を提案する手はずだ。
今は、コピーベースのMFPによる「集中」なのか、ページプリンタとプリンタベースの複合機による「分散」なのか、コピーメーカーとプリンタメーカーのせめぎ合いは続く。
コピーと連携のサービス模索 新世代複合機である「imageRUNNER ADVANCE」を09年7月に立ち上げたキヤノンの販売子会社、キヤノンMJ。先に大塚商会が指摘した通り、機器やコピーチャージなど、現在の主要収益の柱は単価下落が著しい。そのためキヤノンMJは、「+1[プラスワン]ソリューション」と称して、「ITシステムとの強力な連携」を可能にしたことを売りに改良した「imageRUNNER ADVANCE」との連携製品やサービスを模索し続けてきた。その一つが、複合機の機能追加を容易にした連携基盤「MEAP」を使った文書管理や業務システムなどとの連携だ。しかし現状は、「MEAPを入れない顧客がまだ多い」(川東課長)。MFPを導入する顧客の意識で共通しているのが、「多機能過ぎて、使いこなせない。MFPに別の付加価値を求めていない」というものだ。同社の顧客に限らず、現段階では、複合機を多機能化するニーズは顕在化していない。
そこで同社が付加価値を高め、当面の収益モデルとして着目したのが、同社の遠隔サービスであるオンラインサポートシステム「NETEYE」の活用だ。MFP/ページプリンタのトラブルをネット経由で把握し、同社のカスタマエンジニア(CE)が訪問して修理する。川東課長は「この遠隔サービスに新サービスを付加する」ことが、新たな収益を生む近道と考えている。
例えば、こんな利用方法が考えられる──。自社イベントで名刺を大量に取得し、それをOCRでデータ化する際、一時的に名刺スキャンサービスをクラウド・サービスのように借りる。これなら、MFPの連携製品を埋め込む開発費が削減でき、「使いたい時ときだけ使える」というメリットが生まれる。
キヤノンMJだけでなく、リコーや富士ゼロックスも、単価下落の憂き目に遭っている。コピーメーカーの多くは、数年前から、現在の危機的状況を想定して、機器に関連するサービスをどう付加すべきか思案してきた。この仕組みが機能し、安定収入に貢献するには、あと数年の期間を要しそうだ。
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