企業を取り巻く状況は急速に変化し続けており、それに応じて新しいサービスが続々と登場している。2012年はグローバル対応をはじめ、クラウド・コンピューティング、ソーシャルメディア、モバイルが商機を呼び込むキーワードとなる。新興勢力の台頭もあり、これまでにない協業の形態や市場の開拓につながる芽が出始めている。(取材・文/信澤健太)
業務アプリの潮流を見定める
次世代ERPが続々登場
高まるクラウドへの期待 調査会社のガートナーによれば、2011年、最も優先するテクノロジーとして国内企業のCIOが選択したのは、2010年に引き続き「クラウド」だった。2位が「モバイル・テクノロジー」、3位に急浮上したのが「業務アプリ」だった。クラウドはコスト最適化、モバイルは操作性の向上、業務アプリは海外展開の加速やリーマン・ショック以降のIT投資の再開、手組みからの移行という文脈で選ばれた。
グローバルでも、「クラウド」は最も優先順位が高かった。ただし、2015年までにSaaS上で50%以上のトランザクション処理を行うと回答したCIOがグローバルでは約50%に上る一方で、国内では約25%にとどまった。つまり、国内ではクラウドへの注目度は高いが、比較的緩やかにその利用に向かう傾向にあることがわかった。
コストと操作性に対するERP満足度という観点からは、「業務コスト削減」や「保守コスト削減」「業務改革」に対する期待が大きい反面、実際に得た効果との間にギャップが生じていることが明らかになった。また、「保守コスト」をはじめ、「ライセンスコスト」「導入コスト」「操作性」の順に現行のERPに不満足であることも浮き彫りとなった。
こうした点を踏まえると、ERPで利用したいテクノロジーに選ばれた上位項目の背景がわかる。トップの「クラウド上のERP」はコスト最適化、2位の「組み込みビジネスインテリジェンス(BI)」は情報活用、3位の「ビジネスプロセスマネジメント」は業務改善、5位の「デスクトップ・アプリ連携」は操作性の向上という企業の狙いに対応している。2012年のトレンドを占ううえでのヒントになる。
2012年、ERPのキーワード 調査会社ガートナー ジャパンの本好宏次・リサーチ部門エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクターは、2012年のERP関連のキーワードとして、グローバル対応に加えて、クラウドとモバイル、ソーシャル、2層ERPを挙げる。
スイート製品のクラウド化が進み、オラクルの「Oracle Fusion Applications」や「Windows Azure Platform」を活用した「Microsoft Dynamics AX」が登場するのが大きい。並行して、タレントマネジメントやコラボレーションをはじめとするクラウドベースの特化型アプリが市場に浸透していくとみる。
現状では、会計管理や人事・給与などの管理系ERPのクラウド対応が比較的進んでおり、富士通マーケティングの「GLOVIA smartきらら」やNTTデータビズインテグラルの「Biz∫」などが存在する。ただし、国内企業にとっては選択肢が少ないのが現状で、直近ではNTTデータや電通国際情報サービスが提供するSAPのホスティングサービスなどが導入されているという。
本好ディレクターは、「国内企業は、クラウドを導入すればコストが安くなるというイメージをもっている。しかし、実際には大幅なコスト削減ができず、とくに大企業のIT部門は困惑している」と指摘する。ただし、外資勢を中心に、2012年以降にスイート製品のクラウド対応が進むことで、こうしたギャップが解消されていく可能性がある。
モバイルとソーシャルは、操作性の観点から注目が集まると予測している。本好ディレクターは、モバイルとの親和性が高いアプリについて、ワークフローやCRM/SFA、経費管理などを例に挙げる。経費管理アプリ専業のコンカーは、iPhoneをはじめiPad、Android、BlackBerryで利用できる。
ソーシャルメディアは、TwitterのようなミニブログとFacebookのようなアクティビティストリームの二つに大別される。ミニブログは、組み込みBIとの連携による共同での意思決定に役立つ。アクティビティストリームは、受発注処理や在庫の発生などをリアルタイムで通知するほか、ビジネス文書の共有による社内情報の整理などに有効だ。
シルクロードテクノロジーの「SilkRoad Point」は、こうしたソーシャルメディアの一例である。日本インフォア・グローバル・ソリューションズはセールスフォース・ドットコムと業務提携し、新戦略となる「Infor10」の下、ソーシャルメディアとの連携や統合を模索している。
なお、クラウドやモバイル、ソーシャルの利用には、当然ながら企業の戦略的なIT投資が必要となる。ガートナーは変化のペースに応じて構成要素を「記録」「差異化」「革新」に階層化することを提唱している。アプリケーション機能を棚卸しし、記録/差異化レイヤでは、適切なパッケージやSaaSを活用する。
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