ERPの新商売が盛り上がる
見逃せない外資勢の動向
タレントマネジメントに商機 グローバル化がもたらすのは、システムの提供形態の多様化や既存のERPのグローバル対応機能の拡充だけではない。タレントマネジメントやソーシャルメディア、経費管理などの新領域の盛り上がりを促している。
グローバル企業の間でみられるようになってきているのが、地域ごとに最適化されたシステムや分散した文書ファイルを利用してきた人事プロセスをタレントマネジメントシステムで統合しようという動きだ。タレントマネジメントシステムは、2010年頃から国内市場で急速に注目を集め始めている。
特徴は、純クラウドベースで提供されているものが多いこと。ワークフォース・プランニングや人材獲得、従業員パフォーマンス管理、キャリア開発、後継者管理、学習・報酬管理などを包含するアプリケーションの統合スイートを指す。IT業界でもNECやKVHがサクセスファクターズジャパンのシステムを、オージス総研がシルクロードテクノロジーのシステムをそれぞれ導入し、グローバル事業に弾みをつけている。このうちNECは世界各国で異なる人材管理方法・基準の統一にあたり、サクセスファクターズのシステムに着目。社員プロファイルとキャリア開発、後継者管理、パフォーマンス管理のモジュールを導入している。
なお、これらのモジュールは、人件費の管理や業務処理が中心となる人事管理システムではカバーできない人材開発の領域である。SIerにとっては、管理部門ではなく、事業部門や企画部門を対象として売り込むのがポイントとなる。したがって、プライスウォーターハウスクーパースが提供するような高いコンサルティング能力が求められる。
サクセスファクターズジャパンは現在最も勢いに乗っており、サバ・ソフトウェアやシルクロードテクノロジー、サムトータル・システムズなども国内で実績を伸ばしつつある。シルクロードテクノロジーのブライアン・プラッツ上級副社長COOは、「毎年、平均して50%の成長率をみせている」と、事業の好調さをアピールする。小野りちこ副社長は、「核となる人事管理システムをも提供する。SAPやオラクルの置き換えにもなり得る」と話し、給与管理や就業管理を国内ベンダーとの提携で補完する考えを示す。人事管理システム市場にも少なからぬ影響を与える可能性がある。
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シルクロードテクノロジー 小野りちこ副社長 |
国内ベンダーは出遅れているのが実情である。ただし、クレオマーケティングの林森太郎社長は、「『ZeeM』は、人事・給与システムの売り上げが一番大きい。この分野でこれまでシステム化しづらかった部分を新しい価値として提供していく。人材開発や就業管理を含めてトータルで提案できるようにする」と明言。NTTデータイントラマートのシステム共通基盤「intra-mart WebPlatform」上で提供し、「ZeeMトータル人事ソリューション」を標榜する。
2011年の大きなトピックとして、ソフトウェア世界最大手の独SAPが米サクセスファクターズを買収することを発表した。すでに同社は自社開発のタレントマネジメントシステムを揃えていたが、「自前主義を諦めたことを意味する。SAPにとってこれまでの買収と異なるのは、既存の事業と重なるということ。今後、それをどうするのかが懸念される」(ガートナーの本好ディレクター)。
直近では、クラウド世界最大手のセールスフォース・ドットコムがタレントマネジメント関連市場に参入することを表明。ソーシャルパフォーマンス管理ソリューションを提供している米Ryppleの買収を発表した。「Rypple」を「Successforce」としてあらためてリリースする予定だ。セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOは、「次世代の人材管理(HCM=Human Capital Management)は単にクラウドを通じて提供するモデルではなく、ソーシャルの世界で従業員を探して採用・管理し、その能力をさらに伸ばすことを可能にする。これまでに比べて根本的にすぐれた環境を提供するもの」と位置づける。
ソーシャルメディアと融合 セールスフォースによるRypple買収の動きは、タレントマネジメント関連分野の今後の方向性を見定めるうえで一つの好材料となる。国内のシステムインテグレータや独立系ソフトウェアベンダーにとっても無縁な話ではない。市場で市民権を得ているセールスフォースの製品ラインアップに「Rypple」が組み込まれることで、エコシステムの一員であるパートナー企業や競合ベンダーは、その動向を注視していく必要がある。
セールスフォースが提唱してきたソーシャルエンタープライズという思想を理解することが重要だ。これは、FacebookやTwitterに代表されるソーシャルメディアを企業が有効に活用し、情報共有の促進やユーザーとの関係強化を図るものである。クラウドと有機的に結びつけ、モバイルデバイスを駆使する。急拡大するソーシャルCRMの市場では、すでに「Chatter」を提供し、主導権を握ろうとしている。ソーシャルCRMへの企業の期待は大きく、CRMへの期待と実際のギャップが著しく現れている「顧客満足度の向上」や「競争優位の獲得」「売り上げの増加」などに有効だ。
タレントマネジメントとの関係をみてみると、その親密さがわかる。まず、クラウドベースの製品が多いので、サービスの親和性は高い。加えて、ソーシャルメディアはタレントマネジメントでも重要なキーワードとして浮上しており、シルクロードテクノロジーが野心的な製品を発表済みだ。他のアプリケーションと連携する新製品「SilkRoad Point」である。
小野副社長は、「企業内SNSは巷にあふれているが、成功していない事例が多い」と指摘。「当社は、ナレッジマネジメントと社員の影響度を可視化する“ソーシャルタレントマネジメント”に軸足を置く。他人の気づきは本人の気づきよりも大きい。今までのタレントマネジメントは、人材を管理するというの側面が強かった」と話す。
ソーシャルタレントマネジメントは、ソーシャルメディアの思想を取り入れている業務アプリケーションであり、ソーシャルエンタープライズと同じ文脈で捉えることができるキーワードだ。Ryppleの買収は市場の潮流に上手く乗った戦略であり、タレントマネジメントとソーシャルメディアの融合にいっそう注目が集まることを示唆する。
ユニークな経費管理に注目 米コンカーは、経費管理に特化したベンダーとして、国内市場に参入した注目株だ。2011年2月、ベンチャーキャピタルであるサンブリッジとの合弁会社として設立された。グローバル企業がコンカーのアプリケーションを採用し、経費管理を全世界で共通化している事例が多いという。経費管理システムを提供しているベンダーは少なくないが、マルチテナント型アーキテクチャを採用し、グローバルで展開が可能なうえ、分析機能に長けている製品はそうは見当たらない。
米国では直販モデルを採っているが、日本ではチャネルビジネスも模索する方針。会計システムとの連携やOEM供給など、ERPベンダーやSIerに商機を呼び込むことになりそうだ。