第3世代DCを軸にサービス化  |
パナソニック電工IS 田中啓介 執行役員 |
1ラックあたりの集積度を高められる技術的バックボーンは、なんといってもクラウドコンピューティングの中核技術の一つである仮想化技術にある。サーバーやデスクトップを仮想マシン(VM)化することで、1ラックあたり膨大な数のVMを稼働することができる。こうすることでハードウェアの性能をぎりぎりまで引き出し、集積度合いを高める仕組みだ。IT機器の次に多くの電力を消費するのは冷却装置だが、これも集積度合いが高まれば高まるほど効率よく冷やせる。
例えば100人を100の部屋に入れて、それぞれの部屋に1台ずつ計100台のエアコンを動かすよりも、100人を1か所の小さな部屋に詰め込んで1台のパワフルなエアコンで集中的に冷やしたほうが電気代が安く済むのと同じ原理である。原発事故の後遺症で、電気料金が値上げされる厳しい状況下で、BCPやワークスタイルの変革の観点だけでなく、省エネの観点からもDCは有効に機能する。
主要SIerの第3世代DCの竣工状況は、今年だけでも新日鉄ソリューションズが5月、キヤノンMJアイティグループホールディングスが10月、野村総合研究所(NRI)が11月と続々と開業スケジュールを組んでいる。SIerはシステム構築(SI)を本業としているだけに、第3世代DCにおいても、SIを伴う大規模な基幹業務システムの取り込みに力を入れる。
関連技術を検証するため、新日鉄ソリューションズは、パナソニック電工インフォメーションシステムズと大和総研と連携して、大規模基幹システムのアウトソーシングに耐えうる技術検証「アライアンスクラウド」を推進。主に米Egenera(イージェネラ)のクラウドリソース管理ソフト「PAN Manager」をベースに「運用の標準化による品質の向上と効率化を進める」(パナソニック電工ISの田中啓介執行役員)と話す。
DCの近代化でラック当たりのコストを下げるとともに、付加価値の高い基幹業務システムを主なビジネス領域と位置づけ、さらに運用の標準化で品質向上と効率化を図る。従来型の受託ソフト開発のボリュームは中期的に縮小傾向にあるものの、第3世代DCを軸としたサービス型のビジネスモデルへの転換を推進することで収益力を大幅に高めていく考えだ。そして、BCPとDRは、この最初のフックとしての役割を担っている。
【epilogue】
欠かせないグローバルな視点
BCPやDRと表裏一体の関係
BCPとDRを考えるうえで、欠かせない視点の一つにグローバルがある。アジアへ進出するユーザー企業が増えている経済環境のなかで、SIerは国境を越えたBCPとDRの仕組みを設計していく必要がある。従来のクライアント/サーバー方式では到底実現し得なかった大規模な分散処理が可能になるクラウド方式なら、災害時にも有効に機能するはずだ。先の震災でも、電話回線がほぼパンクした状況にあって、SkypeやFacebook、Googleなどグローバル系のサービスは健在だったことを考えると、企業システムでもグローバル規模の分散処理は効果を発揮するはずだ。
すでにいくつかの取り組みも出はじめている。日立製作所は日本マイクロソフトと協業して、自らのクラウドサービスプラットフォーム「Harmonious Cloud」と、Microsoftの「Windows Azure Platform」との連携を打ち出した。日立製作所は、クラウドアプリケーションサーバーの役割を担う自社製ミドルウェアの「Cosminexus(コズミネクサス)」を「Azure」に対応させることで、ユーザーの業務アプリケーションを「Harmonious Cloud」と「Azure」の両方で動かすことができるようにする。
日立製作所の佐久間嘉一郎情報・通信システム社プラットフォーム部門CEOは、「運用まで踏み込んだシステム間の深い連携にもとづいて、高い信頼性をもつハイブリッドクラウドサービスにしていく」という。グローバルクラウドサービスの活用では、ITホールディングスグループのTISが自社のクラウドサービス「TIS Enterprise Ondemand Service」と「Amazon Web Services(AWS)」との連携強化を視野に入れるなど、有力ベンダーの動きが活発化している。
グローバル規模のサービス化は、ユーザーの情報システムの柔軟性を高めるだけでなく、BCPやDRにも有効に働く表裏一体の関係にある。従来型のシステムを見直し、クラウドネイティブなシステムへのマイグレーションは、SIerをはじめとするITベンダーにとって大きなビジネスチャンスになる。