管理の容易性やセキュリティの観点などから、企業の間でITシステムを仮想化する動きが活発になっている。なかでも、最近はVDI(デスクトップ仮想化インフラ)の導入ニーズが高まりつつあり、ITベンダーにとっては製品・サービスの拡充や新たな提案によって新規顧客を開拓することができるチャンスが訪れている。ディストリビュータやSIerによるVDIを中心としたクライアント仮想化関連ビジネスの現状や強化策などを追った。(取材・文/佐相彰彦)
【VDIとは?】
デスクトップパソコンなど、ユーザー企業のクライアント端末を、仮想化技術によってサーバー上で管理する仕組み。仮想化によってOSやアプリケーションをサーバーで集中管理し、クライアント端末を使う側はネットワークを通じてサーバーに接続し、デスクトップ画面を呼び出して操作する。クライアント端末を一括管理してセキュリティを強化できることから、ユーザー企業の注目を集めている。また、ネットワーク環境やVDI技術の進歩によって、OSやアプリケーションをインストールしてあるクライアント端末と同じように使えるという利便性がある。
管理やセキュリティの強化を提案
ワークスタイル変革も商談の材料に
企業がクライアント仮想化を導入するのは、社員が使う端末をきちんと管理しようとしていることが理由の一つに挙げられる。また、セキュリティポリシーの観点からノートパソコンの持ち出しを禁止する企業が多いなか、どの端末からでもサーバーにアクセスして社員個々のデスクトップ環境と同じように使えることから、ワークスタイルの変革を目的に導入する傾向が高まっている。
調査会社のIDC Japanの調査結果からは、国内クライアント仮想化市場は成長期に入っていることがうかがえる。2011年は、2493億円(前年比31.7%増)と3割を超える伸びを示しており、12年には3728億円(49.5%増)と大幅な拡大が予想されている。市場拡大の要因は、ユーザー企業が導入することによって大きな投資対効果(ROI)が得られると認めているためとみられる。
●極めて高い投資対効果 IDC Japanは、クライアント仮想化の導入実績がある企業のシステム管理者957人を対象に、クライアント仮想化の効果をたずねる調査を2011年に実施した。その結果、ROIが平均で325.2%だったという。ROIは、一人あたりのベネフィット3年分の総額から一人あたりの総投資額を差し引いた額を、一人あたりの総投資額で割って算出した値だ。「ROIが平均325.2%」というのは、投資に対して3年間で3倍以上の効果をもたらすということになる。投資の回収期間についていえば、13.3か月、つまり1年と少しで投資コストが回収できることを意味する。
この調査結果を踏まえると、ユーザー企業がVDIを中心にクライアント仮想化を導入するメリットは、かなり大きいといえそうだ。なお、IDC Japanでは今後の市場規模として2016年に17.7%増の7715億円まで拡大すると分析、11年から16年までの年平均成長率を25.3%と予測している。
●利用シーンが多様化 VDIなどクライアント仮想化のROIが高いのは、それを導入することによって社員がこなす業務の範囲が大幅に広がるからだ。サーバーでの集中管理によるシステム管理者の業務効率化を実現するだけでなく、社員が自分のデスクトップ環境を、いつでもどこでも構築できることから、ワークスタイルの変革につながるとの見方が強まっている。外出先でスマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスを使って、メールやスケジュールを確認できるほか、ウェブを通じて社内の顧客情報にアクセスしたり、在宅勤務を行う場合でも社内と同じ環境で業務がこなせたりするからだ。ウェブを通じて遠隔地から社内会議に参加することもできるようになる。
外出先や在宅勤務でも社内と同じように業務が遂行できるので、間接的なコスト削減にもつながる。社内の在席率が下がれば、省電力化や省スペース化を実現できるほか、オフィスのスペースを縮小することも可能になる。ウェブ会議が多くなれば、ペーパーレス化も実現する。
このように、VDIなどクライアント仮想化のメリットが高いことからユーザー企業の導入が増えて市場が拡大するという状況は、ITベンダーにとっての大きなビジネスチャンスが到来していることを意味する。実際に、販社やSIerがどのようなビジネスを手がけているのかをみていこう。
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