【Chapter 2】ITメーカーの事例
――NEC ERPの手直し需要に対応

NEC
長谷川充男
事業部長 海外事業の拡大に取り組んでいるNECは、東南アジアでは、製造業向けERP(統合基幹業務システム)が有望な商材になるとみて、ERPの提案活動に力を入れている。東南アジアでは、経済の成長に合わせて、日系の製造業ユーザーが開発・製造拠点を新・増設しており、これまで使ってきたERPを大幅に手直しする需要が急拡大しているからだ。
NECでERP関連のコンサルティングを手がける長谷川充男・コンサルティング事業部長は、「多くの製造業ユーザーにとって、ERPの導入はすでに2巡目、3巡目。だから、ユーザーの関心事は、ERPの『機能』ではなく、東南アジアや中国など、アジアの成長市場を活用して自らのビジネスを成功に導くためのERPの『使い方』にシフトしている」と、ビジネスを取り巻く環境の変化を語る。
ERPの選択にあたって、日系企業の多くは世界の主要な地域ごとに独立して運用することができるものを選び、地場に根ざしたERPによって迅速な経営判断ができるIT環境をつくりたい、と考えている。長谷川事業部長は、「アジアの成長市場は、とりわけ変化が激しいので、ユーザー企業は地域単位での迅速な変化適応を求めている」とみて、ユーザー企業のニーズに対応したERPの提案活動を推進している。
NECは基幹システムの要素を「ITガバナンス」「IT組織」「ITアーキテクチャ」の三つに分類する。例えば、ITアーキテクチャは世界統一でも、ガバナンスと組織は地域密着型にすることで、変化に適応しやすいERPの導入コンサルティングに力を入れるという。長谷川事業部長は、「それによって、アジア市場でのERP事業を大きく伸ばしていく」と自信をみせる。
【Chapter 3】ITサービスの事例
――日立システムズ 現地法人の設立準備を進める

日立システムズ
三枝義典
本部長 日立グループのシステムインテグレータ(SIer)で、中堅・中小企業向けシステム構築に強い日立システムズは、この7月、シンガポールに事業拠点を設立した。拠点は、シンガポールに本社を置く日立アジア(日立グループの東南アジア地域統括会社)の独立した事業部門として設立し、グローバルITサービス「GNEXT」の東南アジアでの展開を手がけていく。
日立システムズは、2年ほど前から、データセンター(DC)設計・構築・運用サービスやクラウド型会計システムなどで構成する「GNEXT」を、タイを中心に日立アジアを通じて提供してきた。今回のシンガポール拠点の設立によって、「GNEXT」を東南アジア各国で展開できる体制をつくった。こうした取り組みは、東南アジアの市場開拓に向けた第一ステップであり、今後、ビジネスが安定してきた段階で現地法人を設立することで、独立性をさらに強める計画だ。
アジア事業推進本部の三枝義典本部長は、「年間売り上げが10億円以上のレベルに達したら、現地法人を立ち上げる。2014年度までには実現したい」とロードマップを語る。日立グループは現在、東南アジアの事業戦略を固めている最中で、日立システムズは日立製作所などと緊密に連携し、共同ビジネスの可能性を探っていく。三枝本部長は、「例えば、日立製作所が獲得したメガバンク向けの大型案件で、当社はDCの構築・運用を支援するという、お互いの強みを生かす役割分担が考えられる」と述べる。
日立システムズのシンガポール拠点は、「GNEXT」の展開のほかに、中長期的な事業拡大を目指して、東南アジア各国の現地企業を相手にするビジネスモデルを検討している。ビジネスの対象をローカル市場に広げる方針だ。
【Chapter 4】セキュリティの事例
――トレンドマイクロ 日系企業の「クラウド」を守る

トレンドマイクロ
大三川彰彦
副社長 セキュリティメーカーのトレンドマイクロは、注力分野であるクラウドコンピューティングを切り口として、東南アジアで事業の拡大を推進している。
クラウド型のセキュリティサービスと、ユーザー企業のクラウドインフラをサイバー攻撃から保護するセキュリティの二つを商材として、東南アジアに進出した日系企業に向けて、海外でも日本国内と同じように利用することができるセキュリティ製品を提供する。
同社はこの6月、KDDIシンガポールと提携し、日本本社から各海外拠点のセキュリティを管理することができるSaaS型サービス「KDDI Business Security」の提供を開始した(日本国内では「ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス」として提供中)。
「KDDI Business Security」は、「管理サーバーを設置・運用する必要がない」「月額課金ができる」というクラウドのメリットを活用し、大きな投資をせずに海外オフィスで日本と同等のセキュリティを実現したいというユーザー企業のニーズに応えている。KDDIとの提携は、東南アジアでの事業拡大に向けた第一弾で、他の国でもパートナーの獲得に取り組んでいく。
東南アジアのビジネスの指揮を執っている大三川彰彦・副社長は、「今後、東南アジア各国で日系のパートナーとのアライアンスを強化し、今後1年間、東南アジア全体でクラウドサービスのユーザー企業を1000社に増やしたい」と意気込みを示す。ネットワークインフラの整備状況や日系企業の拠点配置を踏まえ、当面は、シンガポール、タイ、インドネシアに絞ってビジネスを展開する方針だ。
トレンドマイクロは、SaaSだけでなく、IaaS/PaaSの展開にも踏み切る。サーバーセキュリティなどの製品を活用し、サービス事業者がクラウドサービスを提供するデータセンター内のインフラを保護するために、パートナーとの協業に力を入れる。
【Chapter 5】ネットワークの事例
――ネットマークス ITインフラのパックを投入

ネットマークス
荒川滋
執行役員 日本ユニシスグループのネットワークベンダーであるネットマークスは、東南アジアで展開する新たな商材として、このほど、日系企業の海外拠点設立に必要なITインフラをワンストップで提供する「海外拠点立ち上げパック」を発売した。これは、ネットワーク機器やサーバー、パソコンなど、IT機器の調達から設置・保守までを一貫してネットマークスが行うパッケージサービスで、短期間で海外オフィスのITインフラを整備することができる。
ネットマークスは、1998年、インドネシアに初の東南アジア拠点を設け、現在、タイやフィリピンなど、東南アジア6か国に拠点を広げている(図3参照)。同社は、「海外拠点立ち上げパック」を発売したことに伴い、これまで個々に展開してきた日系企業向けの商材を体系化する。このパックを主軸に据えて、2014年度までに東南アジア事業の売り上げを2倍にする構えだ。
同社は、すでに新商材の提案活動を開始しており、例えばインドネシアでは、日本人向け媒体でビジネスパーソンに人気のホテルなどに置かれている『じゃかるた新聞』に、「海外拠点立ち上げパック」の広告を載せている。執行役員で東南アジアビジネスを率いる国際事業部の荒川滋・事業部長は、「現地の媒体に広告を出してから、日系企業からサンプルを送ってほしいとの問い合わせが増えてきた。これからは、広告出稿の頻度を週1回から週3回にして、案件の獲得につなげたい」と、積極的にユーザー企業のニーズに対応する姿勢をみせる。
ネットマークスは、東南アジア6か国に設けている各拠点を連携することによって、東南アジアの数か国に進出している企業に対して、「日本の品質」をキーワードに、どの国でも統一したサービスを利用することができることをアピールする。さらに、日系企業にとどまらず、東南アジアの現地企業もビジネスの対象とする方針で、「現地パートナーと組んで、例えばDaaSサービスなどのクラウド商材をローカルの企業に提供する」(荒川執行役員)と、中期的にビジネスの幅を広げていくことを計画している。
記者の眼 民主化への歩みによって、このところ東南アジア諸国のなかでもとくに注目を浴びているのはミャンマーだ。JETROは、「ミャンマーは今、建設とITの分野で需要が旺盛」とみて、IT事業者には、ビジネスチャンスが訪れているという。
東南アジアは日本のITベンダーにとって有望なマーケットではあるものの、競合がまったくいない「ブルーオーシャン」というわけではない。各国のIT市場では、日系や欧米系のベンダーがひしめくだけではなく、このところ、地場のITベンダーも力をつけてきた兆しがみえてきている。
そんな状況にあって、IT業界には「地場ベンダーがどんどん強くなって、2~3年後に、市場の勢力図がガラリと変わる可能性が高い」とみる関係者もいる。迅速に決断して、市場開拓に先駆者として取り組むことが、日本のITベンダーの勝ち抜く道だ。