アジア成長市場で、SIerのビジネスが広域化している。野村総合研究所(NRI)や新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)、DTS、電通国際情報サービス(ISID)といった大手SIerが相次いでASEAN地域への拠点を増強。アジアにおける活動エリアの広域化がより鮮明になってきた。地場市場へのIT商材販売や、オフショアソフト開発などの動きを追った。(取材・文/安藤章司)
●ASEANへの拠点開設が相次ぐ 
NSSOL
北村公一専務 大手SIerのASEAN市場への拠点開設が相次いでいる。野村総合研究所(NRI)は、今年1月にタイ・バンコクに、4月にはフィリピン・マニラにそれぞれ拠点を開設する予定だ。新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)とDTSは、3月をめどにタイに拠点開設の準備を進める。電通国際情報サービス(ISID)は4月にインドネシア・ジャカルタ拠点を開設するとともに、休眠中だったタイ・バンコク法人の事業を再開する方針だ。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループは、昨年までにタイとフィリピンの2拠点を開設済みだ。
これまでASEANといえば、シンガポールにオフィスを構える日系SIerが多かったが、最近はASEANの他の主要国でもビジネスを本格的に拡大していこうという意気込みを示す大手SIerが増えている。NSSOLの北村公一専務は、「アジアビジネスを推進していくにあたって、ASEANは中国と並ぶ重要市場だ」と宣言し、その具体的な動きとして、今年、主力のエンタープライズクラウドサービス「absonne(アブソンヌ)」をシンガポールの拠点で立ち上げた。続いて今年3月をめどにタイ・バンコクで営業拠点を立ち上げるとともに、「インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアへの展開も視野に入れていく」(北村専務)と強気だ。
ASEANの直近の人口をみると、ASEAN最大の人口をもつインドネシアが約2億4000万人、フィリピンが約9500万人、ベトナム約8900万人、タイ約6400万人、ミャンマー約6200万人、マレーシア約2800万人と続き、ASEAN10か国の人口はおよそ6億人の規模となる(図1参照)。1人あたりの名目GDPで比較しても、インドネシアの消費市場が加速度的に拡大するとされる3000ドルを超え、タイやマレーシアに続く有望市場として、注目を集めている(図2参照)。NSSOLの北村専務は、まさにこうした経済規模と成長可能性の大きさを念頭に置いて進出計画を練っているわけである。
●マトリックスで営業展開へ NSSOLの成長市場向けの戦略は明確で、まずITサービスを三つのレベルに分け、顧客セグメントごとに営業をかけていく。
・レベル1=メールやスケジュール、オンラインストレージなど「個人単位で最低限必要なITサービス」・レベル2=ウェブ会議、ワークフロー、勤怠管理、経費精算など「グループワークで必要なITサービス」・レベル3=ERP(統合基幹業務システム)に代表される財務会計、販売管理、生産管理、設備管理、営業支援システム(SFA/CRM)
──といった「業務要素ごとに必要なITサービス」の3分類がそれだ(図3)。
これを「既存顧客&親会社グループ」「新規日系顧客」「新規地場顧客」の三つに区分して、顧客セグメントごとにマトリックス的な営業を展開する。既存顧客やグループ企業に向けてはレベル1~3までフルサービスを展開し、日系新規顧客に向けてはまずはレベル1~2を提案。地場顧客はケース・バイ・ケースでさまざまなレベルからのアプローチをかける。すでに多くのユーザー企業から引き合いが来ているといい、「拠点展開を急ぐ必要が出てきた」(北村専務)と手応えを感じている。
広域化への課題を探る
五つのアプローチ方法を検証
SIerがアジア広域市場に向けて拠点展開するうえで課題となるのは、当座の売り上げの確保である。製品販売を主体とするメーカーなら、最初は代理店経由で商品を販売し、その後、ビジネスが継続できるめどが立った段階で現地に法人を立ち上げるという手法もとれる。しかし、マンパワーに頼るITサービスを主体とする情報サービス業は、このような事業展開が難しい。では、どうしたら効率よくビジネスを進めることができるのか。
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