2013年 IT業界のお・も・て・な・し
ここ数年続くIT業界4大キーワードの「クラウド」「ビッグデータ」「モバイル」「ソーシャル」は、2013年も健在だった。なかでもクラウドの進展はすさまじく、第一にパブリッククラウドを検討する“クラウドファースト”の流れは加速するばかりだ。そこで『週刊BCN』が今年のキーワードとして選出したいのが「CIer」(シーアイアー)である。クラウド時代の注目ワードとして、『週刊BCN』1499号で特集記事を組んだ。そのCIerを含む『週刊BCN』の注力分野を「お・も・て・な・し」でピックアップしてみよう。
●[お]――“オ”フショア開発の注目株、ベトナム
(『週刊BCN』2013年7月22日号 vol.1490 掲載) 日系ITベンダーのオフショア開発の発注先は、これまで圧倒的に中国であった。ところが、人件費の高騰や円安などの影響により、中国における従来型のオフショア開発は見直される傾向にある。そこで注目され始めたのが、ベトナムだ。人件費が安いだけでなく、勤勉な国民性も日系ITベンダーに評価されている。ただし、中国でのオフショア開発を単純にベトナムへと移行させるとは限らない。例えば、大手ITベンダーは「チャイナ・プラス・ワン」というスタンス。技術レベルや得意分野が限られるなど、中国の代替とするには無理があるという。
一方の中国では「量から質へ」「沿岸部から内陸部へ」「対国外から対国内へ」の3形態のシフトが同時に進行している。
そうしたなかで『週刊BCN』は「つくらない開発」についても注目してきた。ソフト開発自動化ツールである。オフショア開発問題の救世主となる可能性もある。
●[も]――“も”う3Kとはいわせない
(『週刊BCN』2013年12月2日号 vol.1508 掲載) IT業界を支えるのは“人”であることに間違いはない。ところが、IT業界では若手を中心に人材不足が問題になってきている。システム開発を担う各社から「案件はもういいから、人がほしい」という声を聞くようになった。
その背景にあるのが、システム開発の現場における「3K」(きつい・帰れない・給料が安い)のイメージである。このままでは優秀な人材を確保できない。この状況を打破すべく、ユニークな取り組みを実行するITベンダーが現れてきている。例えば、社員を感動させる「感動課」の設置、男女関係なく6年間の育児休暇制度、週4日勤務など。
「3K」の派生元は「3高」との説がある。3高とは「高学歴」「高収入」「高身長」を意味し、モテル男性の条件として、バブル経済の絶頂期に流行語となった。IT業界の「3K」も、プラスの意味で使われるようになってもらいたいものだ。
●[て]――“デ”ータサイエンティスト
(『週刊BCN』2013年9月2日号 vol.1495 掲載) ビッグデータ活用の重要性が認識されるようになってから、にわかに浮上したのが「蓄積したデータをどうやって活用するの? だれができるの?」という疑問。そこで表舞台に出てきたのが、「データサイエンティスト」だ。ビッグデータ関連への関心の高さは衰えるところを知らず、データサイエンティストへの注目度も高まる一方である。
ところが、データサイエンティストはITベンダーとユーザー企業の双方で不足しているという。これに便乗して“データサイエンティスト市場”が立ち上がり、育成講座や関連書籍などが次々と世に放たれている。
ただ「いまからで間に合うの?」という疑問が沸いてくる。データサイエンティスト不要をアピールする分析ツールも出ているが、ビッグデータ活用が本当に手軽になるのかどうか。ビッグデータ市場を含めて、2014年の展開に要注目だ。
●[な]――動き始めたマイ“ナ”ンバー制度
(『週刊BCN』2013年11月18日号 vol.1506 掲載) 「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)」「ネット選挙運動」「オープンデータ」。2013年は公共系のIT施策が一気に動き出した。いずれも数兆円の市場規模といわれ、IT業界には大きなインパクトをもたらすと期待されている。その注目度の高さは、マイナンバーとネット選挙が「2013 ユーキャン新語・流行語大賞」の候補50語に選出されたことからもうかがい知ることができる。
『週刊BCN』では特集や連載で繰り返し取り上げてきたが、なかでも注力したのは何かと話題のマイナンバー制度だ。最大の課題は人材不足である。総額2700億円とされるシステム開発の初期費用からも人材確保の難しさが推測できる。しかも、全国の公共団体で“いっせい”にシステム構築やシステム改修が行われる。全国で同時期に人材を確保しないといけないというわけだ。国はどう乗り切るのか。2014年も目が離せない。
●[し]――C(loud)Ierを目指せ
(『週刊BCN』2013年9月30日号 vol.1499 掲載) CIer(シーアイアー)とは、クラウドインテグレータ(Cloud Integrator)を指す。クラウドに特化したインテグレータである。例えば、アマゾンウェブサービス(AWS)やグーグルなどが提供する複数のクラウドサービスを組み合わせて最適なシステムを構築する。そこではフットワークの軽さとクラウドサービスを活用するための技術力が求められる。自社サービスや既存資産、システム構築の伝統などを抱えるSIerとは、そういった点で棲み分けがなされるというわけだ。
『週刊BCN』の特集記事では「SIerがシステム構築の大工さんなら、CIerはクラウド時代の料理人である」と表現した。その意図として、例を一つ。「設計図を基に作業を進める大工さん、材料を見て判断する料理人」。いかがだろうか。それはともかく、CIerとSIerの対比はIT業界の変化を把握するにあたって重要な視点となる。2014年も要注目のIT用語だ。
海外事情
●“おいしい巨大市場”中国 中国でITを売る──。日系IT企業にとって、中国での販売は簡単ではないけれども、“おいしい巨大市場”であることは間違いない。経済成長が続くなか、あらゆる業界がIT化のニーズであふれている。中国ITベンダーに加えて、グローバルITベンダーもしのぎを削る厳しい市場ではあるが、現地のニーズに応えることができれば勝機はみえてくる。企業ごとに細かなカスタマイズ対応をするという特異な日本市場を経験してきた日系IT企業にとって、むしろアドバンテージがあるといえるだろう。現地のニーズをうまく吸い上げてきた富士通は、中国事業の売り上げを現在の1000億円強から、5000億円に引き上げることを目標としている。
●“起業バブル真っ最中”米国 空前の好景気に沸く、サンフランシスコとシリコンバレー。なかでもサンフランシスコ市内のソーマ(South of Market)と呼ばれる地域は、5000を超えるともいわれる多くのスタートアップ企業が軒を並べ、成功を夢見る若者たちでにぎわっている。さながら起業バブルだ。
しかし、IT業界としては手放しでは歓迎できない面がある。スタートアップ企業の多くは、スマートフォン向けのアプリを開発していて、エンタープライズ分野にはまったく興味をもっていないからだ。彼らには、シリコンバレーの企業はもはや“レガシー”であるという。とはいえ、コンシューマ分野で普及したものが、エンタープライズ分野に波及するにはよくあるケース。2014年にはその流れがみえてくる。
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