東急百貨店 オムニチャネル化への第一歩
──公式アプリで『百貨店を手のひらに』

営業政策室 顧客政策部 顧客政策担当 須崎直哉課長 東急百貨店は、昨年4月、オムニチャネル化への第一歩として『より楽しく、より便利に』をコンセプトとするスマートフォン向け公式アプリ「東急百貨店」をリリースした。アプリは利用者から好評を博し、1年間で1万ダウンロードとの目標を掲げたが、3か月前倒しで達成したという。公式アプリの導入を推進した東急百貨店 営業政策室 顧客政策部 顧客政策担当の須崎直哉課長にオムニチャネルに取り組んだ背景や、今後のあり方などについて聞いた。
──公式アプリ「東急百貨店」に取り組んだきっかけを教えてください。 須崎 買い物風景の変化がきっかけでした。スマートフォンを見ながら買い物をしているお客様が増えたのです。見ているのはメールやソーシャルメディア(SNS)かもしれませんが、とにかく増えました。2012年にできた渋谷ヒカリエで東急百貨店が運営している「ShinQs(シンクス)」というショッピングエリアでは、その傾向が強く出ていました。それをみて、スマートフォンを中心とするサービスを始めようと考えたのは、自然な流れでした。
──オムニチャネルではなく、スマートフォンで何かをしたいというのがきっかけでしたか。 須崎 コンセプトは「より楽しく、より便利に」で、スマートフォンをコミュニケーションの入り口にしたいと考えました。アプリ上では、クーポンやチラシのほか、ツイッターとの連携による最新情報を提供しています。また、フロアガイドや営業時間の紹介、東急百貨店のネットショップなどにも対応しています。
楽しさを体感できるように、操作性にもこだわっています。アプリではクーポンが人気なのですが、利用時には「クーポンをもぎる」というリアルな操作感を実現しています。ツイッター上に掲載した「店内の最新情報」とも連携していて、写真の見せ方を工夫しながら、かわいいもの、おいしそうなものを掲載しています。
──小売業界では、ショールーミングが話題になっていますが、どうお考えですか。 須崎 お客様がショールーミングに向かうのであれば、それをチャンスとしてとらえて方針を練るべきです。避けたいのは、お客様が購入される時に他社のネットショップへ行ってしまわれること。せめて、自社のネットショップで買っていただきたい。そのための取り組みは必要になりますね。
──オムニチャネルでは、顧客情報や商品情報の一元化、店舗間連携といったバックエンドのシステムも見直しが必要かと思いますが……。 須崎 データの一元化は、やはり大変な作業になります。ゼロからつくるアプリは、しがらみがないぶん、構築から導入までのスピードが速い。それが基幹システムにまで影響が出るとなれば、時間がかかるし、コストも大きくなってしまいます。そのため、バックエンドの部分はフロントエンド部分を整備してからになりますね。まずはお客様との接点を整備することが重要ですから。
──今後、どのような展開が考えられますか。 須崎 お客様のライフスタイルにオムニチャネルが根づいてくると思いますが、その変化に東急グループとしてどう対応できるのか。東急電鉄や東急ストア、TOP&カードなど、グループ各社が公式アプリを出しているので、そこと連携したいですね。駅や電車の中もコミュニケーションの場になるようなグループ全体のオムニ化が実現できると思います。
記者の眼
「すべてのITはオムニ化に向かう」。そう仮説を立ててみると、あれもこれもしっくり納まるではないか。
クラウドが注目されると、パブリッククラウドやプライベートクラウドが出てきて、それをまとめるハイブリッドクラウドやマルチクラウドが使われるようになった。行き着く先は、クラウドを高度に抽象化した「オムニクラウド」となる。パソコンにスマートフォンやタブレット端末などが加わってマルチデバイスとなったが、その先はデバイスをユーザーに意識させない「オムニデバイス」となる。
まだある。オンショア開発とオフショア開発、ニアショア開発、そして「オムニショア開発」。アウトソーシング、インソーシング、そして「オムニソーシング」。シングルメディアからマルチメディア、クロスメディアになって、「オムニメディア」。自治体、電子自治体、そして「オムニ自治体」。もともとは小売業界で脚光を浴びた「オムニ」というワードだが、IT分野を見通すにあたって、意外なヒントを与えてくれそうだ。