中小ITベンダーの下克上
ユーザー目線でチャンスをつかむ
前出の市進ホールディングス(市進HD)の事例では、アイ・ティ・フロンティアがソフト開発の自動化ツール「GeneXus」をテコに、天下のメインフレーマーを覆す下克上を演じた。実はこれと同じようなことが、さらに小さい会社によって成し遂げられているのだ。沖縄のジャスミンソフトは、ソフト開発の自動化ソフト「Wagby(ワグビィ)」を開発しており、このツールがベネッセホールディングスのグループ会社で、大手BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスベンダーのTMJに採用されたのだ。
●根強い内製化ニーズに応える 
TMJ
清水利幸
室長 沖縄のジャスミンソフトの「Wagby」は、ウェブアプリケーションの開発に特化した自動化ツールで、プログラミングを一切行うことなくアプリを自動生成するものだ。実はTMJにも、市進HDと同様、内製化のニーズがあった。TMJで情報システムを担当する清水利幸・企画開発室長は、「Wagbyならば、限られた人員しかいない当社の情報システム部門でも、自分たちがほしいアプリをその場でつくることができる」と採用を決断。TMJが情報システムの内製化に大きく踏み出すきっかけとなった。
TMJは、BPO事業の一環としてコンタクトセンターを運営している。コンタクトセンター業務を委託するユーザーのうち、IT投資の余力が大きい大手は自前で顧客管理システムなどを用意するケースが多いが、そうでないユーザーはTMJ側で対応する必要がある。例えば、小規模なネット通販を手がけるユーザーがTMJにコンタクトセンター業務を委託したときは、市販の表計算ソフトに必要項目を入力してユーザーに渡したり、あるいは電話で聞き取った内容を清書し、FAXでユーザーに送るなどの方法が残されていた。

TMJ
清水昌也 氏 表計算ソフトの場合は、必ず入力しなければならない項目を見落としたり、FAXでは清書するときに転記ミスが起こったりする恐れがある。システム開発担当のTMJ競争力開発部の清水昌也氏は、「アナログ(電話)→デジタル(ワープロで清書)→アナログ(FAX)といったデジアナ変換を繰り返す手法は、さすがに時代にそぐわない」と、強い課題意識をもっていた。そこで目をつけたのが、プログラムを自動生成する自動開発ツールである。
「GeneXus」と「Wagby」、キヤノンソフトウェアの「Web Performer(ウェブパフォーマ)」が三大自動化ソフトといわれるなかで、TMJの場合は比較的小規模なウェブアプリをスピーディにつくるのが目的だったことから、「Wagby」を選んだ。自前で顧客管理などのシステムをもたないユーザーからコンタクトセンター業務を受注したときは、Wagbyで素早くアプリをつくり、ミスを誘発しやすい表計算ソフトやデジアナ変換作業をなくしていく。また、メーカーのリコール対応時など緊急性の高い業務を受託したときにも、数日で簡単な業務アプリを「Wagby」でつくった。対応の早さに驚いた顧客からは「“さすがTMJ”と高く評価された」と鼻高々だ。
●「手直しコスト」を大幅に削減 
ジャスミンソフト
贄良則
代表取締役 ソフト開発の自動化ツールを使うことで削減されるコストも見逃せない。TMJはWagbyを使って最初にアプリを開発した2012年頃はおよそ15%の開発費を削減できた。コンタクトセンターでは、似たようなBPO業務を別の顧客から受注することも少なくないので、以降、共通度が高いBPO業務について、「以前にWagbyでつくったアプリをベースに手直しすることで対応するパターンでは、開発コストを半分に減らすことができるようになった」(TMJの清水室長)と話す。一部、Wagbyを使えるSIerに開発を委託することはあるが、基本的にはWagbyによって内製化し、中身がわかっているので、手直しもやりやすい。従来のような、SIerに丸投げでは、「最初につくるときはもちろん、手直しするごとにコストがかさんでしまう」と、Wagby開発元の贄良則代表取締役は話す。
前ページで紹介した市進HDでも、開発費削減効果は顕著に現れている。市進HDが採用したGeneXusは、開発コストが10分の1になるという触れ込みではあるものの、「これは、あくまでも製造工程(コーディング)に限ったことで、プロジェクト全体がここまで安くなるわけではない。それでも投入した人月ベースでは半分に減らすことができた」(市進HDの今林室長)と、効果のほどを明かす。
とはいえ、自動化ツールにはそれなりの課題もある。ソフト開発の自動化ツールは、自動生成されたプログラムソースコードに手を加えることはできない。ジェネクサス・ジャパンの堀口一雄・営業部マネージャーは「自動生成されたソースコードに、人の手を入れることは、GeneXusの使用を取りやめるのと同義」と、シビアだ。
例えば、実際に開発された業務アプリを使うユーザー部門から、「ユーザーインターフェース(UI)が使いにくい」というクレームが来た場合であっても、ソースコードを手直しすることはできない。UIを変更するオプション機能などを活用しつつ、あくまでもGeneXusならGeneXus、WagbyならWagbyを使ってUIを自動生成させていかなければならない。つまり、一度採用したツールは、そのアプリが完成するまで、そのツールに頼って開発しなければならず、そもそもツール活用に適した業務アプリかどうかの見極めがポイントになる。市進HDは、基幹業務システムこそGeneXusでつくったが、独自色の極めて強い成績の採点システムは従来型の手法でつくり込んでいる。
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