ソフトウェア開発の潮流が変わろうとしている。手組みのプログラミングを極力排除し、業務ロジックの記述のみでアプリケーションを生成する動きが本格化してきた。これまでの手組みのソフト開発のボリュームが一気に縮小する可能性もある。変革の火つけ役になっているのは、スマートデバイスの業務活用が急ピッチで進んでいる状況だ。スマートデバイス用アプリでは「つくらない開発」「納めない開発」があたりまえになる日も近い。ソフト開発最前線で何が起きているのかをレポートする。(安藤章司)
ソフト開発を巡っては、国内市場の成熟化で手組みのスクラッチ開発そのもののボリュームが伸び悩んでいることに加えて、中国/ASEANでの海外オフショアソフト開発との兼ね合いで国内での単価抑制の圧力が高まっている。さらに、クラウドとスマートデバイスの業務での活用の進展でソフト開発の簡略化が進むなど、大きな変化が起こっている。
コンシューマ市場では、パソコン用ソフトが数千円の価格なのに対し、スマートデバイス用ソフトの主要価格帯は数百円。コンシューマライゼーションの流れのなかで、業務で使うスマートデバイス用ソフト開発の相場も、パソコン用に比べて「ケタが一つ少ない金額」(SIer幹部)であり、納期も短い。従来のように手組みでつくっていたのでは、到底、金額も納期も合わないのは必至だ。そこで、ソフト開発の自動化、すなわち「つくらない開発」に注目が集まる。
ソフト開発のモビラスは、プログラミングなしでスマートデバイス用ソフトを開発するツール「AppExe(アペックス)」を独自に開発した。業務用途で使うスマートデバイスアプリのほとんどが、既存の業務システムから情報を呼び出して活用されることに着目し、インターフェース部分のみを自動生成することに特化した。既存業務システムとのつなぎ込みは個別開発が必要だが、「アプリそのものは、その場でプロトタイプの開発が可能」(宮田明社長)にした。iOSやAndroidなど複数のOS対応のアプリを自動生成してくれるのも、開発側にとっては助かる。
ソフト開発自動化の老舗ベンダーであるジェネクサス・ジャパンや、沖縄のジャスミンソフトもスマートデバイスに大きな商機を見出そうとしている。ソフト開発の自動化には、いくつかの手法がある。最もラジカルなケースは、「プログラムは一切つくらない」(大脇文雄社長)というジェネクサス・ジャパンのようなベンダーだ。業務で使うシステムは、究極的には伝票の受け渡しであり、ゲームソフトのような独創性は求められていない。ジェネクサス・ジャパンは、業務システムに特化するかたちで、業務ロジックをいわゆる「ジェネクサス言語」と呼ばれる業務特化型言語で記述し、これをもとにパソコンとスマートデバイスなどの各種OSに対応したアプリを生成する。
ジャスミンソフトが開発する「Wagby(ワグビィ)」も、ジェネクサス同様に、業務特化型の簡易言語によるノンプログラム派のツールだが、ウェブアプリケーションの自動生成に特化しているのが特徴だ。業務アプリの主流はウェブ型であることを踏まえて、「スマートデバイス時代でも、業務アプリは維持運用コストの割安なウェブ型が主流になる」(贄良則代表取締役)との考えにもとづく。ソフト開発の自動化の追い風を受けるかたちで、230社あまりのユーザーを獲得。向こう2~3年で1000ユーザー規模への拡大を見込む。
SIer最大手のNTTデータは「試験」「製造」「設計」「現行分析」の四つの分野での自動化をトップダウンで推進しており、昨年度(2013年3月期)は前年度比1.5倍余りの160件にこれらの自動化を適用し、今年度は218件程度に増やす見込みだ。年間数千件ともいわれる同社のプロジェクトのなかで考えれば、適用件数はまだわずかな割合に過ぎないが、「ソフト開発のカルチャーそのものが変わることの意義は大きい」(岩本敏男社長)とみており、業務改革の一環として取り組む。
例えば、スマートデバイス向けアプリのノンプログラミング化が進むと、アプリの価格は劇的に安くなる。極端な話、要件定義から始まってプログラムを書き終え、テストするまで3か月、300万円かかっていたアプリが3日でできるようになれば、翌週の販促キャンペーン用のスマートフォンアプリを数万円でつくることも可能だ。手直しも容易なので、「つくらない開発」と「納めない開発」の両立もできる。
業務システムがオフコンからパソコンへと変化してきたように、スマートデバイス対応はもはや避けようのない流れだ。スマートデバイス特有の低価格、短納期への対応必要性から自動化手法の採用が進むのと並行して、既存のシステム領域へも拡大していくことも十分に考えられる。
この先、NTTデータのようにトップダウンで自動化を推進する動きも本格化していくものとみられる。
【ツールベンダーの収益構造】
変わるビジネスモデル 収益の安定化は開発者にもメリット
ソフト開発自動化の要となるのが開発ツールだが、実はソフト開発のおよそ40年の歴史のなかで、ツールベンダーが儲かったという事例は残念ながらほとんどない。開発者人口が増えたとはいえ、「つくる人」と「使う人」では、圧倒的に「使う人」の方が多く、開発ツールのユーザーである「つくる人」は限られているからだ。つまり、需要が一巡してしまうとツールベンダーはとたんに売り上げが伸び悩み、新しい技術開発への投資が滞ってしまう悪循環に見舞われてきた。
開発者であるSIerの視点でみると、開発ツールが行き詰まるリスクは無視できず、ツールへの依存度を高めることへの抵抗感はぬぐい難い。実行環境であるランタイム環境を必要とするツールなら、この環境に依存するアプリの継続開発は困難になるし、ツール特有の業務特化型言語もムダになってしまう。こうした課題を克服すべく、モビラスでは開発したアプリを自前のサーバー上で運用する方式を採用した。アプリを使い続ける間、運用サーバーの使用料を課金する方式で、単なるツールの売り切りではない収益構造を構築。こうすることで安定した収益源を確保し、ツールの継続的な開発を可能にする取り組みだ。
ソフト開発の自動化による工数削減は、プロジェクトの金額規模の減少を意味しており、そのままではSIerの売り上げは減少する。理論的には売り上げが3分の1に減っても、5倍の案件を獲得すれば、売り上げはむしろ増える計算になる。だが、これを成し遂げるには営業体制の見直しなど大がかりな組織改変を余儀なくされる。ツール活用のリスクとともに、SIerそのものもビジネス上のリスクを抱えるのがソフト開発の自動化の別の側面でもある。こうした課題を乗り越えれば、次の成長がみえてくるはずだ。